偽りの聖女~裏切られた王妃は真実に目覚めました。~

雪月華

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本編

子供のいる情景

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 青々とした芝生の上で子供たちがはしゃぎ回り、子犬とじゃれ合っている。

 庭に天幕が張られ、その下にセッティングされたテーブルには、真っ白なテーブルクロスが掛けられている。
 近くの湖で獲れた新鮮な魚料理、森の幸の木の実やきのこ料理、何種類もの鳥獣の凝った肉料理、彩り豊かな豪華な料理が並べられ、上等な葡萄酒もふんだんに用意された。
 召使いの給仕する中、楽師たちの演奏する曲が流れ始める。

 離宮の野外パーティに招かれたのは、王と王妃の他、王姉とその夫と子供、古くから王家に仕える側近とその家族という、ごく内輪なものだ。
 上王と王太后もここでは孫たちに囲まれて、穏やかで愛情深き祖父母の顔をしている。

 リリアーヌは赤い髪を編み込みにして結い、新緑のドレスを着ている。
 華奢で清楚な雰囲気は、王妃になってからも変わらない。
 なごやかに王太后や義姉たちと歓談し、子供たちに微笑みかける。

 狩りでは勇猛だった猟犬も、御馳走のおこぼれを期待してテーブルの下にうずくまっている。
 時々リリアーヌが、こっそりと肉のかけらを犬に与えているのを上王が気づいた。

「リリアーヌや、よかったら王宮に帰る時に、わしの自慢の猟犬が産んだ子犬をあげよう。好きな仔を選ぶといい」
「まあ、ありがとうございます。上王陛下」
「ここは家族ばかりの席だ、義父と呼んでおくれ」

 デザートの後で、ジェレミーはリリアーヌを散策に誘った。
 皆は、そんなふたりを微笑ましく見守っている。

 ジェレミーの誘いに、少しだけ戸惑いを見せたリリアーヌだったが、素直に応じた。リリアーヌが席を立つと、ニコラが日傘を渡した。


 木々を渡る爽やかな風が吹く。
 丘の上の離宮から見下ろせば、木立に囲まれた湖が陽射しを受けて輝いている。

「昔を思い出すね。リリアーヌと旅をしていた時、ここで野営をしたことがあった。まだ離宮は建ってなくて」
「そうね。あの湖畔に騎士たちが天幕を張ってくれた。天幕の中に蛇が入って来た時は、びっくりしちゃったけど」
「僕が短剣で蛇を刺したら、君がものすごい悲鳴を上げたんだ。ニコラが、あわてて蛇を外に捨てに行ったっけ」

 昔話に思わず、ふふっと笑うリリアーヌだったが、その金色の瞳は遥か遠くを見ていて、夫の方へは向かない。

 ジェレミーはふと、なぜニコラは国境で生き残ったのだろうと疑問に思った。
 先程聞いた話によれば、父の配下はリリアーヌ以外殺すように命じられていたはず。

(おそらく、まだ子供だったニコラを殺すのが忍びなかった、そんな理由だろう)

 そう考えて、ジェレミーはその疑問をすぐに忘れた。

(それより、今はリリアーヌの心の隔たりを埋めなければ……)

「もう一度、やり直せないだろうか。あの頃の仲の良かった僕たちに免じて。僕がしてしまったことは、取り返しがつかないけれど」
「ジェレミー、変わってしまったのはあなたよ。私から距離を取ったのも……」
「僕たちは大人になったんだ。でも、リリアーヌが僕にとってかけがえのない女性であることは変わらない。昔も今も。
 傷つけてしまったことは、謝る。どうか――」

 ひざまずいて、リリアーヌの手を取るジェレミー。
 ふたりの様子を遠くから見ていた子供たちから、歓声が起こる。

「すぐに許して欲しいとは言わない。でも、僕たちはきっと歩み寄れるはずだ。今まで君と過ごした月日は、決して軽いものじゃない。
 ――そうだ、リリアーヌが欲しいものを、教えてくれないか。ドレスでも、宝石でも。なんならここの離宮のような宮殿を建ててもいい。君の名前を付けて」

 ジェレミーの急な態度の変化について行けず、リリアーヌは困惑する。
 そんな妻の様子に焦って、さらにジェレミーは言い募る。

「今朝の狩りで見事な黒貂を仕留めたんだ。
 僕がまだ王子だった時に、君にプレゼントした黒貂のマフラーよりずっと立派な。
 あの毛皮を使って君の冬のドレスを仕立てさせよう。希少な海の宝石を取り寄せて散りばめてもいい。きっと温かで素晴らしい衣装が出来る」

 この国がまだとても貧しかった時、ジェレミーは自ら獲った黒貂の毛皮でマフラーを作り、リリアーヌに贈ったことがある。
 それは寒い地方を旅する間中、彼女の襟元に巻かれた。そのマフラーがボロボロになっても、リリアーヌは捨てずに大事にしていた。

 ジェレミーはそのことを思い出して、妻を喜ばそうと黒貂のドレスの提案をしたのだけれど――。


 子供たちが笑いながら駆けて来て、ふたりに野の花を摘んで作ったお手製の花冠や花束を差し出した。

「私が欲しいのは……幸せな、家族――?」

 リリアーヌは、まぶしそうに子供たちを眺めた。 
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