18 / 40
本編
銀髪の枢機卿
『大いなる……を目覚めさせてはならぬ』
主神フレイアの像から、この世のものと思えぬほど美しい声が発せられ、リリアーヌに語りかけた。
聞き取れない部分の言葉は、人が発音できない言語で、風が唸るような音に近い。
圧倒的な存在感が礼拝堂を満たし、足元の水は波だつ。
そして先程まで聞こえていた、水底から呼ぶ声はピタリと消え去った。
「神よ――」
リリアーヌは主神フレイアの降臨に怖れおののき、その場に跪いて両手を前に組んだ。
『そなたは、大いなる……の祭司ラグランジュの最後の末裔。ラグランジュ一族がこれまでして来たように、海底の廃墟に封じられた……の呼ぶ声に応えてはならぬ』
神像の光が消えかかり、神が去っていくのを感じる。
「私はあなたの聖女です。どうすればいいのか教えてください!」
『いずれ重要な選択をする時が来る。その時、我が言葉を思い出すがいい――』
「お待ちください、選択とは! 何を選べば……」
神の気配は完全に消え去り、静寂が訪れた。
あっという間の出来事だった。
神の言葉は一方的で、意味不明。
呆然とするリリアーヌだったが、
「聖女さま、しっかりしてください」
いつの間にか修道女が水槽の中に来ていて、膝をついている聖女の肩を揺さぶっていた。
リリアーヌはゆっくりと視線を移し、修道女と目を合わせる。
「あ……今のは、いったい?」
「分かりません。聖女さまの様子が、急におかしくなられて」
「神の声が、あなたにも聞こえなかった?」
「ええっ、神託を受けられたのですか!? すぐに上の者に知らせなければ」
リリアーヌはもとの礼装ドレスに着替えさせられ、慌ただしく別の場所に連れて行かれる。
豪奢な調度が置かれた応接室で待たされている間、ニコラが心配しているだろうと気になり始めた。
誰かに言伝してもらおうと、天鵞絨張りの長椅子から立ち上がった時、部屋の扉が開いて一人の高位聖職者が入って来た。
「お待たせいたしました、聖女さま」
黒の長い祭服の上に袖のゆったりとした膝までの上着、枢機卿だけが身に着けられる紫の外套を着た壮年の男。
「私は、ペドリーニ枢機卿です」
白銀の髪に菫色の瞳、容姿端麗、まるでエレオニーを男性にして、もっと冷徹に、知的で忍耐強く年を重ねたような風貌の人物だった。
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。