偽りの聖女~裏切られた王妃は真実に目覚めました。~

雪月華

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本編

裁きの日 2

 
 
 遠くの方から雷鳴が聞こえ始め、やがてポツポツと雨が降り出した。

 教皇の命により、川下に聖女たちを捜索に向かった聖騎士たちは、スケルトンを追い払い、蹴散らしながら仲間と合流するために戻って来た。

「早く、城門へ! 王宮の中に逃げるんだっ」

 聖騎士たちは、逃げ惑い右往左往している群衆に呼びかける。

 スケルトンたちの身体はもろく、何の武器も防具も持っていない。
 聖騎士たちは、教皇によって聖別された長剣ロングソード鎚矛モーニングスターランスなどそれぞれの武器で戦う。

 けれど多勢に無勢、次第に城門前近くまでスケルトンの軍勢に押され、追い詰められていく。

 そこへ、城壁の上から衛兵による弓矢の援護射撃が来た。
 彼らは城壁頂部にある、小塔の衛兵詰所にいた当番兵たちだ。

 城壁の上にいた兵たちは、見晴らしの良いこの場所から、聖女の神判を眺めていた。
 やがて川に異変が起こり、人々がスケルトンから逃げて城門に殺到するのを見て呆然とする。

 百戦錬磨の衛兵隊長は、鋼のような声で衛兵たちに渇を入れるように命じた。

死霊系魔物アンデット・モンスターが射程圏内に入ったら、聖騎士の援護射撃をする! 民を守れ!」

 スケルトンたちの頭上に弓矢が降り注ぎ、足止めする。
 聖騎士たちは倒れた仲間に肩を貸し、また残された人々を誘導して自分たちも城門へ向かう。

 城壁の外堀には川から水が引いてあり、敵の侵入を防ぐために跳ね橋が掛っていた。

 教皇とエレオニーは、群衆に混じって跳ね橋を渡り、城門から城壁に守られた王宮の内側に入る。

 押し合いへし合いされながら、ようやく城門を潜り抜けた教皇は、城壁の上の歩廊で部下を指揮する衛兵隊長を見つけた。

「そこの兵士! 今すぐ跳ね橋を上げなさい! このままでは死霊系魔物アンデット・モンスターが王宮内に雪崩れ込んでしまう!」
「いや、まだ大勢の人が城門の外にいるんだ。
 聖騎士団も戦っているし、俺たちも援護している。
 今、跳ね橋を上げるのは、あの人たちを見殺しにすることになるぞ!」
「ちょっとあなたっ、いますぐ教皇聖下の言う通りにしなさい! 縛り首にされたくなければ、跳ね橋を上げるのよ!!」

 教皇の隣にいたエレオニーが、衛兵隊長に向かって権威を振りかざして怒鳴りつける。
 衛兵隊長は王の寵姫に脅されると仕方なく、跳ね橋を上げるよう指示しようとした。

 するとそこへ。

「衛兵隊長、跳ね橋はそのままだ! 余の民を助けよ!」

 ジェレミーが近衛騎士とともに、王宮に戻って来た。

「王さまだ! 俺たちの王さまが来てくれた!」

 事の成り行きを見守っていた人々から、歓声が上がる。

「陛下、なに寝言っているのよ?
 あのおびただしい死霊系魔物アンデット・モンスターが見えないの!?
 あれがここに入ってきたら、この国は終わりなのよ!」

 エレオニーは、ジェレミーのドレスシャツを掴んで、わめいた。
 これまで大人しやかにしていたエレオニーの豹変ぶりに、ジェレミーは呆気に取られる。

「エレオニーの言う通りです。私の聖騎士たちも、もう戦う力は残ってない。ここは籠城して、援軍を待つしかないでしょう。
 大事の前に小事はささいなこと。陛下どうか、ご英断を」
「し、しかし」

 目を吊り上げて迫ってくる教皇とエレオニー。
 ジェレミーがたじたじになり、思わず半歩後ろに下がる。

「毒婦が王さまに逆らっているぞ!」
「教皇さまは、俺たちを助けるつもりがないんだっ」

 その様子を見ていた群衆が、この事態の怒りの矛先を教皇とエレオニーに向けた。

「聖女リリアーヌさまを殺したのは、あの教皇だ!」
「あいつのせいで、スケルトンどもが襲って来たんだ!」
「そうだ、お前たちのせいだっ」
「俺たちから聖女さまを奪ったから、こんなことに!」
「お前たちこそ、城門の外へ出て行け!」

 人々が暴徒となって、教皇たちに襲い掛かる。
 教皇を守るべき聖騎士は、ここにはひとりもいない。

「待てっ、やめろ! 私を誰だと思っている――っ」
「やだ、放しなさいよ!」

 もみくちゃにされる二人を、ジェレミーが助けようとする。

「おい、エレオニーを救え!」

 王が近衛騎士に命じると、彼は仕方なくエレオニーを群衆から救い出した。
 しかし教皇は暴徒に囲まれていて、彼一人ではどうにもならない。

 そこへ、ついに城門から死霊系魔物アンデット・モンスター達が、雪崩れ込んできた!

「余の民たちよ、王宮の礼拝堂へ逃げるのだ! 聖域ならば、死霊系魔物アンデット・モンスターも入って来られまい」

 ジェレミーが叫ぶと、人々は一斉に王宮礼拝堂目指して、逃げ始めた。

「ああ、お父さまっ、誰か! お父さまを助けてっ」

 エレオニーが、教皇の倒れている方へ行こうとするのを、ジェレミーが止めた。

「そなたも、礼拝堂へ逃げるんだ!」
「いやっ、放して」

 腕を引かれて走りながら、エレオニーは後ろを振り返る。

 教皇の倒れていた辺り一面を、白いスケルトンの群れが波のように、押し寄せて来るのが見えた。

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