34 / 40
本編
裁きの日 2
遠くの方から雷鳴が聞こえ始め、やがてポツポツと雨が降り出した。
教皇の命により、川下に聖女たちを捜索に向かった聖騎士たちは、スケルトンを追い払い、蹴散らしながら仲間と合流するために戻って来た。
「早く、城門へ! 王宮の中に逃げるんだっ」
聖騎士たちは、逃げ惑い右往左往している群衆に呼びかける。
スケルトンたちの身体はもろく、何の武器も防具も持っていない。
聖騎士たちは、教皇によって聖別された長剣、鎚矛、槍などそれぞれの武器で戦う。
けれど多勢に無勢、次第に城門前近くまでスケルトンの軍勢に押され、追い詰められていく。
そこへ、城壁の上から衛兵による弓矢の援護射撃が来た。
彼らは城壁頂部にある、小塔の衛兵詰所にいた当番兵たちだ。
城壁の上にいた兵たちは、見晴らしの良いこの場所から、聖女の神判を眺めていた。
やがて川に異変が起こり、人々がスケルトンから逃げて城門に殺到するのを見て呆然とする。
百戦錬磨の衛兵隊長は、鋼のような声で衛兵たちに渇を入れるように命じた。
「死霊系魔物が射程圏内に入ったら、聖騎士の援護射撃をする! 民を守れ!」
スケルトンたちの頭上に弓矢が降り注ぎ、足止めする。
聖騎士たちは倒れた仲間に肩を貸し、また残された人々を誘導して自分たちも城門へ向かう。
城壁の外堀には川から水が引いてあり、敵の侵入を防ぐために跳ね橋が掛っていた。
教皇とエレオニーは、群衆に混じって跳ね橋を渡り、城門から城壁に守られた王宮の内側に入る。
押し合いへし合いされながら、ようやく城門を潜り抜けた教皇は、城壁の上の歩廊で部下を指揮する衛兵隊長を見つけた。
「そこの兵士! 今すぐ跳ね橋を上げなさい! このままでは死霊系魔物が王宮内に雪崩れ込んでしまう!」
「いや、まだ大勢の人が城門の外にいるんだ。
聖騎士団も戦っているし、俺たちも援護している。
今、跳ね橋を上げるのは、あの人たちを見殺しにすることになるぞ!」
「ちょっとあなたっ、いますぐ教皇聖下の言う通りにしなさい! 縛り首にされたくなければ、跳ね橋を上げるのよ!!」
教皇の隣にいたエレオニーが、衛兵隊長に向かって権威を振りかざして怒鳴りつける。
衛兵隊長は王の寵姫に脅されると仕方なく、跳ね橋を上げるよう指示しようとした。
するとそこへ。
「衛兵隊長、跳ね橋はそのままだ! 余の民を助けよ!」
ジェレミーが近衛騎士とともに、王宮に戻って来た。
「王さまだ! 俺たちの王さまが来てくれた!」
事の成り行きを見守っていた人々から、歓声が上がる。
「陛下、なに寝言っているのよ?
あのおびただしい死霊系魔物が見えないの!?
あれがここに入ってきたら、この国は終わりなのよ!」
エレオニーは、ジェレミーのドレスシャツを掴んで、わめいた。
これまで大人しやかにしていたエレオニーの豹変ぶりに、ジェレミーは呆気に取られる。
「エレオニーの言う通りです。私の聖騎士たちも、もう戦う力は残ってない。ここは籠城して、援軍を待つしかないでしょう。
大事の前に小事はささいなこと。陛下どうか、ご英断を」
「し、しかし」
目を吊り上げて迫ってくる教皇とエレオニー。
ジェレミーがたじたじになり、思わず半歩後ろに下がる。
「毒婦が王さまに逆らっているぞ!」
「教皇さまは、俺たちを助けるつもりがないんだっ」
その様子を見ていた群衆が、この事態の怒りの矛先を教皇とエレオニーに向けた。
「聖女リリアーヌさまを殺したのは、あの教皇だ!」
「あいつのせいで、スケルトンどもが襲って来たんだ!」
「そうだ、お前たちのせいだっ」
「俺たちから聖女さまを奪ったから、こんなことに!」
「お前たちこそ、城門の外へ出て行け!」
人々が暴徒となって、教皇たちに襲い掛かる。
教皇を守るべき聖騎士は、ここにはひとりもいない。
「待てっ、やめろ! 私を誰だと思っている――っ」
「やだ、放しなさいよ!」
もみくちゃにされる二人を、ジェレミーが助けようとする。
「おい、エレオニーを救え!」
王が近衛騎士に命じると、彼は仕方なくエレオニーを群衆から救い出した。
しかし教皇は暴徒に囲まれていて、彼一人ではどうにもならない。
そこへ、ついに城門から死霊系魔物達が、雪崩れ込んできた!
「余の民たちよ、王宮の礼拝堂へ逃げるのだ! 聖域ならば、死霊系魔物も入って来られまい」
ジェレミーが叫ぶと、人々は一斉に王宮礼拝堂目指して、逃げ始めた。
「ああ、お父さまっ、誰か! お父さまを助けてっ」
エレオニーが、教皇の倒れている方へ行こうとするのを、ジェレミーが止めた。
「そなたも、礼拝堂へ逃げるんだ!」
「いやっ、放して」
腕を引かれて走りながら、エレオニーは後ろを振り返る。
教皇の倒れていた辺り一面を、白いスケルトンの群れが波のように、押し寄せて来るのが見えた。
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。