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結界

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 王都東の城壁の等間隔に建築されている方形の塔の頂上の窓から望む眼下には、中央の丘の上にある白亜の宮殿と荘厳な神殿、丘のすそ野に整然とした石造りの街並みが広がっていた。

 エステルはフェリシア姫の供をして、この城壁の塔の一つに来ていた。

 塔の頂上には、それぞれ巨大な魔石が設置されている。
 塔の警備隊長とお付きの者達に見守られながら、姫は真剣な眼差しで、この部屋の中央に置かれた台座の上の巨大な魔石に魔力を流し込んでいく。

「姫さま、一定量を保ちながら均一に魔力を供給して下さい。魔力制御の訓練にもなりますので」

「ええ、分かったわ、エステル」


 王都そのものが巨大な魔方陣を描いているこの都は、二重の城壁が正確な二つの円を描き、街路は中央から放射線状に伸びてている。城壁と街中の塔には、魔石が納められて魔方陣を発動させ、結界を作り出していた。

 都の内と外を守る強力な結界の維持には、膨大な魔力を必要としていて、その供給には成人した王族――強大な魔力のある聖種――が担っている。
 難攻不落の城郭都市から、やがて大国となったムーレンハルト王国は、聖種の力によって守られ、人々の崇拝と畏怖を集めている。


 台座の魔石が姫の魔力供給によって、次第に明るい緑の蛍光色に輝いていくのを見守りつつ、エステルは側に居るレオのことを案じていた。

 王都入りしてから、レオは少しずつ元気がなくなっているような気がするのだ。

 特に神殿の守護騎士拝命の儀式の後からは、言葉少なになっている。


 昨夜は宿舎に帰ってから、レオの動作がわずかに緩慢になっているのに気付き、問いかけた。

「どうした、レオ? どこか具合でも悪いのか」
 
「王都の結界のせいで、魔力の消費が多くなっていて――」

「魔力切れか? 言ってくれればいいのに」

 レオの腕を取り、ベットに腰掛けさせた。自分も隣に座って、レオの唇に自分のそれをそっと重ねる。

 口腔を通じて、レオの中へ自分の魔力を流していく。

「もう、十分」

 エステルの肩を押して、レオの身体が離れた。

「でも――」

「これ以上は、エステルが魔力切れになる。また、朝になったらもらうから」

 レオは自分の魔力量では足りないのだ、とエステルは気がついた。

――私が聖種で姫さまのように、膨大な魔力を持っていたら。いや、無いものねだりをしてもしょうがない。魔石からも魔力を取り込めると、前に言っていたはず。魔石はそれなりに高価だが、手に入れられないものじゃない。

 目の前にある結界の特大魔石を見ながら、エステルは物思いに沈んでいた。

――レオは私の恩人だ。半年前の事故で、痛みに苦しみながら寝た切りになっていた私を救ってくれたのだから、レオに出来ることは何でもしてやりたい。


「ふう。ここはもう、これくらいでいいんじゃないかしら」

 フェリシアに問いかけられて、エステルははっと意識を戻す。
 台座の魔石は一定の波動で明緑の蛍光色を放っていた。
 

「そうですね。……姫さま、お疲れになりましたか?」

「魔力はまだ全然大丈夫ですけれども、そろそろお昼になるかしら」

「では、昼食を済ませてから、残りの塔を回りましょう」

 すると姫は、にっこりと笑みを浮かべた。今日の昼食会を、楽しみにしていたようだ。


 

 

 



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