【R18】姫さま、閨の練習をいたしましょう

雪月華

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第一部 妖精姫と忠犬従者

まだおやつを頂いてないのに

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「ところで陛下の御用件は何だったのですか?」

 フランシスは、主であるユーリア姫のために午後のお茶を用意しながら問いかけた。
 マホガニーのテーブルの上には、姫の好物の色とりどりのフルーツを乗せた一口大のタルトを載せたトレイが置かれている。   
 先ほど王宮に呼び出された姫は、今は自身の宮殿――スミレ宮と呼ばれている――に戻ってくつろいでいた。

 ブロケード張りの椅子に腰かけた姫は、尖った耳を持つうら若い妖精の王族ハイエルフで金糸のような長い豊かな髪をハーフアップに結い、背中に垂らしている。午後の陽射しが窓からレースのカーテン越しに金髪に降り注ぎ、キラキラと輝いた。

「お父様は、そろそろ夫を迎える準備をしなさい、とおっしゃったの」

 ユーリアは白磁器のティー・カップを受け取ると小首を傾げ、白い指先を伸ばしてどれから食べようかしらと少し悩んでから、手前のベリータルトを摘まんだ。三種類のベリーの表面には透明なゼリーが塗られて、つやつやとして美味しそう。
 
「夫、だって?! それはいったい、どこのどいつですか?」

「ブレーデフェルト辺境伯よ」

 フランシスは持っていたティーポットを、テーブルの上にガチャンと音を立てて置くと姫に詰め寄った。

「あんな、女たらし! 僕は、聞いてない」

 姫はビクッとして椅子の上で縮こまり、金色の睫毛に縁どられた緑柱石エメラルドの大きな瞳を潤ませ、上目使いに愛する従者を見た。

「貴方も知っての通り、わたくしは王族としての義務を果たさなければなりません」

「ああ、そんな瞳で見つめないで下さい。分かっています、いずれ姫さまが夫君をお迎えになることは」

 フランシスは跪いて、縋るように姫の手を取りその甲に口付けた。
 姫は小さく溜息をつくと、タルトを名残惜しそうにお皿の上に置き、フランシスの頭を撫でた。緑の濃淡のある巻き毛は柔らかく、ふわふわとしていて撫で心地がいい。その巻き毛の中から、ピンと二つの犬耳が立っている。

「でも安心して。私もお姉さまたちのように、通い婚になるそうよ」

 豊かな森の国を守る妖精の王族ハイエルフたちは、長い年月のうちにその数を少しずつ減らしていた。
 そのため王家は王女たちを出来るだけ手放さず、複数の夫を持たせ通婚の形をとるようになっていた。

「では――今から僕と閨の練習をいたしましょう!」

「えっ!? 今から? (まだおやつを頂いてないのに!)」

「姫さまが夫になる方々を無事に迎入れられるように、今日から徐々にお身体の準備をしないと」

 慌てる姫を椅子から軽々と抱き上げると、フランシスは寝室へ向かった。

 大木をくり抜いた円形の愛らしい内装の寝室は、壁には蔦と小花の壁紙が張られ、薔薇色の大理石の暖炉、白塗りの化粧台と金縁の飾りのある鏡が置かれ、両開きのガラス戸からはバルコニーに出られるようになっている。
 中に入るとフランシスは用心深く鍵を掛けて壁際の四柱式ベッドに行き、天蓋から下がっている桃色の絹のカーテンを引いて姫を降ろした。
 
 流れる水のように、姫の金糸のような長い髪がシーツの上に広がる。
 ハイウエストのレモン色の紗のドレスの胸元に、フランシスが手を伸ばすとその手を姫が掴んだ。

「えっと。フランシス。これはわたくしたちの、つまり妖精の王族ハイエルフ犬妖精族クー・シーの契約に入っている事、なのかしら?」

「もちろんです、姫さま。(僕は姫さまの最初の男で、そして最後の男になる。いついかなる時もお供いたしますよ)」
 
 フランシスは姫を見下ろしながらにっこりと微笑んだ。


 ユーリアは物心ついてから記憶にある限り、ずっと妖精の王族ハイエルフの習いに従い、犬妖精族クー・シ―の王子である彼が側に付き従っていた。フランシスに細々とした世話をされ、朝夕に守られて来た。
 彼がまだ幼いころはモフモフの薄緑の犬の姿をしていて、二人は遊ぶのも眠るのも一緒だった。

 敵対する国の間者によって庭に放たれた毒蛇に姫が噛まれそうになった時は、フランシスがその身をもって庇い瀕死の重傷を負ったこともある。

 幼体から一年を過ぎると、フランシスは犬耳にしっぽを付けた可愛らしい少年の姿になり、さらに成長して神々しいまでの美貌を誇るハイエルフには及ばずともそこそこ見目麗しい青年になった。
 年月を経るごとに、二人の主従の間にある絶対的な信頼と愛情は、ますます堅固なものになっている。

 だけど今、ユーリアを見下ろす金色の瞳は、爛々と輝いて獲物を狙う肉食獣のよう。
 戸惑う姫を尻目に、フランシスはサッシュベルトを外して靴を脱ぎ、ベッドに上がった。

 
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