【R18】姫さま、閨の練習をいたしましょう

雪月華

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第二部 妖精姫の政略結婚

辺境伯との結婚4

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 フランシスは心の準備もなくいきなりユーリアと引き離されてしまい、辛くて寂しくて、今すぐ姫に会いたくてたまらなかった。

(今頃、姫さまはどうしていらっしゃるだろう。幼い日よりずっとお側にいた僕が居なくても、ちゃんとおひとりでお休みになっておられるだろうか)

 それでも暗闇の中で瞼を閉じれば、いつの間にかうつらうつらと眠りの中に落ちていく。

(夢の中でもいいから、姫さまに会いたい……姫さまのあの甘い匂いを嗅いで、そして)

 本当に甘い香りが漂って来て、フランシスはくんくんと嗅ぎ、さらに胸いっぱいに大きく息を吸い込む。
 その香りは、フランシスの内側に浸透するように入り込む。

「ん、はぁ……ひめ……ひめさま……」

 次第にじっとりと汗をかき始め、息が上がり出す。
 下腹部が熱く痺れて来るような感触がして、寝衣の下のフランシスの雄が固く首をもたげてくる。
 やがて、華奢で柔らかな姫の身体が自らの上に重ねられるのを感じて、フランシスは「ああ」とため息をついた。
 
(僕の夢の中に、来てくださったのですね)

 愛しい姫の重みが心地よく、その首筋に顔を埋め、くんくんと匂いを嗅いだ。

「――ちがう。姫さまじゃない」

 ユーリア姫とは違う匂いにハッと気づき、パチリと瞼を開ければ、暗闇の中でフランシスの上に乗りあがっていたのは犬妖精クー・シーのカルロッタだった。

「お辛いのでしょう? 私がフランシスさまを、お慰めして差し上げます」

「カルロッタっ……どういうつもりだ」

「フランシスさまと夫婦にならないと、私も家族も困るのです。これは犬妖精クー・シーの王命です」

「どけっ。言ったはずだ。お前とは結婚できない」

 圧し掛かる娘を振り払おうとして腕を伸ばすのに、どうにも力が入らない。
 カルロッタのフランシスの身体中をまさぐる手が、彼の意に反した快感をもたらしていく。
 フランシスはそのことに深く嫌悪し、また困惑していた。

「私を、姫さまだと思っていいんですよ……」

「ひめ?」

 部屋中に甘い香りが充満して、フランシスの視界をぼんやりと不明瞭にしていく。

(本当に、姫さまだったらいいのに。でも)

「……いや、だ」

「このお香は、原始的な野生の衝動を解放する作用があるのです。逆らっても無駄、です」

「やめろっ……ううっ、がるる」

 父たちへの怒りと姫へを裏切ることへの拒否感、身体の熱、ユーリアへの恋慕、忠誠、祈り……焼けつくような感情が渦を巻き、フランシスの脳は沸騰寸前だった。
 気づけば、喉の奥から怖ろしい唸り声が上がり、身体中の筋肉が波のようにうねって盛り上がり、骨がギシギシと軋む。

「え、なに? 何なの……キャ――っ!」

 フランシスが着ていた寝衣は真っ二つに引き裂かれ、モフモフの身体が現れた。大きな口は耳の方まで裂け、獣の四つ足で床に立つ。彼の身体は雄牛ほどもある巨大な新緑色のモフモフ巻き毛の犬に変わっていた。

 突然、獣の咆哮が深夜の邸に響いた。

「助けて――っ。誰か、ここを開けて! 獣がっ、獣がぁぁ」

 半狂乱になったカルロッタは、泣き叫びながら扉を叩き続けた。
 異変に気付いた使用人たちによって、邸中に次々と明かりが灯されていく。

 三度咆哮を上げてから、フランシスは自らが化け物になってしまったことに気づいた。
 獣身をひるがえして、奥の寝室に閉じこもる。

(これから自分はどうなってしまうのだろう。こんな姿では、もう姫さまに会えないかもしれない)

「くぅん、くぅぅん」

 巨大な犬の喉から、悲し気な鳴き声が漏れた。


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