31 / 37
第二部 妖精姫の政略結婚
辺境伯との結婚6
しおりを挟む窓が板によって塞がれた部屋は暗く、姫は目が慣れるまで中の様子が分からなかった。
少しすると、四柱ベッドや化粧台などの家具の配置が見て取れた。
「フランシス、わたくしよ。どこにいるの?」
ユーリアはフランシスの姿を探して、暗い部屋の中程まで進んだ。
部屋の中には、微かに甘い花のような香りが漂っていた。
(呼んでもすぐに飛んで来ないなんて。可哀想に、きっと獣化した姿をわたくしに見せるのを怖がっているのね)
部屋をぐるりと見渡すと、閉ざされた窓のカーテンが盛り上がり、裾からモフモフの脚としっぽがはみ出しているのに気がつく。
「フランシス?」
姫が名前を呼ぶと、嬉しさが隠し切れないしっぽが左右にゆっくりと振れている。
静かに近寄りカーテンを開けると、雄牛ほどのの大きさの犬が、頭を伏せ巨体を縮こまらせるようにして隠れていた。
ユーリアはフランシスの姿を見つけると愛おしさが込み上げて、モフモフの首に腕を回しぎゅっと抱きしめた。
「もう、大丈夫よ。ふたりで一緒に居れば、何も怖くないのだもの」
昔、まだユーリアが小さな子供だった頃のことを、ふたりは思い出す。
嵐の日に雷が沢山鳴って、モフモフの子犬のフランシスとユーリアは怯えてベッドの下に隠れた。
モフモフの身体は温かく毛皮は心地よく、また姫の花のような香りに包まれてフランシスは安心し、お陰でふたりとも稲光と雷鳴の恐ろしさが和らいだのだった。
「くぅぅん、くぅぅぅん」
フランシスは悲し気に鳴きながら、湿った鼻面を姫に擦りつけた。
ユーリアは大きなモフモフの身体を撫で、フランシスはしっぽをパタパタさせながら姫の顔を舐めた。
ふたりはしばらくそうやって再会をよろこび、ひしと抱きあった。
やがて姫はモフモフから身体を離すと、持って来たカゴの中から骨付き肉を取り出した。
「お腹すいたでしょう? フランシスの好きなブラックホーンの炙り肉を持って来たの」
フランシスは大きな口を開けると、塊肉を一口で頬張り、骨ごとバリバリと噛み砕いた。
あっという間に平らげ長い舌で口の周りをぺろりと舐めると、姫の手についた肉汁もぺろぺろした。
(あんな大きな肉の塊を一口で……。もっと持ってくればよかったかしら)
食事が終わると姫はブラシを手に取り、モフモフの毛をブラッシングをしながら話しかけた。
「昨夜はフランシスが帰って来なかったから、とっても心配したの。何があったのかは、シーグルドが話してくれて」
「くぅん……」
情けなそうな顔で鳴くフランシス。
姫は背中のブラッシングを終え、次にお腹にブラシを当てようとフランシスの伏せをしている体勢から横に倒そうとした。
フランシスは姫の意図を知りながら、動こうとしなかった。
「ハッ、ハッ、ハッ」
金色の目を細め、粗い息をして巨体は小さく震えている。
「もしかして、まだ催淫香の効果が身体に残って……?」
「くぅん、くぅん」
怯えたような表情で後退りしていくフランシスを見て、姫は確信する。
「フランシス、逃げないで。わたくしがちゃんと助けるから――」
1
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる