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五章 ラグルの呼び声
441.盗賊への裁き
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瓦礫に押し潰され、斧を引き抜こうともがく首領。
紫の光を宿した刃はまだ脈動していたけれど、その魔力を使う余裕は奪われている。
「ちっ・・・なめやがって!」
血走った目で私たちを睨みつけ、なおも力任せに瓦礫を跳ね飛ばそうとする。
だが、その動きよりも早く──母が一歩、前に出た。
「終わりよ」
低く、凛とした声で告げる。
杖の先に渦巻いていた炎が、さらに収束し、白く眩い光へと変わっていく。
ただの火ではない。まるで世界の根を焦がすような純粋な力の奔流だった。
「『インフェルノ・ノヴァ』」
詠唱が終わると同時に、爆ぜるような轟音と共に炎が解き放たれた。
廃墟の空間を埋め尽くすほどの紅蓮の奔流。
それは矢となり、槍となり、獣の咆哮となって首領へと襲いかかる。
「が、あああああああああああああああっ!!!」
斧を盾に掲げようとしたが──逃げられなかった。
紫の火花が弾け、斧がわずかに抵抗を見せる。けれど、母の炎はそれすらも呑み込んだ。
魔力を吸収するはずの刃が、悲鳴をあげるかのように赤く焼き爛れていく。
そして次の瞬間、轟音と共に斧は爆ぜ、鉄片となって四散した。
首領の叫びは炎にかき消され、巨体は瓦礫ごと吹き飛ばされる。
残ったのは焦げた土と、ひしゃげた柱と、立ち尽くす私たちだけ。
炎は母の意志に従うようにすぐさま鎮まり、廃墟には再び夜の静けさが戻ってきた。
「・・・倒した、の?」
ノエルが小さく震えた声で呟く。
母は杖を下ろし、短く息をついた。
「ええ。もう立ち上がってくることはない。・・・終わったわ」
私は胸の奥で波打つ鼓動を抑えきれずに、ただ呆然とその背を見つめていた。
あの巨体も、あの斧も、母の炎に飲み尽くされた。
やはり──この人は、本物の大魔女だ。
“灼炎の女皇”と呼ばれるに相応しい、世界最強の魔女──私の、母だ。
静寂が訪れたのも束の間だった。
廃墟の奥から、怯えたような叫び声と足音が響いた。
「か、頭がやられた・・・?くっ、逃げるぞ!」
「くそっ、魔女どもめ・・・!」
まだ数人、残っていた。
酔いが醒め、現実に引き戻された盗賊たちが、武器を振りかざしながらこちらへ突っ込んでくる。
「・・・往生際が悪い」
母が冷ややかに吐き捨てた。
けれど、私とノエルはもう迷わなかった。
互いに頷き合い、一歩前に出る。
「『フレイム・バインド』!」
「『グラン・スラスト』!」
私の炎が足を絡め取り、ノエルの土塊が衝撃となって敵を叩きつける。
倒れた盗賊の武器が床を転がり、鋭い音を立てた。
「ひ、ひぃ!」
残りの二人はすぐに戦意を失い、後ずさった。
その背後から、母の声が響く。
「無駄よ」
杖を振ると、彼らの頭上に小さな火輪がいくつも生まれ、じりじりと熱を放つ。
たまらず盗賊たちは武器を放り捨て、土下座のように地に額をこすりつけた。
「た、助けてくれ!もう悪さはしねぇ!」
「金も・・・宝も全部返す!だから命だけは!」
母はその姿を見下ろし、冷ややかに言い放つ。
「・・・返す?何を勘違いしてるのかしら。最初から、それはお前たちの物じゃない」
盗賊たちが声を詰まらせる。
その隙に私はノエルと頷き合い、廃墟の奥へと足を踏み入れた。
暗い部屋の中に、積み上げられた袋や箱が見える。
袋の中には、金銀の輝き、巻物、宝石のはめ込まれた装飾品。
箱を開けると、近隣の集落から奪われたであろう道具や衣服が現れた。
「・・・全部、ここに」
ノエルが呟く。
私はひとつの袋を持ち上げ、肩に担ぐ。
ずしりとした重みに、胸の奥に小さな安堵が広がった。
「サラに知らせよう。これで・・・やっと終わる」
母の声が背後から響き、振り返る。
彼女は戦場の冷酷な魔女ではなく、少しだけ表情を和らげた母の顔をしていた。
「すべて持ち帰って、元の持ち主に返しましょう・・・奪われたものは、必ず取り戻すのよ」
私たちは、大きく頷いた。
紫の光を宿した刃はまだ脈動していたけれど、その魔力を使う余裕は奪われている。
「ちっ・・・なめやがって!」
血走った目で私たちを睨みつけ、なおも力任せに瓦礫を跳ね飛ばそうとする。
だが、その動きよりも早く──母が一歩、前に出た。
「終わりよ」
低く、凛とした声で告げる。
杖の先に渦巻いていた炎が、さらに収束し、白く眩い光へと変わっていく。
ただの火ではない。まるで世界の根を焦がすような純粋な力の奔流だった。
「『インフェルノ・ノヴァ』」
詠唱が終わると同時に、爆ぜるような轟音と共に炎が解き放たれた。
廃墟の空間を埋め尽くすほどの紅蓮の奔流。
それは矢となり、槍となり、獣の咆哮となって首領へと襲いかかる。
「が、あああああああああああああああっ!!!」
斧を盾に掲げようとしたが──逃げられなかった。
紫の火花が弾け、斧がわずかに抵抗を見せる。けれど、母の炎はそれすらも呑み込んだ。
魔力を吸収するはずの刃が、悲鳴をあげるかのように赤く焼き爛れていく。
そして次の瞬間、轟音と共に斧は爆ぜ、鉄片となって四散した。
首領の叫びは炎にかき消され、巨体は瓦礫ごと吹き飛ばされる。
残ったのは焦げた土と、ひしゃげた柱と、立ち尽くす私たちだけ。
炎は母の意志に従うようにすぐさま鎮まり、廃墟には再び夜の静けさが戻ってきた。
「・・・倒した、の?」
ノエルが小さく震えた声で呟く。
母は杖を下ろし、短く息をついた。
「ええ。もう立ち上がってくることはない。・・・終わったわ」
私は胸の奥で波打つ鼓動を抑えきれずに、ただ呆然とその背を見つめていた。
あの巨体も、あの斧も、母の炎に飲み尽くされた。
やはり──この人は、本物の大魔女だ。
“灼炎の女皇”と呼ばれるに相応しい、世界最強の魔女──私の、母だ。
静寂が訪れたのも束の間だった。
廃墟の奥から、怯えたような叫び声と足音が響いた。
「か、頭がやられた・・・?くっ、逃げるぞ!」
「くそっ、魔女どもめ・・・!」
まだ数人、残っていた。
酔いが醒め、現実に引き戻された盗賊たちが、武器を振りかざしながらこちらへ突っ込んでくる。
「・・・往生際が悪い」
母が冷ややかに吐き捨てた。
けれど、私とノエルはもう迷わなかった。
互いに頷き合い、一歩前に出る。
「『フレイム・バインド』!」
「『グラン・スラスト』!」
私の炎が足を絡め取り、ノエルの土塊が衝撃となって敵を叩きつける。
倒れた盗賊の武器が床を転がり、鋭い音を立てた。
「ひ、ひぃ!」
残りの二人はすぐに戦意を失い、後ずさった。
その背後から、母の声が響く。
「無駄よ」
杖を振ると、彼らの頭上に小さな火輪がいくつも生まれ、じりじりと熱を放つ。
たまらず盗賊たちは武器を放り捨て、土下座のように地に額をこすりつけた。
「た、助けてくれ!もう悪さはしねぇ!」
「金も・・・宝も全部返す!だから命だけは!」
母はその姿を見下ろし、冷ややかに言い放つ。
「・・・返す?何を勘違いしてるのかしら。最初から、それはお前たちの物じゃない」
盗賊たちが声を詰まらせる。
その隙に私はノエルと頷き合い、廃墟の奥へと足を踏み入れた。
暗い部屋の中に、積み上げられた袋や箱が見える。
袋の中には、金銀の輝き、巻物、宝石のはめ込まれた装飾品。
箱を開けると、近隣の集落から奪われたであろう道具や衣服が現れた。
「・・・全部、ここに」
ノエルが呟く。
私はひとつの袋を持ち上げ、肩に担ぐ。
ずしりとした重みに、胸の奥に小さな安堵が広がった。
「サラに知らせよう。これで・・・やっと終わる」
母の声が背後から響き、振り返る。
彼女は戦場の冷酷な魔女ではなく、少しだけ表情を和らげた母の顔をしていた。
「すべて持ち帰って、元の持ち主に返しましょう・・・奪われたものは、必ず取り戻すのよ」
私たちは、大きく頷いた。
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