灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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六章 トーア、冷たき国

562.眠らない夜

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 夜が、深く落ちた。
ランプの明かりを落とすと、部屋の中は冷えた闇に沈む。窓の外では風の音もせず、まるで世界そのものが息を潜めているようだった。

寝台の上で、私は天井を見上げていた。
隣ではサラが小さく身を縮めている。ノエルは毛布を被って丸くなり、母とフィアとヴァルナは普通に布団を被って寝ている。


(眠れない)・・

 この旅の中で、何度も宿を転々としてきたけれど、こんな“静かすぎる”夜はなかったような気がした。
・・・外の気配がない。雪の降る音も、風の吹きつける音さえもしない。

「アリアさん・・・起きてますか?」

サラが、小さな声で囁いた。
「うん。眠れないの?」

「・・・なんだか、外が・・・」

 言いかけて、彼女は黙り込む。
その瞬間――ぎぃ・・・と、古い木の軋む音が廊下の奥から聞こえた。

誰か、歩いている。
夜更けに、わざわざ足音を立てて。

私はとっさに隣の毛布をめくり、小声でノエルを揺すった。
「ノエル、起きて」

「ん・・・アリア?なに?」

「静かに。誰か来る」

 ノエルの瞳がぱちりと開き、すぐに眠気が消えた。

足音は止まった。そのかわりに、ドアの向こうで何かが“擦れる”ような音がした。
・・・鍵穴に、金属を差し込む音だ。

(開けようとしてる・・・?)

私が杖を握ろうとしたそのとき、廊下の先から低く冷たい声が響いた。

「――何の用かしら」

 一瞬驚いたが、それはヴァルナの声だった。氷のような威圧感が、扉越しでも分かる。
一瞬、空気が張り詰め、廊下の気配が凍りついた。

次に聞こえたのは、慌てた男の声だった。
「い、いや・・・!ちょっと・・・薪を届けに・・・!」

「夜半に、旅人の部屋へ薪を?・・・見え透いた嘘を言わないでもらえるかしら」

 バチッという氷の破裂音が聞こえる。
床を覆う霜が、一瞬で広がる気配がした。
ドアの隙間から、青白い光が漏れる。

「次に来たら凍死させる・・・下がりなさい」

やがて足音が遠ざかり、再び静寂が戻った。



 ノエルが息を吐く。
「うわ・・・これ、わりと真面目に危なかったやつじゃない?」

「そうですね・・・というか、ヴァルナ様起きてらしたんですね」

「あら、当然でしょう?こういう“夜の訪問者”には慣れているし」

ドア越しに、氷の大魔女が低く呟く声が聞こえた。

「眠れぬ夜です。しかし、気を抜いてはいけません。それに・・・外にはまだ、灯りが動いているようです」

 私は息を呑んだ。窓の外を見れば、遠い闇の中にぼんやりと揺れる炎――たいまつの光があった。
それが一つ、二つ、三つ・・・ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。

「・・・やっぱりここ、普通の集落じゃなかったんだね」
ノエルの声が震えていた。

私は唇を噛んで、母のいる隣のベッドを見やった。

「大丈夫・・・落ち着いて」
おそらく寝言だろうが、優しい言葉だった。

 私は杖を手にして立ち上がり、軽く振るった。
部屋全体が淡い光に包まれ、魔力が満。

「・・・何したの?」

「結界を張ったの。でも、あくまで保険。危険を感じたら――その時は迷わず反撃に出よう」

「わかった。まあ、ヴァルナ様もいるし、大丈夫そうではあるけど・・・」

「その通りよ。あなたたちは、静かに休みなさい」

ヴァルナの声は静かで、私たちをなだめるかのようだった。


 夜の闇がざわめいている。
たいまつの炎が、宿の壁に映り始めていた。

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