灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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六章 トーア、冷たき国

587.赤の夢界

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 ――どこまでも、赤い。

視界のすべてが、血のような紅に染まっていた。
地面も、空も、風さえも。すべてが溶け出したようにゆらめいている。

そんな中、私は立っていた。
けれど、自分の足元がどこにあるのか、よくわからなかった。
ただ、足の下で“何かが蠢いている”感触だけがあった。

「・・・ここ、どこ・・・?」

 声を出した瞬間、空間が微かにざわめいた。
音の代わりに、何千という囁きが押し寄せる。

――おいで。
――また、戻ってきた。
――炎の娘。

 ぞっとして、後ずさった。
そのとき、紅の霧の中から一人の人影が浮かび上がる。

白衣の裾。黒い痣。
現実と同じ姿のヴェルトが、そこに立っていた。

「・・・あなたは」

「ヴェルトだ。・・・アリア、だったな。美しい娘だ。母に似て・・・」

 彼は、穏やかに微笑んだ。
夢の中だというのに、その瞳だけは異様に現実的だった。
生きた人の温度が、そこにある。

「さっき、母さんと戦って・・・てか、ここは何?これは・・・現実なの?」

「どちらでもあり、どちらでもない」
ヴェルトはゆっくりと歩き出す。
足音が、赤い液体を踏みしめるように響いた。

「この場所は、“虫”が見る夢の断片。だが、君はその夢の内側に招かれた。つまり、君自身が“夢”の一部になりつつあるということだ」

「夢の・・・一部?」

「そうだ。君が感じている痛みも、恐怖も、すべては“虫”の記憶の残滓。人々が死に、喰われ、祈り、絶望し・・・やがて奴隷となった。その全てが、この夢の中で繰り返されている」

 私は息を呑んだ。
足元から、冷たい感触が這い上がってくる。
赤い液体の中に、無数の手のような影が揺れていた。

「・・・助けてって、言ってるの?」

「それが誰の声なのか、君はまだ知らない」
ヴェルトの瞳が、一瞬だけ哀しみを帯びた。

「かつてこの地を支配した“虫”は、人の心を惑わし、支配するために作られたものだ。それはのちに封印されたが、我らがそれを解いた」

「・・・なぜ、そんなことを!」

「だが・・・一つ、勘違いしないでもらいたい。これはあくまで、我らのためではない」

 ならば、誰のためなのか。
それは、言われずとも察せた。

「邪神のため・・・」

「そうだ。あの方は、復活のために多くの贄を必要とするからな」

そういうことか。
あの虫に寄生された人々は、おそらくこいつや他の幹部に操られて・・・。
いや、想像するのはやめておこう。

「あの虫に寄生された人たちは、やっぱり操られるの?」

「虫そのものは、我らが独自に改良したものでな。宿主の体を乗っ取った虫は、我らの持つ魔法で操れるようにした」

 やはり、そうだったんだ。
あの虫に寄生された人たちは、みんな・・・。

「あなたは・・・邪なる者ダークマースね。何がしたいの?邪神を、復活させたいの?」

すると、ヴェルトは目を見開いた。

「少し違うな。確かに私は邪なる者ダークマースだが、一番の目的は邪神の復活そのものではない。私の目的は・・・その副産物ともいうべきものだ」

「それは、何?」

「それはな・・・」

 そこまでヴェルトが言った時、私は猛烈な胸痛に襲われた。
思わず胸を押さえてえずき、直後に血を吐いた。

「・・・っ!な、何これ・・・!」

ヴェルトは、そんな私を見て笑った。
「言ったはずだ。君自身もまた、この夢の一部となりつつあると・・・」

 その言葉の意味はわからなかった。
だが、胸の痛みはますます強くなる。

私は、言葉も出ないほどの痛みに苦しみ──
咳き込んでは、血を吐き続けた。
 
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