灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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七章 ガロウの雷鳴

603.山に眠るもの

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 朝食を終えた私たちは、荷物をまとめ、馬たちに装具をつけ直した。
凍てついた地面を踏むたび、靴底がきしむ。吐く息が白い。
山の上の空は雲ひとつなく晴れているのに、谷のほうには濃い霧がたちこめていた。

母が馬車の前に立ち、空を見上げながら言った。
「このまま下れば、昼前にはガロウの街道に出られるはずよ」

ノエルが手綱を握り、私とサラは後部の席に乗り込む。
馬たちが蹄を鳴らし、ゆっくりと坂を下りはじめた。

 山肌にはところどころ雪が積もっていたが、陽が当たる斜面では氷が溶け、小さな水流が光を弾いていた。
冷たい風が頬をかすめるたびに、眠っていた感覚が少しずつ戻ってくる。

とはいえ、まだ標高が高いからか、空気の冷たさは変わらない。
息を吸うたび、肺が少し痛む。
それでも――夜明けの山を下っていくこの時間が、なぜか心地よかった。

 馬車の車輪が石を踏み、ガタリと音を立てる。
雪解けのせいで道はぬかるみ、車輪が泥を跳ね上げる。
ノエルが手綱を引きながら、小さくぼやいた。

「・・・なんか、道が荒れてますね。油断すると滑りそうです」

「速度を落として進みましょう」
母の声は落ち着いていた。
その口調には、何度もこうした旅路を越えてきた人の静かな経験がにじんでいる。

 私は窓の外を眺めた。
視界の先には、うっすらと黒い影のようなものが見える。
焼けた木々の残骸のような・・・そんなものが、ぼんやりと並んでいた。

「・・・あれ、村の跡かな」
思わず口にすると、サラが眉を寄せて外を見た。

「廃村・・・のように見えますね」

「昔、焼かれた集落があったはず」
母が小さく答える。
「ガロウはもともと邪神の支配を受けていた国のひとつだったからね。こうした爪痕も、深く残っているの」

 風が、どこからともなく吹き抜けていく。
焦げた木の匂いが、かすかに混じっていた。
十数年前の、戦火の残り香――それがまだ、この山には残っているのだろう。

私は、無意識に胸の前で手を組んでいた。



 さらに少し進むと、なんと道端に人が倒れていた。
駆け寄ってみたが、やはりというかすでに息絶えていた。

「死んでから、まだ日が浅いね」
死体が腐敗していないこと、衣服がそこまでボロボロでないことから、私はそう判断した。

 よく見るとかなり痩せこけており、靴も履いていない。
おそらく貧困層の人だったのだろうが、とても山を越えられるような服装ではない。

「こんな服装で、どうしてこの山を登ったんでしょう・・・」

「きっと、この人もまたトーアに逃げようとしていたのよ。物資が乏しく、生活が苦しい中、戦争から逃れるために」
母は、どこか悲しげにそう言った。

「この人、1人で逃げてきたんでしょうか」

「もしくは、仲間がいたけど見捨てられたか。・・・仕方ないのよ。彼らにとっては、この山を越えるのは命がけなのだから」

 まあ・・・それはそうだろう。
隣国に亡命して、戦争から逃げようとしている人たちにとっては、この山を越えることは文字通り命がけだ。

物資にも精神にも余裕がないだろうし、自力で動けなくなった人は切り捨てるしかないのだろう。
下手に助けようとして、周りも失敗すれば、この人のように雪の中で朽ち果てることになる・・・。

「本当は、家族のもとに返してあげたいところだけど・・・仕方ないわ。せめて、埋葬だけでもしてあげましょう」

 母の提案に沿い、この男性を埋葬することになった。

墓標となる石は、その辺にいくらでもある。硬い地面は、私とノエルの魔法で無理やり掘り起こし、穴を掘った。

さすがにそのまま埋めるわけにはいかないので、私と母で死体を燃やした。
掌に炎を起こし、それで死体を包み込んで・・・静かに燃やした。

そしてその骨を埋め、手頃な石を墓石として置き、最後にみんなで祈った。

 この人以外にも、国境を越えられずに亡くなった人はいるだろう。彼らを弔ってあげられないのは、とても残念だ。
だが、一番は・・・彼らをそこまで追い込んだ根本の原因が問題だ。

ガロウ国内で起きている戦争。
何としてもその原因を突き止め、戦争を終わらせなければ。

私は・・・いや、私たちは、そう強く決意した。
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