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七章 ガロウの雷鳴
696.記憶の空白に潜む影
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まだ鼓動が速い。
目覚めたばかりなのに、体の奥にあの闇がこびりついているような感覚が消えない。
リゼは私の様子を数秒見つめてから、深くゆっくり息を吸い込んだ。
それは、覚悟を決める前の仕草だった。
「今回見た夢について、詳しく聞かせて」
「・・・危険だと思いますか?」
リゼは頷く。
その頷きには迷いがなく、指揮官のそれだった。
「ええ。あの影、私の記憶を曇らせる何かと同じ性質を持ってる気がするの。あなたが私と似たような夢を見たのは、偶然じゃなくて、意図的に“見せられた”可能性が高いと思う」
喉がひゅっと細くなる感覚がした。
「・・・私を狙って?」
「あなたは炎の魔女で、しかも“外の世界”の魂を持っている。闇の存在にとって、特別な意味があっても不思議じゃない」
「特別・・・?」
リゼは言葉を探すように視線を落とし、それから机に両手を置いて身を乗り出した。
「さっき言っていた“戻して、見つけて”って言葉がキモよ。私も、とても似た夢を見たことがあるの」
それは、数年前・・・リゼが、まだガロウの北部を含めた国全体を統治していた頃のこと。
ある夜、急に意識が暗い霧に沈み・・・同じような影が現れた。
顔は見えず、声は歪んでいたそれは、「わたしを返せ、思い出せ」とリゼに言った。
「その時、私は“誰を返せと言われているのか”を考えようとした。でも・・・考えた瞬間、頭が割れるみたいに痛んだの。あなたが見た夢と同じよ」
「それって、もしかして・・・」
「私の過去に、何か重要な記憶が抜け落ちている。そしてその“記憶の主”が、私とアリアの両方に接触していると考えるべきね」
部屋の空気がひんやり冷たくなった気がする。
「その“主”って、一体何なんでしょうか。あの闇は、人間でも魔物でもない。自然の魔力でもない。じゃあ――」
リゼは目を伏せ、ゆっくり首を振った。
「わからない。でも一つだけ言えるのは・・・“私たちの世界の外側の存在”かもしれないってこと」
「外側・・・?」
「この世界の理と魔力の法則に属さない、異質なもの。炎も雷も触れられず、存在の痕跡すら残さない。姿も記憶も曖昧で、見た瞬間に思考が濁る・・・そんなものよ」
リゼは私を真っ直ぐ見た。
「あなたの存在と、あの闇は無関係じゃないと思う。むしろあなたの魂だからこそ、繋がってしまったということかもしれない」
胸の奥が鈍く、重く揺れた。
「・・・私の魂が、何かを呼んでいるってことですか?」
「もしくは、呼ばれている。“戻して、見つけて”と言うのなら・・・おそらく、どちらかが欠けた状態のままなのよ」
リゼの言葉は、まるで針のようだった。
刺さるというより、じわりと心の奥に染み込んでいく。
「夢で見た影の形を教えて」
「ええと・・・人に似ているけど、人じゃない。足も地面もない空間を滑るように動いて、顔は完全に影で・・・」
リゼは途中で静かに手を上げた。
「やっぱり、私が昔見た存在と似ている。ただ、あなたの方が言葉がはっきりしてる」
「はっきり・・・?」
「ええ。影があなたに語りかけた言葉、私より明確よ。あなたは危険なほど、近づいてる」
そのとき、私は理解した。
リゼは――私以上に震えていた。
雷の大魔女が、恐怖で手を震わせるなんて。
「リゼさん・・・これ、どうすれば?」
彼女はかすかに唇をかみしめ、言った。
「無理に思い出そうとしないこと。それが今できる最大の防御よ。考えようとすればするほど、あちら側に近づいてしまうから」
「・・・じゃあ、私は?」
「あなたは・・・もう、呼ばれているかもしれない。だからせめて――私がそばにいる間は、勝手に一人で眠らないで」
そう言って、リゼが私の手を強く握った。
その強さが、逆に彼女の不安の深さを教えてくれる。
「もし、闇があなたを狙っているなら・・・私が、絶対に渡さない」
雷の気配をまとった瞳が、決意で揺れていた。
外ではまだ夜が深く、遠くで見張りの合図が響く。
明けない夜は続いている。
そして――その中心に、私とリゼは確実に巻き込まれていた。
目覚めたばかりなのに、体の奥にあの闇がこびりついているような感覚が消えない。
リゼは私の様子を数秒見つめてから、深くゆっくり息を吸い込んだ。
それは、覚悟を決める前の仕草だった。
「今回見た夢について、詳しく聞かせて」
「・・・危険だと思いますか?」
リゼは頷く。
その頷きには迷いがなく、指揮官のそれだった。
「ええ。あの影、私の記憶を曇らせる何かと同じ性質を持ってる気がするの。あなたが私と似たような夢を見たのは、偶然じゃなくて、意図的に“見せられた”可能性が高いと思う」
喉がひゅっと細くなる感覚がした。
「・・・私を狙って?」
「あなたは炎の魔女で、しかも“外の世界”の魂を持っている。闇の存在にとって、特別な意味があっても不思議じゃない」
「特別・・・?」
リゼは言葉を探すように視線を落とし、それから机に両手を置いて身を乗り出した。
「さっき言っていた“戻して、見つけて”って言葉がキモよ。私も、とても似た夢を見たことがあるの」
それは、数年前・・・リゼが、まだガロウの北部を含めた国全体を統治していた頃のこと。
ある夜、急に意識が暗い霧に沈み・・・同じような影が現れた。
顔は見えず、声は歪んでいたそれは、「わたしを返せ、思い出せ」とリゼに言った。
「その時、私は“誰を返せと言われているのか”を考えようとした。でも・・・考えた瞬間、頭が割れるみたいに痛んだの。あなたが見た夢と同じよ」
「それって、もしかして・・・」
「私の過去に、何か重要な記憶が抜け落ちている。そしてその“記憶の主”が、私とアリアの両方に接触していると考えるべきね」
部屋の空気がひんやり冷たくなった気がする。
「その“主”って、一体何なんでしょうか。あの闇は、人間でも魔物でもない。自然の魔力でもない。じゃあ――」
リゼは目を伏せ、ゆっくり首を振った。
「わからない。でも一つだけ言えるのは・・・“私たちの世界の外側の存在”かもしれないってこと」
「外側・・・?」
「この世界の理と魔力の法則に属さない、異質なもの。炎も雷も触れられず、存在の痕跡すら残さない。姿も記憶も曖昧で、見た瞬間に思考が濁る・・・そんなものよ」
リゼは私を真っ直ぐ見た。
「あなたの存在と、あの闇は無関係じゃないと思う。むしろあなたの魂だからこそ、繋がってしまったということかもしれない」
胸の奥が鈍く、重く揺れた。
「・・・私の魂が、何かを呼んでいるってことですか?」
「もしくは、呼ばれている。“戻して、見つけて”と言うのなら・・・おそらく、どちらかが欠けた状態のままなのよ」
リゼの言葉は、まるで針のようだった。
刺さるというより、じわりと心の奥に染み込んでいく。
「夢で見た影の形を教えて」
「ええと・・・人に似ているけど、人じゃない。足も地面もない空間を滑るように動いて、顔は完全に影で・・・」
リゼは途中で静かに手を上げた。
「やっぱり、私が昔見た存在と似ている。ただ、あなたの方が言葉がはっきりしてる」
「はっきり・・・?」
「ええ。影があなたに語りかけた言葉、私より明確よ。あなたは危険なほど、近づいてる」
そのとき、私は理解した。
リゼは――私以上に震えていた。
雷の大魔女が、恐怖で手を震わせるなんて。
「リゼさん・・・これ、どうすれば?」
彼女はかすかに唇をかみしめ、言った。
「無理に思い出そうとしないこと。それが今できる最大の防御よ。考えようとすればするほど、あちら側に近づいてしまうから」
「・・・じゃあ、私は?」
「あなたは・・・もう、呼ばれているかもしれない。だからせめて――私がそばにいる間は、勝手に一人で眠らないで」
そう言って、リゼが私の手を強く握った。
その強さが、逆に彼女の不安の深さを教えてくれる。
「もし、闇があなたを狙っているなら・・・私が、絶対に渡さない」
雷の気配をまとった瞳が、決意で揺れていた。
外ではまだ夜が深く、遠くで見張りの合図が響く。
明けない夜は続いている。
そして――その中心に、私とリゼは確実に巻き込まれていた。
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