灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
780 / 891
七章 ガロウの雷鳴

782.未来が静まる

しおりを挟む
 門が閉じてから、街は奇妙な静けさに包まれていた。
安堵とも違う。緊張が解けたわけでもない。ただ、音だけが一段階下がった。

その静けさの中で、サラが私の袖を引いた。

「・・・アリアさん」

声が少し低い。
夢を見る前の合図だと、もう分かるようになっていた。

 私は人のいない建物の影へ彼女を連れていき、しゃがみ込む。
母には目で合図を送っただけで、何も言わなかった。
止められないことも、母は知っている。

サラは目を閉じた。
以前のように苦しそうではない。呼吸は浅いが、乱れてはいなかった。

「門が・・・」
私は息を殺す。

「燃えない」

 その言葉に、胸の奥で何かがほどけた。
“まだ”ではない。“そうなる可能性がある”でもない。
サラは、言い切った。

「今回は、門が燃えない未来が・・・はっきり見えます。揺らいだり、消えたりしません。もう決まっているんです、きっと」

夢の質が変わっている。
それは、今回も夢を見なかった私にも分かった。未来が警告ではなく、状態として見え始めている。

「でも・・・その代わりに、違うところが見えるんです」
サラの眉が、わずかに寄る。

「鎮圧部隊の中、列が揃っていません。声も、噛み合っていません」
サラは、見えたものを一つずつ、確かめるように言葉にした。

「命令が降りてこない時間が、変に長いんです。待ってる・・・のかもしれませんけど、待たされてる、って感じじゃないんです。どちらかというと、“決めきれない”って感じです」

 私は、無意識に拳を握っていた。
――それは、私たちが作った時間だ。

「怒ってる人、早く剣を抜きたい人もいます。逆に、抜きたくない人も。あと・・・なんか妙に怖がってる人が多いみたいです」

サラは、少しだけ目を開けた。
私を見て、はっきりと言う。

「選ばされるのは、街の人たちじゃありません」

 その瞬間、すべてが繋がった。

理由を差し出さなかった。
代表を英雄にしなかった。
敵にも、味方にもならなかった。

その結果、決断の矢印が反転した。

「・・・向こうが、選ばされてる」
私がそう言うと、サラは小さく頷いた。

「剣を抜くか、抜かないか。命令を出すか、出さないか。“何もしないまま時間を流す”っていう選択も、もう選択なんだって・・・夢が、そう言っていました」

 夢が言っている。
以前なら、その表現に違和感を覚えたかもしれない。
でも、今は違う。

未来はもう、炎と血の警告ではない。
人が決断できずに立ち尽くす姿を、静かに映している。

「・・・サラ」
私は彼女の肩に手を置いた。

「ありがとう。十分だよ」

彼女は少しだけ笑った。疲れた顔だったが、怯えはなかった。

「私、アリアさんの役に立てましたか?」

「ええ。今までで一番かもってくらいにね」

 彼女の能力は、破滅を知らせる鐘などではない。
選択の重みがどこに移ったかを示す、天秤になり始めている。

遠くで、号令も角笛も鳴らないまま、時間だけが流れている。
それが、答えだった。

 戦いは、まだ終わっていない。
けれど今、火を点ける指は――私たちの側にはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

処理中です...