灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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七章 ガロウの雷鳴

793.夜明けの知らせ

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 翌日。
夜明けとともに、街は不思議な静けさに包まれていた。
昨日まで確かにあった緊張が、まだ完全には消えきらず、空気の奥に薄く残っている。

私は門近くの広場で、壊れた柱の修復を手伝っていた。
サラとノエルが魔力の流れを整え、母は街の人たちと最低限の防衛線について話している。

 この柱は「結界柱」と呼ばれる特別な柱で、魔力を込めて作られているらしい。
とはいえその魔力はごく弱いものであり、劣化が遅く頑丈であること以外、特別な力などはないという。

それでいて魔力を使って建てられているため、魔法使いでないと治せない。
何のためにあるのかと思える柱だが、街の人たちも何のためにあるのか、いつごろからあるのか知らないらしい。



 その時だった。

乾いた音がして、少し離れた場所にいたリゼが、通信用の魔法石を取り出した。
結晶の内部に、淡い光が走る。

そして、リゼの表情が一瞬で変わった。

普段から見せていたような、冷静さとは違う。
もっと、切迫した――嫌な予感を孕んだ顔。

「・・・繋がった」

 彼女は周囲を一度だけ見渡し、私と母、それから近くにいたサラとノエルに視線を向けた。

「聞いて。今の南ガロウの首都、カイラからよ」
その言葉だけで、胸の奥が重くなる。

 リゼは魔法石に意識を向け、短く応答を交わした。
私たちには相手の声は聞こえない。けれど、リゼが頷き、時折、低く息を吸うたびに、内容が穏やかでないことだけは嫌でも伝わってきた。

数分後、光が消える。
リゼは魔法石を握りしめたまま、しばらく動かなかった。

「・・・向こうの、内通者からの連絡よ」
そう前置きしてから、彼女ははっきりと言った。

「今回の鎮圧失敗の報告が、もうカイルの耳に入ってる」
その名を聞いた瞬間、背筋が冷える。

「それで?」
私が促すと、リゼは一度だけ唇を噛んだ。

「カイルは、ペドラを明確な反乱分子と認識した。それで今度は・・・中途半端な鎮圧じゃなくて、本気で潰すつもりだそうよ」

 空気が、凍りついた。

「次は、示威じゃない。街ごと叩き潰して、国中への見せしめにする気だって」

ノエルが、息を呑む音が聞こえた。
サラの手が、無意識に胸元を押さえている。

「危険だ、って・・・?」
私の声は、自分でも驚くほど低かった。

「ええ。内通者いわく、準備が早い。正規軍、魔導兵器・・・場合によっては、専属の魔女や魔王たちも動く可能性がある」

 その言葉に、母が静かに歩み寄ってきた。
「・・・つまり」

母は、冷静に言葉を選ぶ。
「次は、交渉も牽制も通じない相手が来るということね」

リゼは、ゆっくりと頷いた。
「そう。だから――」

彼女は、私を見た。
「あなたたちに、伝えておく必要があると思った。もう、時間はあまりない」

 胸の奥で、何かが静かに音を立てた。

恐怖じゃない。
昨日の戦いで、確かに見たものがある。

街を守るということ。
立つべき場所。
そして、次に来るものの重さ。

 私は、拳を握りしめる。

「あの・・・みんなで逃げる、という選択肢は?」
サラが、小さく問いかけた。

母は首を振らない。
でも、肯定もしなかった。
代わりに、リゼが答える。

「逃げられる人は、逃げた方がいい。でも、ペドラは狙われてる──間違いなく」

 つまり、街がある限りは終わらない。
沈黙の中で、私はゆっくりと息を吸った。

「・・・なら」
声が、思ったよりもはっきり出た。

「次は、守るだけじゃ足りない、ってことですよね」

 母が、私を見る。
その目には、心配と――ほんのわずかな、覚悟を確かめるような色があった。

「ええ」
リゼが言う。

「次は、準備する側になる必要がある」

 私は、頷いた。
昨日、心に刻んだ言葉を、もう一度なぞる。

これは、終わりじゃない。
そして――次は、私も前に立つ。
その時が、確実に近づいている。
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