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七章 ガロウの雷鳴
804.王の前段
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男は私たちの言葉を聞くと、わずかに肩を揺らして笑った。
「話し合い、か。随分と都合のいい言葉だな」
その笑みには感情がなく、“観察する”者という感じの目だった。
まるで、こちらの反応一つ一つを値踏みしているかのようだ。
私たちは自然と距離を取ったまま、互いに一歩も譲らず睨み合う。
空気は張りつめ、誰かが動けば即座に何かが起きる――そんな予感が、肌を刺した。
「あなたは、誰?」
リゼが一歩前に出て、男を真っ直ぐ見据える。
「少なくとも、カイルではないわね?」
その声には、迷いも恐れもなかった。
男は興味深そうに眉を上げる。
「ほう。よく分かるな。さすがは、あれの近くにいた女だ」
その一言で、場の温度が一段下がった。
「“あれ”と呼ぶな」
リゼが低く言い放つ。
「カイルは、あなたのような存在に軽々しく評される男ではない」
男はくすりと笑った。
「事実に基づいたまでだ。彼はもう、人の枠からはみ出しかけている。だからこそ、この部屋に私がいるのだ」
フォークが一歩踏み出し、魔道具を構えたまま口を開く。
「つまりお前は、代理か。それとも監視役か――いや、我々の始末役ですかな」
男の視線が、初めてフォークに向いた。
「面白い事を言うな。だが安心しろ。少なくとも今は、血を見るために来たわけではない」
その言葉に、誰も安堵はしなかった。
「では、何のために?」
私が問い返す。
男はゆっくりと宙を見上げ、やがてこちらへ視線を戻した。
「お前たちを測るためだ。王に会う資格があるかどうかを、な」
沈黙が落ちる。
「資格、ですって?」
ノエルが思わず声を上げる。
「王に会うのに、そんなものが必要なの?民が王に声を届けるのに、選別が必要だというの?」
男は一瞬だけ、ほんの僅かに目を細めた。
「理想論だな。だがこの国は、もうその段階を過ぎている」
そして、ゆっくりと私を見る。
「・・・お前たちが中心だ。カイルと同じ血を引き、王の視界に最も近い存在のな」
胸の奥が、わずかに痛んだ。
こいつは、カイルが私の叔父であることを知っている。
そして、リゼがカイルの姉であることも。
「だからこそ聞こう」
男は一歩、空中で前に出る。
「お前たちは、王を止めに来たのか?それとも、討ちに来たのか?」
その問いは、刃のように鋭かった。
私は唇を噛み、仲間たちの気配を背に感じながら、ゆっくりと口を開いた。
「・・・まだ、決めてない。でも、少なくとも・・・この国の現状を、見過ごすために来たわけじゃない」
「その通りよ。私は姉として、暴走する弟を止めに来たの」
男はしばらく私たちを見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「なるほど。ならば、そのチャンスをやろう」
その瞬間、空気が微かに歪む。
「だが覚えておけ。もう、お前たちに逃げ場はない」
男の姿が、ゆっくりと虚空に溶けていく。
最後に残ったのは、冷たい気配と重い沈黙だけだった。
私たちは誰も動けず、ただその場に立ち尽くしていた。
――今のは、警告だったのだろうか。
答えはまだ、闇の中にあった・・・かに思われた。
ガチャ、と扉が開く音がしたかと思うと・・・そこから、1人の男が現れた。
髪と瞳は金色で、その顔は間違いなくリゼに似ている。
黒い貴族のような服を着たその男は、こちらを見るなり怒りに満ちた声を上げた。
「リゼ!・・・なぜここにいる!」
「逆に聞きましょうか。・・・なぜだと思う?」
「うん?ふむ、そうだな・・・俺に思いつくのは・・・」
男は、1メートル近い長さの杖を出した。
その目は、よく見るとわずかに黒いものがぎらついている。
「わざわざ死にに来た、もしくは潔くガロウの統治者の座を渡しに来た、ということだな!」
リゼはため息をつき、杖を構えた。
「私たちが来たのは、みんなであなたを叩きのめすため・・・と言ったら?」
「それは面白い。やってみてもらおう!」
この様子からすると、カイルと話すことは無理そうだ。ならば、仕方ない。
私たちもまた、杖を構えた。
言葉など、もう必要なかった。
「話し合い、か。随分と都合のいい言葉だな」
その笑みには感情がなく、“観察する”者という感じの目だった。
まるで、こちらの反応一つ一つを値踏みしているかのようだ。
私たちは自然と距離を取ったまま、互いに一歩も譲らず睨み合う。
空気は張りつめ、誰かが動けば即座に何かが起きる――そんな予感が、肌を刺した。
「あなたは、誰?」
リゼが一歩前に出て、男を真っ直ぐ見据える。
「少なくとも、カイルではないわね?」
その声には、迷いも恐れもなかった。
男は興味深そうに眉を上げる。
「ほう。よく分かるな。さすがは、あれの近くにいた女だ」
その一言で、場の温度が一段下がった。
「“あれ”と呼ぶな」
リゼが低く言い放つ。
「カイルは、あなたのような存在に軽々しく評される男ではない」
男はくすりと笑った。
「事実に基づいたまでだ。彼はもう、人の枠からはみ出しかけている。だからこそ、この部屋に私がいるのだ」
フォークが一歩踏み出し、魔道具を構えたまま口を開く。
「つまりお前は、代理か。それとも監視役か――いや、我々の始末役ですかな」
男の視線が、初めてフォークに向いた。
「面白い事を言うな。だが安心しろ。少なくとも今は、血を見るために来たわけではない」
その言葉に、誰も安堵はしなかった。
「では、何のために?」
私が問い返す。
男はゆっくりと宙を見上げ、やがてこちらへ視線を戻した。
「お前たちを測るためだ。王に会う資格があるかどうかを、な」
沈黙が落ちる。
「資格、ですって?」
ノエルが思わず声を上げる。
「王に会うのに、そんなものが必要なの?民が王に声を届けるのに、選別が必要だというの?」
男は一瞬だけ、ほんの僅かに目を細めた。
「理想論だな。だがこの国は、もうその段階を過ぎている」
そして、ゆっくりと私を見る。
「・・・お前たちが中心だ。カイルと同じ血を引き、王の視界に最も近い存在のな」
胸の奥が、わずかに痛んだ。
こいつは、カイルが私の叔父であることを知っている。
そして、リゼがカイルの姉であることも。
「だからこそ聞こう」
男は一歩、空中で前に出る。
「お前たちは、王を止めに来たのか?それとも、討ちに来たのか?」
その問いは、刃のように鋭かった。
私は唇を噛み、仲間たちの気配を背に感じながら、ゆっくりと口を開いた。
「・・・まだ、決めてない。でも、少なくとも・・・この国の現状を、見過ごすために来たわけじゃない」
「その通りよ。私は姉として、暴走する弟を止めに来たの」
男はしばらく私たちを見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「なるほど。ならば、そのチャンスをやろう」
その瞬間、空気が微かに歪む。
「だが覚えておけ。もう、お前たちに逃げ場はない」
男の姿が、ゆっくりと虚空に溶けていく。
最後に残ったのは、冷たい気配と重い沈黙だけだった。
私たちは誰も動けず、ただその場に立ち尽くしていた。
――今のは、警告だったのだろうか。
答えはまだ、闇の中にあった・・・かに思われた。
ガチャ、と扉が開く音がしたかと思うと・・・そこから、1人の男が現れた。
髪と瞳は金色で、その顔は間違いなくリゼに似ている。
黒い貴族のような服を着たその男は、こちらを見るなり怒りに満ちた声を上げた。
「リゼ!・・・なぜここにいる!」
「逆に聞きましょうか。・・・なぜだと思う?」
「うん?ふむ、そうだな・・・俺に思いつくのは・・・」
男は、1メートル近い長さの杖を出した。
その目は、よく見るとわずかに黒いものがぎらついている。
「わざわざ死にに来た、もしくは潔くガロウの統治者の座を渡しに来た、ということだな!」
リゼはため息をつき、杖を構えた。
「私たちが来たのは、みんなであなたを叩きのめすため・・・と言ったら?」
「それは面白い。やってみてもらおう!」
この様子からすると、カイルと話すことは無理そうだ。ならば、仕方ない。
私たちもまた、杖を構えた。
言葉など、もう必要なかった。
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