灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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八章 アルディアに吹く風

833.海より現れしもの

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 泡が、はじける音がした。

最初は一つ。次に二つ、三つ――やがて、数えきれないほどの泡が同じ一点に集まり始める。

「・・・来るわね」

母の低い声と同時に、海面が不自然に歪んだ。

 水が盛り上がる──まるで、海そのものが内側から押し上げられているかのように。

ぐぽり、と濁った音を立て、海面が大きく持ち上がった。

「――っ!」

小舟が大きく揺れ、思わず膝をつく。
水柱が立ち上り、冷たい飛沫が顔にかかった。

そして、次の瞬間。
海の中から、それが現れた。

 紫色の、異様なほど濃い紫をした、巨大な触腕。
一本ではない。二本、三本、四本・・・次々と姿を現し、海面を割って伸び上がる。

「タコ・・・?ベアさんから聞いた通りだ!」
ノエルの声が、かすれていた。

だが、普通のタコではない。
触腕一本一本が、小舟の何倍も太くて長い。
吸盤は盾ほどの大きさがあり、その縁は鈍く光っている。

 そして、触腕の中心。
海面がさらに割れ、巨大な頭部が浮かび上がった。

紫黒い肉体。ぬらりとした質感。
その表面には、脈打つように不気味な紋様が走っている。
頭部の側面には――目があった。

一つ、二つ、三つ・・・人のそれとはまるで違う、感情の読めない黄色い瞳が、こちらを捉える。

 ――見られている。
本能的にそう理解した瞬間、背筋が凍った。

「こいつが、この海域の船を襲って、エルモス港を封鎖させた魔物ね」
母が、はっきりと言った。

巨大なタコの魔物は、ゆっくりと触腕を広げる。
まるで、この海域そのものを支配していると誇示するかのように。

 同時に、さっき感じていた異様な魔力が一気に膨れ上がった。
・・・重い。息苦しいほど、重い魔力だ。

「この魔物・・・亡くなった人たちの未練を、体に溜め込んでいますね・・・」
サラの声が震える。

魔物の周囲・・・海の中に、無数の黒い影が揺らめいた。
人の形をしたような、歪んだ残滓。
悲鳴にも似た魔力の波動が、肌を刺す。

 ――この魔物は、ただの獣じゃない。

「アリア」

母が、静かに私の名を呼んだ。

「準備はいい?」

私は杖「リーヴァ」を構え、深く息を吸う。

「・・・うん」

 恐怖はある。だが、それ以上に――こいつを逃がしてはいけないという確信があった。

「大丈夫。私たちなら、やれる」

紫色の巨体が、ゆっくりとこちらに向き直る。
海がざわめき、そして――巨大な触腕が、高く振り上げられた。

「『バーニングベイル』!」

 母が杖を振るうと、その杖の先から赤く太い炎が・・・さながらロケットのような炎が噴き出す。
それによって船が大きく前進し、触腕を回避した。

「セリエナ様・・・!」

落ちないよう船のへりにつかまりながら、ノエルが母を見た。

「操縦は、私がやります!なので、セリエナ様は・・・アリアたちと、攻撃をお願いします!」

 一瞬、ノエルにできるの?と思ったが、母は安堵の表情を浮かべて「わかったわ、お願いよ」と言い、彼女に船の操縦を任せた。

しかし次の瞬間、母は何かを感じたのか、杖をまた振るって炎を噴き出した。
船が右に動いた直後、真下の海面から触腕が飛び出してきた。

「・・・!危なかった!」

 驚くノエルに、母は「驚いてる暇はないわよ!」と真顔で言う。

「あいつの触腕、四本出てるけど・・・タコは八本足よね?残りの触腕は、どこにあると思う?」

「それはまあ、海の中に・・・あっ!」

「そう・・・残りの触腕は四本。それが、常に海中から不意打ちを狙ってきてるの!だから、1つの場所に長く留まっていてはダメ!」

「ってことは、常に動いてなきゃないんですか!?」

「いいえ、そうでもないわ。攻撃してくる時は、予兆があるの。海面をよく見て!」

 ノエルは、魔物を見つつも船の下の海面を見た。
と、海面に小さく泡が浮かんできた。

・・・もしかして!と思った直後、ノエルが杖を振るって叫んだ。

「『ロックバースト』!」

 2つの岩の塊が打ち出され、船が反対方向に動く。
その直後、海面から触腕が飛び出してきた。

「・・・!」

わかった?と尋ねる母に、ノエルははい、と頷いた。

「海面に、小さな泡が出てくるのが予兆ですね。そうとわかれば、大丈夫です!」

「いえ、油断は禁物よ。だって・・・」

 その直後、サラが「危ない!」と叫んだ。
魔物が、触腕を薙ぎ払うように振るってきたのだ。

間一髪でみんな頭を下げて避けたが、特にノエルは危ないところだった。
彼女は、それで母の言葉の意味を理解したようだった。

「・・・セリエナ様は、アリアたちと一緒に攻撃をお願いします。船の操縦は、私がやって見せます!」

 それは、覚悟と勇気を持った言い方だった。
母は頷き、私たちと共に魔物を見た。

「ノエルに、重荷を背負わせ続けるわけにはいかない・・・なるべく早く、こいつを仕留めるわよ!」
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