灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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八章 アルディアに吹く風

843.何も起きない時間

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 それからも、私たちは浜辺で思い思いに過ごした。

泳ぎ疲れたら浅瀬に戻り、波打ち際に座って足だけを海に浸す。
砂浜に戻っては、乾いた砂の上に腰を下ろし、また気が向けば海へ入る――そんな、区切りのない時間だった。

「ねえ、これ見て」
ノエルが拾い上げたのは、渦を巻いた形の貝殻だった。

「きれいですね」
サラが覗き込みながら言う。

「飾りにしたらよさそうかも。でも、港に戻るまで割れないようにしないとね」

そんな取り留めのない会話が、波音に溶けていく。

 母も、ずっと一緒だった。
遠くで見守るのではなく、同じように海に入り、同じように砂浜に腰を下ろす。

時折ノエルが水をかければ、母もやり返す。
サラが足を取られて転びそうになれば、さっと腕を取って支える。
炎の大魔女としての顔は、そこにはなかった。

「母さん、結構本気で遊んでるよね」
私がそう言うと、母は少しだけ肩をすくめた。

「たまにはいいでしょう?こういう時間は、意識して取らないと、すぐに失われてしまうものだから」

その言葉には、重さがあった。
きっと母は、何度もそれを失ってきたのだ。


 日が高くなるにつれ、浜辺には人影が増えてきた。
港の人々だろう、仕事の合間に様子を見に来た者や、子どもを連れた家族の姿もある。

「港が復活したって、本当だったんだな」

「昨日まで、近づくのも怖かったのに」

そんな声が、遠くから聞こえてくる。
それを聞いて、母は少しだけ微笑んだ。

「ちゃんと、日常が戻ってきてるわね」

誰かに感謝されるわけでも、称えられるわけでもない。
それでも、世界が元に戻っていくのを見るのは、悪くない気分だった。


 昼が近づくころ、太陽の光はすっかり強くなり、海面はきらきらと眩しく輝いていた。

「そろそろ、お腹すいてきません?」
サラがそう言うと、ノエルが大きく頷く。

「朝から泳ぎっぱなしだもんね!」

「じゃあ、ここまでにしましょうか」
母が立ち上がり、砂を払う。

「もう、十分遊んだわ」

名残惜しさはあったが、不思議と満たされていた。
体は少し疲れているのに、気持ちは軽い。

 浜辺を後にする前、私はもう一度だけ海を振り返った。

昼の光を浴びた海は、朝とはまた違う表情を見せている。
穏やかで、何事もなかったかのように広がる青。

――この時間も、きっと忘れない。
そう思いながら、私は母たちの背中を追った。
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