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八章 アルディアに吹く風
860.狩りの後始末
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戦闘の余韻が完全に消える前に、母は短く指示を出した。
「休憩は後よ。先に、こいつを解体するわ」
ジャングルでは、倒した魔物の死体を放置していると、別の魔物を呼び寄せかねないという。
私たちは周囲を警戒しながら、地面に横たわる二体の魔物へ近づいた。
近くで見ると、その異様さはいっそう際立つ。羽毛の下にある皮膚は灰色がかり、ところどころ鱗のように硬化している。
鳥というより、飛ぶ爬虫類に近い印象を受ける。
「・・・匂い、強いですね」
ノエルが顔をしかめる。
雨に濡れた体から立ち上る生臭さと、鉄のような血の匂いが混ざり合い、湿った空気の中で逃げ場なく広がっていた。
「この魔物、見たことある。肺が異常なまでに発達してるから、長時間滑空できるのよ」
母は観察しながら、迷いなくナイフを取り出す。その動きには、一切の躊躇がない。
「ノエルは、周りを見張っていて。サラは、翼膜を押さえて。アリアは、爪とくちばしを外す準備を」
「了解です」
役割分担は即座に決まった。
私は魔物の脚に近づき、長く湾曲した爪を確認する。ナイフを当てると、金属を削るような感触が返ってきた。
「・・・かなり硬いね」
「ええ、だから優秀な武具の素材になるの。正直私たちには、あまり需要がないものだけど・・・市場では、それなりの値段で取引できるの」
根元から丁寧に、という母の言葉に従い、関節を見極めて力を込める。
嫌な音とともに爪が外れ、湿った重みが手に残った。
一方で、サラは翼膜を裂く作業に取りかかっている。
薄いが強靭な膜は、普通の布のようにはいかないらしく、何度か角度を変えながら刃を入れていた。
「これ、防水加工に使えそうですね・・・」
「そうね。これなら軽装の外套か、簡易テントの補修用として、私たちにも使い道があるわ」
母はそう言いながら、胸部にナイフを入れる。皮膚を剥ぐと、中から濃い赤色の肉が現れた。
鳥肉に似ているが、筋が太く、脂は少ない。
「肉も持っていくわ。食料にできる。内臓は捨てる。匂いもクセも強くて、食べるのに向いてないから」
そう言われて、私は嘴の付け根に刃を入れる。鋸歯状の歯が並ぶ口腔は、改めて見るとぞっとする造りだ。
毒袋や魔力器官などがないかを確認し、使えそうな部分だけを切り離す。
それらの臓器は、用途や取引できる場所は限られるが、高値で売れるものらしい。
解体作業が進むにつれ、手や腕は血と体液で汚れていった。湿気のせいで乾く気配はなく、ただ重くまとわりつく。
ノエルは少し離れた場所で周囲を警戒しつつ、ときおりこちらを振り返る。
「・・・慣れてますね、みんな」
「慣れないと、生き残れないわよ?」
母の返答は淡々としていた。
やがて、必要な素材と肉をすべて回収し終えた。
残った胴体は、できるだけ土と葉で覆い、匂いが拡散しないよう簡易的に処理した。
「これでいいわ。長居は無用」
血を拭い、荷をまとめ直す。
解体した肉は布で幾重にも包み、素材は種類ごとに分けて収納した。
ジャングルは、何事もなかったかのように静かだった。だが、その静けさが次の危険を孕んでいることは、誰もが理解している。
私たちは再び隊列を組み、足元と頭上の両方に意識を向けながら、前へ進み始めた。
この森は、倒した魔物さえも、ただの通過点に過ぎない。
その日の夜は、今日狩ったばかりの魔物の肉を食べた。
肉を骨から外し、鉄板の上で塩コショウをまぶして焼いただけのものだが、なかなか悪くない。
火を通したからか、柔らかくて食べやすい。
肉自体も、脂は少ないがほどよく引き締まっていて食べ応えがある。
「ん・・・おいしっ!」
ノエルが感動したような声を上げ、サラはそれを見て微笑みながら肉を食べる。
私もまた、彼女のオーバーとも取れる反応を見て笑いつつ、焼き上がりたての肉を口にした。
そしてその直後、その熱さに驚いて戻し、みんなに笑われるというオチがついた。
「ふう・・・やけどするかと思った」
口の中、というか舌をやけどすると意外とつらい。
前世では淹れたてのコーヒー、今世では沸騰させたスープを飲んでやけどしたことがあるが、数日間は痛くて仕方なかった。
「よく冷まして食べないと」という母の言葉は、本当にその通りです・・・と心から言わざるを得なかった。
「休憩は後よ。先に、こいつを解体するわ」
ジャングルでは、倒した魔物の死体を放置していると、別の魔物を呼び寄せかねないという。
私たちは周囲を警戒しながら、地面に横たわる二体の魔物へ近づいた。
近くで見ると、その異様さはいっそう際立つ。羽毛の下にある皮膚は灰色がかり、ところどころ鱗のように硬化している。
鳥というより、飛ぶ爬虫類に近い印象を受ける。
「・・・匂い、強いですね」
ノエルが顔をしかめる。
雨に濡れた体から立ち上る生臭さと、鉄のような血の匂いが混ざり合い、湿った空気の中で逃げ場なく広がっていた。
「この魔物、見たことある。肺が異常なまでに発達してるから、長時間滑空できるのよ」
母は観察しながら、迷いなくナイフを取り出す。その動きには、一切の躊躇がない。
「ノエルは、周りを見張っていて。サラは、翼膜を押さえて。アリアは、爪とくちばしを外す準備を」
「了解です」
役割分担は即座に決まった。
私は魔物の脚に近づき、長く湾曲した爪を確認する。ナイフを当てると、金属を削るような感触が返ってきた。
「・・・かなり硬いね」
「ええ、だから優秀な武具の素材になるの。正直私たちには、あまり需要がないものだけど・・・市場では、それなりの値段で取引できるの」
根元から丁寧に、という母の言葉に従い、関節を見極めて力を込める。
嫌な音とともに爪が外れ、湿った重みが手に残った。
一方で、サラは翼膜を裂く作業に取りかかっている。
薄いが強靭な膜は、普通の布のようにはいかないらしく、何度か角度を変えながら刃を入れていた。
「これ、防水加工に使えそうですね・・・」
「そうね。これなら軽装の外套か、簡易テントの補修用として、私たちにも使い道があるわ」
母はそう言いながら、胸部にナイフを入れる。皮膚を剥ぐと、中から濃い赤色の肉が現れた。
鳥肉に似ているが、筋が太く、脂は少ない。
「肉も持っていくわ。食料にできる。内臓は捨てる。匂いもクセも強くて、食べるのに向いてないから」
そう言われて、私は嘴の付け根に刃を入れる。鋸歯状の歯が並ぶ口腔は、改めて見るとぞっとする造りだ。
毒袋や魔力器官などがないかを確認し、使えそうな部分だけを切り離す。
それらの臓器は、用途や取引できる場所は限られるが、高値で売れるものらしい。
解体作業が進むにつれ、手や腕は血と体液で汚れていった。湿気のせいで乾く気配はなく、ただ重くまとわりつく。
ノエルは少し離れた場所で周囲を警戒しつつ、ときおりこちらを振り返る。
「・・・慣れてますね、みんな」
「慣れないと、生き残れないわよ?」
母の返答は淡々としていた。
やがて、必要な素材と肉をすべて回収し終えた。
残った胴体は、できるだけ土と葉で覆い、匂いが拡散しないよう簡易的に処理した。
「これでいいわ。長居は無用」
血を拭い、荷をまとめ直す。
解体した肉は布で幾重にも包み、素材は種類ごとに分けて収納した。
ジャングルは、何事もなかったかのように静かだった。だが、その静けさが次の危険を孕んでいることは、誰もが理解している。
私たちは再び隊列を組み、足元と頭上の両方に意識を向けながら、前へ進み始めた。
この森は、倒した魔物さえも、ただの通過点に過ぎない。
その日の夜は、今日狩ったばかりの魔物の肉を食べた。
肉を骨から外し、鉄板の上で塩コショウをまぶして焼いただけのものだが、なかなか悪くない。
火を通したからか、柔らかくて食べやすい。
肉自体も、脂は少ないがほどよく引き締まっていて食べ応えがある。
「ん・・・おいしっ!」
ノエルが感動したような声を上げ、サラはそれを見て微笑みながら肉を食べる。
私もまた、彼女のオーバーとも取れる反応を見て笑いつつ、焼き上がりたての肉を口にした。
そしてその直後、その熱さに驚いて戻し、みんなに笑われるというオチがついた。
「ふう・・・やけどするかと思った」
口の中、というか舌をやけどすると意外とつらい。
前世では淹れたてのコーヒー、今世では沸騰させたスープを飲んでやけどしたことがあるが、数日間は痛くて仕方なかった。
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