灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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八章 アルディアに吹く風

865.沈黙する王都

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 翌朝、まだ湿り気の残る地面から立ち上る土と草の匂いに包まれながら、私たちは再び歩き出した。

昨日の夜から振り出した雨は、夜中のうちに上がったが、ジャングルは相変わらず重たい空気を溜め込んでいて、朝だというのに肌にまとわりつくような暑さがある。

「・・・朝からこの蒸し暑さは堪えるね」

 ノエルが肩をすくめるように言い、首元の布を少し引っ張った。 
サラも頷きながら、水袋を手に持つ。

「でも、今日で着くはずなんですよね? 王城」

「ええ。地形的にも、もうこの先に遮るものはないはずよ」
母は、前方を見据えたままそう答えた。

 しばらく進むと、木々の密度が徐々に薄れていく。 鬱蒼とした緑の壁が途切れ、視界が少しずつ開けていった、その時だった。

「あ・・・」

最初に声を漏らしたのは、サラだった。

彼女の視線の先、朝靄の向こうに、はっきりとした人工物の輪郭が浮かび上がっている。
高い城壁。 幾重にも重なる白亜の塔。 太陽の光を受けて、淡く輝く石造りの構造物。

「・・・見えた」

 ノエルが、思わず息を呑む。

ジャングルの緑とは明らかに異質な、整然とした直線と曲線の集合体。 
それは間違いなく、人の手によって築かれた巨大な城だった。

「アルディアの王城ね」

 母が、静かにそう呟く。
遠くからでも、その規模の大きさは一目でわかった。 

周囲を取り囲む森を見下ろすようにそびえ立つそれは、さながらこの土地一帯を支配する象徴のようだ。

「本当に・・・こんな場所が、ジャングルの先にあったんだ」

 私も言葉を失いながら、城を見つめる。  地図や話では知っていたはずなのに、実際に目にすると、その存在感は想像を遥かに超えていた。

サラは、胸の前で手をぎゅっと握りしめている。

「・・・夢じゃないんですよね、全部」

「ええ。ここまで来たんだもの」

 母はそう言って、私たちを振り返った。

「ここから先は、王都アルディアの敷地よ。気を引き締めて行きましょう」

その言葉に、全員が小さく頷いた。

 朝の光の中、私たちはアルディア王城へと続く道を、確かな足取りで歩き出した。



 王城へと続く道を進むにつれ、違和感は次第にはっきりした形を持ち始めた。

「なんか、いやに静かだね・・・」

ぽつりとノエルが言った言葉に、私も足を止めかける。

 確かに、奇妙なほどに静かだ。
鳥の声も、虫の羽音も、ここまでくるとほとんど聞こえない。
ジャングルを抜け、王都の外縁に差しかかっているはずなのに――人の気配が、まるでない。

「王都、ってことは城下町があるはずですよね?」

サラが不安そうに周囲を見回す。
王城があれだけ大きいのだ、周囲に市街や農地が広がっていてもおかしくない。
本来ならば、行商人や畑仕事をする人々など、何かしらの気配があるはずだ。

けれど、道は整備されているにもかかわらず、踏み固められたばかりの痕跡がない。
轍も足跡も、どこか古びている。

「・・・なんかおかしいわね」

 母が小さく呟き、歩みを緩める。

「王都に近づけば、普通はもっと騒がしくなる。警備の兵も、人の往来も・・・」

そう言って母は一度立ち止まり、周囲に注意深く視線を巡らせた。
私たちも自然と足並みを揃え、緊張が走る。

「魔物の気配は・・・薄い。でも、人の気配もない」

 その言葉に、胸の奥がざわついた。

「廃都になってる・・・なんてことはないですよね?」

サラが恐る恐る尋ねる。

「完全な廃都なら、ここまで維持されていないはずだし、何かの気配はするはずよ」

母はそう答えつつも、断言はしなかった。

 王城は、確かに目の前にそびえている。
城壁は崩れておらず、塔も健在だ。それなのに――生きている“気配”だけが、欠けている。

風が吹き、城壁の上を撫でる。
その音だけが、やけに大きく耳に残った。

「・・・気を抜かないで」

 母は静かに言った。

「ここから先、何が起きても不思議じゃない」

私たちは無言で頷き、改めて装備を確認する。

 王都アルディアは、すぐそこにある。
だが、その沈黙は、歓迎というより――
何かを隠して、息を潜めているように思えてならなかった。
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