灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
149 / 891
三章 学院生活・後半

149.染められた瞳

しおりを挟む
 午後の授業が終わっても、私はずっと落ち着かなかった。
クラリッサに連れられて行ったミュリエルは、結局その日のうちに戻ってこなかった。

「あの子は、今日は体調不良ということで早退した」

そう告げたのはレシウス先生だった・・・だが、どこか事務的な言い方だった。
そもそも、昨日の朝なぜクラリッサが来たとき一緒に来なかったのかは説明がないままだ。

私の胸の中には、重たい靄が残ったままだった。



 ──そして、翌日。

「・・・え?」

朝の登校時、私は思わず足を止めた。
通学路の少し先、学院の門の近くに、ミュリエルの姿があったのだ。
でも、それは“いつもの彼女”ではなかった。

 綺麗に整えられていた長い髪はやや乱れ、制服のリボンも締め方がなんか雑だ。
何より、目が。

「・・・ミュリエル?」

私が声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを向いた。

「・・・アリア・・・さん?」

 その声音には、まるで水底に沈んだような重さがあった。
目の焦点が合っていない。口元は笑っているのに、目だけがまるで感情を失っていた。

私はそっと近づいた。

「昨日、大丈夫だった? 先生に連れて行かれて・・・それから・・・」

「ええ、問題なかったわ。クラリッサ先生は優しかった」

 その“言葉”は、確かに彼女の口から出ていたけれど──まるで誰かに言わされているような、心を持たない声だった。

(・・・違う。これ、ミュリエルじゃない)

心の奥で、警鐘が鳴った。

「それにね──」

彼女は静かに微笑んだ。

「先生は教えてくれたの。“わたし”は間違っていたって。闇を恐れる必要なんてなかったって。わたしは、もう大丈夫──ちゃんと、目を覚ましたのよ」

「目を・・・?」

「うん。これからは、わたしも“導く側”になる。クラリッサ先生の魔法が、どれだけ素晴らしいか──もっと多くの生徒に伝えていかないと。ね?」

 その笑みは、確かに優しかった。
けれどそこに、“ミュリエル”という少女の意志はなかった。

彼女は、何かに染まっている。

(クラリッサ・・・!)

ぞっとするような実感が、背骨を駆け上がった。
これは──いわば、洗脳に近い。
クラリッサは“視界干渉”の中で、ミュリエルの心の脆い部分に入り込み、別の人格を上書きしたに違いない。

彼女は、表向きは無事に見えるかもしれない。でも中身はもう、クラリッサの意思を代弁する存在に変えられている。

 体は一切傷つけず、精神というか人格だけを書き換える・・・いかにも悪役という感じの所業だ。

さらに恐ろしいのは、彼女をこんなにした元凶であるクラリッサが普通の顔をしてこの学校にいるということ。

このままでは第二、第三の“ミュリエル”が出る。
そしてそれは、表向き“問題のない優等生”として、少しずつ学院を蝕んでいくのだろう。

 そんなことはさせない。
絶対に、食い止めてみせる。




 私は一人、静かな中庭のベンチに腰を下ろしていた。
胸の奥で、何かがくすぶっている。怒りでも恐怖でもない。
もっと根の深い、名のつかない感情。

(ミュリエルは、もう“元に戻らない”のかもしれない)

 ふと、木陰から足音がした。

「・・・やっぱり、ここだったか」

顔を上げると、シルフィンの姿があった。
赤い短髪を揺らしながら、彼女は私の隣に腰を下ろす。

「ずっと浮かない顔してると思ったら、案の定ね。クラリッサ先生のこと?」

「・・・うん」

 私は静かにうなずく。
シルフィンは黙って、私の表情を見つめていた。
そして、ぽつりと呟く。

「ミュリエル、変だった。まるで別人みたいだった」

「やっぱり、そう見えた?」

「ええ。“誰かの言葉”をなぞってるだけみたいな、そんな感じ。・・・本当に気持ち悪かった」

そこへ、ライドとマシュルが駆け寄ってきた。

「やっほー、アリア。シルフィンも・・・やっぱり集まってたか」

「おれたちも、話したいことがある」

 マシュルが少し顔を曇らせながら言う。

「今朝、廊下で会った子が“夢で誰かに覗かれた気がする”って言ってたんだ。最初はただ、怖い夢を見たってだけかと思ったけど・・・」

「話の中で、“黒い鏡”とか“揺れる瞳”とか、視界に関するものがやたら出てくるんだ。これ・・・視界干渉の後遺症なんじゃないかって」

「つまり──クラリッサの魔法が、授業以外でも影響を及ぼしてる?」

 私の言葉に、全員が顔を引き締めた。

「“共鳴”ってあるよね。直接魔法をかけた相手だけじゃなく、その周囲の相手にも同じ魔法がかかるってやつ。もしかして、それで周りの子にも・・・?」

「もしくは、無意識のうちに“鍵”を植え付けてるとか。夢や記憶の中に、彼女の“視界”に繋がる扉を」

そこで最後に姿を見せたのは、ノエルとティナだった。

「アリア、私たちも協力する」

 ティナがまっすぐな瞳で言った。

「いくらなんでも、あんなのはおかしい。生徒を操るような行為なんて・・・まるで、前の学院長だわ」

「私もそう思う。あの女、怪しすぎる。みんなで、正体暴いてやろう」

「・・・ありがとう、みんな」

 私の胸に、少しだけ熱が灯る。
母が言っていた。「あなたの炎は、誰かを傷つけるためではなく、誰かのために灯るもの」だと。

きっと、これはそのときだ。
誰かの心を守るために、私はこの炎を使わなきゃいけない。

「まずは情報を集めよう。クラリッサの授業を受けた生徒たち、あの“視界干渉”のあとに異変を起こした子たち。そして──クラリッサ自身の過去」

「過去、ね・・・」

 マシュルが腕を組む。

「“神魔戦役”の頃、クラリッサはセリエナ様たち“八大魔女”と敵だったって話だ。何か残ってるかもしれないな、記録か痕跡か」

「それなら、学院の旧文書庫とか・・・?」

「もしくは、地下資料館。一般生徒は立ち入り禁止だけど、先生が魔導史の授業で入ることもあるし・・・あそこの管理員なら、鍵を持ってるかもな」

「・・・でも、頼みに行ったとして、と思う?」

「無理、だろうな」

そう言ってから、マシュルはなぜか明るい顔をした。

「だからな、ちょっと回りくどい方法で借りに行こう」

「・・・どういうこと?」

「水の魔法には、こういう時に役立つ魔法があるんだ・・・へへっ」

 その表情は、まるで良からぬことを企む小悪党のようだった。




 ──私たちは、ただの学生かもしれない。
だけど、心を蝕む“影”に気づいた今、見過ごすわけにはいかない。

クラリッサの目的は何か。
彼女はなぜ、この学院に教師として戻ってきたのか。

そして、なぜ“私”を見ているのか。

(──全部、突き止める)

 夜の闇が迫る中、私たちは静かに、けれど確かに歩き出した。
光の火種を、胸に抱きながら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...