灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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三章 学院生活・後半

184.冬の記憶のほとりで

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「アリアは目覚めた。あとは、彼女ね」

 母にそう言われて隣を見ると、そこにはまだ眠り続けるシルフィンの姿があった。
けれどその顔色は良く、鼓動も穏やかで──もう、彼女はあの閉ざされた檻の中にはいない。

やがて、学院長のソリス先生も部屋に入ってきた。
実にタイミングが良いですわ、と母に言われていたが、先生は「二人の無事を確認しに来ただけだ」と流した。

何気に、母と学院長が直接話している場面はこれまであまり見てこなかった気がする。
学院長はかつて、母を教えたことがあるらしいが。

 私は、どこで何をしていたのか、覚えている限りで話した。

学院長によると、“沈黙の檻”とは闇魔法に属する魔法の一つで、ある人物の魂を魔法で作った空間に閉じ込め、世界からその存在そのものを抹消するものだという。

 みんなが、シルフィンのことをきれいに忘れていたのは、そういうことだったようだ。

「それにしても、なぜシルフィンが“沈黙の檻”に囚われたのか・・・調査する必要がありそうです」

 学院長は、眼鏡越しに静かに私を見つめていたが、その視線には確かに、安堵と誇りが宿っていた。

「それなら、メジェラに任せればよいのでは?」

「そうするつもりです。彼女ほど闇魔法に詳しい者は、ゼスメリアにはいませんから」

学院長は、母にそう答えた。

「それにしても、アリア・・・あなたは、すごい偉業を成し遂げたものです」

 突如、学院長にそう言われた。

「・・・えっ?」

「“沈黙の檻”に封じられた者を助け出すのは、容易なことではありません。あれは、高位の闇魔法の一つ。本来ならば、十二歳の・・・それも適性の異なる魔法使いが干渉できる魔法ではない。・・・本当に、すごいことをなし得たものです」

 学院長だけでなく、その隣に立つ母も同じように私を褒めてくれた。
私は、「ただ、友人を救いたかっただけです」と答えたが、「それでもすごいことよ」と、母に言われた。

こういうキャラは、前世のアニメとかで割とよく見た気がする。
・・・別に、その気はないのだが。


 程なくして、シルフィンが目覚めた。
彼女は、“沈黙の檻”に囚われた時と、囚われている間のことを何も覚えていなかったが、私が助けたことは覚えていた。

まるで夢の中で聞いた声のように、私の名だけが胸に残っていたらしい。

 彼女は改めて、私に頭を下げてきた。

「ありがとう・・・助けてくれて」

なんだか照れくさかったが、私は答えた。

「別に・・・私はただ、大切な友人を助けただけよ」


 

 数日後、雪はさらに深まり、学院の中庭は白銀の絨毯に覆われていた。

私は、シルフィンを連れて学院の中庭を歩いていた。彼女の足取りはまだ少し頼りないけれど、それでも以前よりずっと力強い。

 そして、その中庭の石畳の向こうから──もう一人の少女が、静かに歩いてくるのが見えた。

赤いセミロングの髪、少し伏せがちな瞳。
けれど、その視線は真っ直ぐにシルフィンへ向けられていた。

「・・・サラ」

 シルフィンが立ち止まる。
サラもまた、数歩前で足を止めた。そして、深く息を吸い込んだあと──お辞儀をした。

「・・・ごめんなさい。シルフィンさん」

その言葉は、雪の上に落ちる羽のように静かで、けれど真剣だった。

「私は・・・ついこの前まで、あなたのことを忘れていました。毎日会っていたはずなのに、一緒に笑ったことも、名前さえも・・・頭からすっぽりと、消えていたんです」

 シルフィンの表情が揺れる。 サラは顔を上げ、少し震える声で続けた。

「それがどういう魔法だったのか、まだ全部は理解できていません。でも・・・“忘れていた”という事実だけは、どうしても、私の中に残っていて・・・」

 彼女の瞳に、涙が滲んでいた。

「本当に、ごめんなさい・・・シルフィンさんを、すぐ近くにいたはずの私が──忘れてしまっていたなんて、悔しくて・・・情けなくて・・」

静寂が降りた。 
その時間を、雪の冷たさが少しだけ長く感じさせた。

 だが──

「・・・謝らなくていいよ」

シルフィンが、そっと言った。

「それは、あなたのせいじゃない。誰のせいでもないんだよ。だって、私も・・・忘れられることが、こんなに怖いって知らなかったから」

 彼女は一歩、サラに近づく。

「でも・・・アリアが、私のことを“覚えていた”。そのおかげで、こうしてまた、サラとも会えた。だから、それでいいの」

サラは、ぽろりと涙をこぼした。

「・・・優しすぎますよ・・・シルフィンさん・・・」

 すると、シルフィンはふふっと微笑んで、少しだけ首をかしげた。

「そんなことないよ。私・・・サラにまた会えて、本当に嬉しい。だって、あなたは──大切な友達だから」

サラは、唇を震わせてから──ぎゅっとシルフィンを抱きしめた。

「・・・ありがとう。ありがとう・・・!」

 私は、少し離れた場所からその様子を見ていた。 胸が、ほっと温かくなった。

忘れられていた記憶。奪われかけた絆。
けれどそれを越えて、こうして再び出会えたこと。

それは、魔法以上の奇跡だったのかもしれない。

 舞い落ちる雪の下で、二人の少女は静かに抱き合っていた。
その温もりを、決してまた失わないようにと願うように。

 

──そして、年の瀬は、ゆっくりと近づいていた。


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