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四章 ミフィアの青と水音
207.運河と市場のひととき
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その後町と住民の無事を確認し、図書館司書のエレーナと別れた私たちは、しばらくエルヴァルドの街を歩くことにした。
魔物との戦いも終わり、封印の調査も一段落した。そんな時間だからこそ、少しだけ呼吸を整えたかった。
何より・・・せっかく外国の都市に来たのだ。この際、ちょっとは旅っぽいことをしてみたい。
私は、そんな風に思った。
エルヴァルド──水の国ミフィアの首都は、青く澄んだ水路と、石造りの家々が美しく調和した街だ。
空を映す水面には、舟と白い橋が交差し、窓辺には香り高い花と香水が揺れている。
まるで夢のような、美しい風景。
それでも、それは確かに、ここに生きている人々の暮らしだった。
「乗ってみたいです・・・あれ」
サラが指差したのは、小さな運河舟だった。
青い帆布が張られた日除け付きの遊覧船で、魔導でゆるやかに進むようになっているらしい。
中にはすでに何組かの観光客が乗っており、舟の縁に腕をかけながら、水の街をのんびりと眺めていた。
「いいね、少しだけでも」
ノエルが微笑んで、舟に乗り込んだ。
こうして、私たちは小舟に揺られながら、エルヴァルドの静かな水路を進んでいく。
舟の下で、水が優しく揺れる。
陽の光が水面を跳ね返し、建物の石壁にきらめきの模様を描いていた。
風は心地よく、かすかにバニラのような香水と、花の匂いが混じる。
「・・・ふぅ」
母──セリエナは、舟の端に腕をかけて、目を細めていた。
戦いの時とはまるで違う、穏やかで、少しだけ物憂げな横顔。
「この風、懐かしいな。ミフィアに来たの、十数年ぶりかしら」
「私が生まれる前も来たの?」
尋ねると、母は頷いた。
「ちょっとした任務でね・・・でも、その時よりずっときれいになってる」
母の声は、少しだけ遠い記憶を思い出しているようだった。
「アリアさん、あれ!」
サラが嬉しそうに指をさす。水辺に、野生の小鳥が集まっていた。
青い羽を広げて水浴びをしている姿は、本当に絵のように美しい。
こうして、短い時間だったけれど、私たちは水の都の“穏やかな顔”を眺めて過ごした。
舟を降りると、今度は市場を歩くことにした。
通りには、さまざまな屋台や露店が立ち並んでいた。
果物、香辛料、乾いた魚、布や装飾品、ガラスの器。歩くだけで目が楽しくなる。
「・・・ねぇ、これ食べてみていい?」
ノエルが珍しそうに目を細めたのは、淡い青色をした冷たいスープ。
どうやらミフィア特産の果実を使った「冷果のポタージュ」と呼ばれるもので、甘さの中にほんのりとした酸味があるらしい。
「冷たいのにスープって不思議だよね・・・でも、美味しそう」
ノエルが一口すすると、目を丸くして驚いた。
「ん・・・おいしいっ!あ、アリアも!」
私も試してみると、確かに驚きの味だった。
とろりとした食感と、果実の香り、それにほんのりミントのような清涼感。口の中がすうっと涼しくなった。
「これは・・・夏にぴったりね」
「はい。料理としても、完成度が高いです」
サラが感心したように頷き、今度は小さな飴菓子を手に取る。
水晶のように透明で、色とりどりの果実が中に封じられているような飴だった。
「“水晶砂糖”・・・すごい綺麗ですね」
サラは目を輝かせる。
「うん、買っておこう。あとで、母さんにも食べてもらいたい」
「ありがとう。・・・でも私は、こっちが気になるかしら」
母が手に取ったのは、辛味の強そうな赤い魚スープ。
見た目だけで汗が出そうな一品だったが、母はまったく臆さず口に運んだ。
「・・・ん、美味しいわね。辛いけど、深い味」
「えっ・・・母さん、意外と辛いの平気なんだ・・・」
母は小さく笑って、目だけで「子ども扱いしないで」と言った気がした。
こんなふうに、私たちはちょっと久しぶりに、戦いでも調査でもない時間を過ごした。
──けれど、私の胸の奥では、まだ熱が灯り続けていた。
あの予言の言葉、あの魔物の言葉。
「鍵と扉」。私とサラを狙うものたちは、きっとこれからも姿を変えて現れる。
でも、それでもいい。
こうして、守りたいと思える風景があるから。
守りたいと思える、仲間や家族がいるから。
私は、再び歩き出す。
今はまだ、“選ぶ力”が、自分の中にあると信じて。
魔物との戦いも終わり、封印の調査も一段落した。そんな時間だからこそ、少しだけ呼吸を整えたかった。
何より・・・せっかく外国の都市に来たのだ。この際、ちょっとは旅っぽいことをしてみたい。
私は、そんな風に思った。
エルヴァルド──水の国ミフィアの首都は、青く澄んだ水路と、石造りの家々が美しく調和した街だ。
空を映す水面には、舟と白い橋が交差し、窓辺には香り高い花と香水が揺れている。
まるで夢のような、美しい風景。
それでも、それは確かに、ここに生きている人々の暮らしだった。
「乗ってみたいです・・・あれ」
サラが指差したのは、小さな運河舟だった。
青い帆布が張られた日除け付きの遊覧船で、魔導でゆるやかに進むようになっているらしい。
中にはすでに何組かの観光客が乗っており、舟の縁に腕をかけながら、水の街をのんびりと眺めていた。
「いいね、少しだけでも」
ノエルが微笑んで、舟に乗り込んだ。
こうして、私たちは小舟に揺られながら、エルヴァルドの静かな水路を進んでいく。
舟の下で、水が優しく揺れる。
陽の光が水面を跳ね返し、建物の石壁にきらめきの模様を描いていた。
風は心地よく、かすかにバニラのような香水と、花の匂いが混じる。
「・・・ふぅ」
母──セリエナは、舟の端に腕をかけて、目を細めていた。
戦いの時とはまるで違う、穏やかで、少しだけ物憂げな横顔。
「この風、懐かしいな。ミフィアに来たの、十数年ぶりかしら」
「私が生まれる前も来たの?」
尋ねると、母は頷いた。
「ちょっとした任務でね・・・でも、その時よりずっときれいになってる」
母の声は、少しだけ遠い記憶を思い出しているようだった。
「アリアさん、あれ!」
サラが嬉しそうに指をさす。水辺に、野生の小鳥が集まっていた。
青い羽を広げて水浴びをしている姿は、本当に絵のように美しい。
こうして、短い時間だったけれど、私たちは水の都の“穏やかな顔”を眺めて過ごした。
舟を降りると、今度は市場を歩くことにした。
通りには、さまざまな屋台や露店が立ち並んでいた。
果物、香辛料、乾いた魚、布や装飾品、ガラスの器。歩くだけで目が楽しくなる。
「・・・ねぇ、これ食べてみていい?」
ノエルが珍しそうに目を細めたのは、淡い青色をした冷たいスープ。
どうやらミフィア特産の果実を使った「冷果のポタージュ」と呼ばれるもので、甘さの中にほんのりとした酸味があるらしい。
「冷たいのにスープって不思議だよね・・・でも、美味しそう」
ノエルが一口すすると、目を丸くして驚いた。
「ん・・・おいしいっ!あ、アリアも!」
私も試してみると、確かに驚きの味だった。
とろりとした食感と、果実の香り、それにほんのりミントのような清涼感。口の中がすうっと涼しくなった。
「これは・・・夏にぴったりね」
「はい。料理としても、完成度が高いです」
サラが感心したように頷き、今度は小さな飴菓子を手に取る。
水晶のように透明で、色とりどりの果実が中に封じられているような飴だった。
「“水晶砂糖”・・・すごい綺麗ですね」
サラは目を輝かせる。
「うん、買っておこう。あとで、母さんにも食べてもらいたい」
「ありがとう。・・・でも私は、こっちが気になるかしら」
母が手に取ったのは、辛味の強そうな赤い魚スープ。
見た目だけで汗が出そうな一品だったが、母はまったく臆さず口に運んだ。
「・・・ん、美味しいわね。辛いけど、深い味」
「えっ・・・母さん、意外と辛いの平気なんだ・・・」
母は小さく笑って、目だけで「子ども扱いしないで」と言った気がした。
こんなふうに、私たちはちょっと久しぶりに、戦いでも調査でもない時間を過ごした。
──けれど、私の胸の奥では、まだ熱が灯り続けていた。
あの予言の言葉、あの魔物の言葉。
「鍵と扉」。私とサラを狙うものたちは、きっとこれからも姿を変えて現れる。
でも、それでもいい。
こうして、守りたいと思える風景があるから。
守りたいと思える、仲間や家族がいるから。
私は、再び歩き出す。
今はまだ、“選ぶ力”が、自分の中にあると信じて。
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