灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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四章 ミフィアの青と水音

269.繰り返される朝

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 翌朝。
薄曇りの空の下、カルメリアの村は静かに目覚めていた。

私は、サラやノエルと共に宿の前に立つ。
広場では、昨日と同じように──いや、昨日と“まったく”同じように──村人たちが挨拶を交わしていた。

「ようこそ、カルメリアへ」
「ようこそ、カルメリアへ」

 目の前を通りかかった老婦人と、別の青年が、全く同じ声色と抑揚でそう言った。
顔も笑顔も、微動だにせず──それは、まるで・・・

「昨日と、同じ・・・?」

ノエルがぽつりと呟く。
私は昨日の記憶を辿り、思わずゾクリとした。

広場の隅では、畑を耕している男がいる。
けれど、その動きも…

「──昨日と、同じだわ」

 母が、低く呟いた。
それは、昨日と全く同じ位置で、同じ動作を繰り返している。

鍬を振り、畝を整え、同じように立ち上がり、同じ手の動きで汗を拭う──その一つ一つが、昨日と寸分違わぬ“繰り返し”だった。

「・・・これ・・・」

 サラが、青ざめた顔で私にしがみつく。

「もしかして、操られてる・・・?」

 そう──まるで、人形のように。
正気のまま、昨日の自分の行動を“模倣させられている”かのように。

その時、シェルが静かに口を開いた。

「・・・そこはわからない。けど少なくとも、この村に何かが起きているのは間違いなさそうね」

 話している間にも、人々は挨拶をしながら通り過ぎてゆく。

「おはようございます」
「おはようございます」

別におかしいことではないはずなのに、機械的に同じ言動を二人の人が繰り返す、ということに、得体の知れない恐怖を感じる。

「なんか、怖いです・・・」

 サラが不安そうに私の袖を握る。
私も、思わず生唾を飲み込んだ。

その時、シェルが静かに目を細める。

「・・・あれを見て」

 指差した先には、村の中央──
昨日も見た、あの苔むした古井戸があった。

「・・・井戸?」

ノエルが首を傾げた。

私は、視線を凝らしてその場所を見つめる。
すると──

井戸の縁に、ひとりの老人が腰をかけていた。
ふと思ったが、あの人──昨日もあそこに、同じように座っていた。

 そして今、その老人は昨日とまったく同じ姿勢で、同じように微笑み、同じように杖を膝に置いていた。
瞬き一つせず。呼吸すらしていないように、見えるほどに。

「・・・あの人、昨日もあのままだった」

「私も見ました。まるで・・・時間が止まってるみたいです」

サラが、震える声で言った。
私は、強くリーヴァの柄を握る。

「操られてる、じゃなくて、もしかして・・・ 」

「そう」

 母が、静かに頷いた。

「何かが、村全体を“固定”しているのよ」

固定──まるで、時間も人も、すべてを止めて“昨日の繰り返し”に閉じ込めるように。

 シェルは、ゆっくりと歩みを進めながら言った。

「・・・この村、全体に何か強力な魔法がかかってる。村の人が、ここまで強力な魔法を扱えるものかしら」

「え、魔法?村に?かかってます・・・?」

正直、私にはわからない。
一流の魔法学院を出た魔女が、ものに魔法がかかっているかどうかもわからないとは情けない話だが。

「ええ。魔力の痕跡はほとんどないけど・・・村自体に魔法がかかってる」

 魔力の痕跡がない?
・・・そんなこと、あるのだろうか。
でもまあ、もしそうだとしたら、わからなかったのも納得だ。

魔法使いは魔力の痕跡が見えるから、それで魔法がかかっているかを判断する。
逆に言えば、もし痕跡が見えなければ、仮に魔法がかけられていてもわからない。

 というかもしそうだとしたら、なぜシェルは村に魔法がかけられているとわかったのだろう。
まあ、彼女は母と同じ「大魔女」だし、私やサラにはわからないものもわかるのだろう。

「もしかすると・・・あの井戸が、村を包む魔法の中心・・・“源”かもしれないわ」

母にも、村に魔法がかかっていることがわかったようだ。
やはり、彼女たちにしかわからないものがあるに違いない。

「それに・・・“魔寄せの石”が関係してると?」

「ええ、その線が濃いと思うわ」

 シェルは短く答えると、井戸のほうへ向き直った。

「どちらにせよ、放ってはおけない。確かめましょう」

「──はい!」

私たちは、井戸へと向かって歩き出した。

繰り返される“昨日”の中を、止まった村人たちの間を縫うようにして──
私たちだけが、“今日”を進む者として。

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