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四章 ミフィアの青と水音
271.偽りの石
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封印を終えた“魔寄せの石”を手に、私たちはゆっくりと井戸の光の糸を登っていった。
上から差し込む光は、いつの間にか少し明るさを増していた。
朝日が、雲間から覗き始めているのだろう。
地上に戻ると、井戸の傍ではノエルとサラが、例の老人を座らせたまま静かに見守っていた。
老人は、相変わらず虚ろな笑みを浮かべたまま、ぼんやりと前を見つめている。
「・・・おかえりなさい」
ノエルが声をかける。
私たちが地上に戻ったことに気づいたサラも、ほっとしたように小さく微笑んだ。
「石は、回収できたわ」
母が短く言うと、ノエルが安堵の息をつく。
「これで、村も元に戻るんでしょうか?」
その問いに、母は少しだけ目を伏せて答えた。
「・・・まだ、わからない」
「え?」
思わず声を上げたサラに、母は言う。
「確かに、“魔寄せの石”は封印して、取り除いた。でも、何かおかしいのよ。村を覆っていた魔力が、思ったよりも弱まってないの」
それを聞いて、ノエルも表情を曇らせた。
「えっ・・・?」
「魔力が弱まってない・・・ってことは、まだ他にもあるってことですか?」
「もしくは──“囮”か」
シェルが、はっきりとそう言った。
私は、ぐっと唇を噛みしめた。
──私たちは、騙されていた?
・・・信じられない。否、信じたくなかった。
でも私はその瞬間、魔寄せの石が井戸に入っただけであっさり見つかり、しかも魔物が出てくることもなく、楽に封印できてしまったことを思い返した。
それに、井戸の底で見つけた石は青白い光を放っていた。これまでの都市にあったものは、どれも紫の光を放っていたのに。
・・・今にして考えると、不自然な点が明らかに多い。
「・・・それでも、まずは村を見てみましょう」
母がそう言い、私たちは頷いた。
──本当に、村が元に戻ったのか。
それを、確かめなくてはならない。
私たちは、静まり返る広場へと向かって歩き出した。
異様な“昨日”の繰り返しが、解けていることを願いながら。
朝霧が消え、日が高くなり始めた中、村人たちは・・・
「ようこそ、カルメリアへ」
「ようこそ、カルメリアへ」
──さっきまでと、まったく同じ光景だった。
「っ・・・!」
思わず立ち止まる。
目の前を通り過ぎた二人の村人は、同じ抑揚、同じ声色で、まるで機械のように挨拶を繰り返していた。
「・・・変わってない」
ノエルが、信じられないものを見るように呟く。
サラも、不安そうに私の袖を握った。
「石を封じたのに・・・」
私は息を呑んだ。それどころか──
「・・・待って」
母が立ち止まり、広場の奥を指差した。
そこには、畑を耕す男。
その動きが──
「昨日と・・・いや、さっきと同じ」
まるで、まったく同じ時間が流れているかのように、同じ場所で同じ動作を繰り返していた。
私は、昨日の朝見た時の記憶と、さっき井戸に行く前の光景を思い返す。
──同じだ。すべてが。
「これ・・・まさか、本当に・・・」
「ええ」
母が、低く答える。
「私たちが封じたのは、“囮”だったのでしょう」
「えっ・・・?」
サラが怯えた声を上げる。
母は頷き、重い口調で続けた。
「本物の“魔寄せの石”は、まだこの村のどこかにある。それがある限り、村の魔法は消えないし、村人たちも戻らないでしょうね」
私は、もう一度石を見た。
シェルが封じたその石は、今は小さな結界の中に納められ、ミラ女王の手にある。
改めて見ると、やはり放つ光の色が違う。
・・・よく見るとそれだけでなく、質感もこれまでのものと微妙に違っていた。
(だったら・・・)
私は唇を噛んだ。
これが囮ということは、誰かが意図的に“ダミー”を仕掛け、私たちを欺いたということだ──。
「──アリア」
母が、私の肩にそっと手を置いた。
その目は、まっすぐに私を見据えている。
「ここからが、本当の調査よ。今度こそ、本物の石を見つけましょう」
「・・・はい」
私は強く頷いた。
今度こそ、終わらせるために──
私たちは、静かに村の奥へと歩き出した。
上から差し込む光は、いつの間にか少し明るさを増していた。
朝日が、雲間から覗き始めているのだろう。
地上に戻ると、井戸の傍ではノエルとサラが、例の老人を座らせたまま静かに見守っていた。
老人は、相変わらず虚ろな笑みを浮かべたまま、ぼんやりと前を見つめている。
「・・・おかえりなさい」
ノエルが声をかける。
私たちが地上に戻ったことに気づいたサラも、ほっとしたように小さく微笑んだ。
「石は、回収できたわ」
母が短く言うと、ノエルが安堵の息をつく。
「これで、村も元に戻るんでしょうか?」
その問いに、母は少しだけ目を伏せて答えた。
「・・・まだ、わからない」
「え?」
思わず声を上げたサラに、母は言う。
「確かに、“魔寄せの石”は封印して、取り除いた。でも、何かおかしいのよ。村を覆っていた魔力が、思ったよりも弱まってないの」
それを聞いて、ノエルも表情を曇らせた。
「えっ・・・?」
「魔力が弱まってない・・・ってことは、まだ他にもあるってことですか?」
「もしくは──“囮”か」
シェルが、はっきりとそう言った。
私は、ぐっと唇を噛みしめた。
──私たちは、騙されていた?
・・・信じられない。否、信じたくなかった。
でも私はその瞬間、魔寄せの石が井戸に入っただけであっさり見つかり、しかも魔物が出てくることもなく、楽に封印できてしまったことを思い返した。
それに、井戸の底で見つけた石は青白い光を放っていた。これまでの都市にあったものは、どれも紫の光を放っていたのに。
・・・今にして考えると、不自然な点が明らかに多い。
「・・・それでも、まずは村を見てみましょう」
母がそう言い、私たちは頷いた。
──本当に、村が元に戻ったのか。
それを、確かめなくてはならない。
私たちは、静まり返る広場へと向かって歩き出した。
異様な“昨日”の繰り返しが、解けていることを願いながら。
朝霧が消え、日が高くなり始めた中、村人たちは・・・
「ようこそ、カルメリアへ」
「ようこそ、カルメリアへ」
──さっきまでと、まったく同じ光景だった。
「っ・・・!」
思わず立ち止まる。
目の前を通り過ぎた二人の村人は、同じ抑揚、同じ声色で、まるで機械のように挨拶を繰り返していた。
「・・・変わってない」
ノエルが、信じられないものを見るように呟く。
サラも、不安そうに私の袖を握った。
「石を封じたのに・・・」
私は息を呑んだ。それどころか──
「・・・待って」
母が立ち止まり、広場の奥を指差した。
そこには、畑を耕す男。
その動きが──
「昨日と・・・いや、さっきと同じ」
まるで、まったく同じ時間が流れているかのように、同じ場所で同じ動作を繰り返していた。
私は、昨日の朝見た時の記憶と、さっき井戸に行く前の光景を思い返す。
──同じだ。すべてが。
「これ・・・まさか、本当に・・・」
「ええ」
母が、低く答える。
「私たちが封じたのは、“囮”だったのでしょう」
「えっ・・・?」
サラが怯えた声を上げる。
母は頷き、重い口調で続けた。
「本物の“魔寄せの石”は、まだこの村のどこかにある。それがある限り、村の魔法は消えないし、村人たちも戻らないでしょうね」
私は、もう一度石を見た。
シェルが封じたその石は、今は小さな結界の中に納められ、ミラ女王の手にある。
改めて見ると、やはり放つ光の色が違う。
・・・よく見るとそれだけでなく、質感もこれまでのものと微妙に違っていた。
(だったら・・・)
私は唇を噛んだ。
これが囮ということは、誰かが意図的に“ダミー”を仕掛け、私たちを欺いたということだ──。
「──アリア」
母が、私の肩にそっと手を置いた。
その目は、まっすぐに私を見据えている。
「ここからが、本当の調査よ。今度こそ、本物の石を見つけましょう」
「・・・はい」
私は強く頷いた。
今度こそ、終わらせるために──
私たちは、静かに村の奥へと歩き出した。
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