灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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五章 ラグルの呼び声

310.観測者は語らない

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 食事を終え、私たちは店を出た。

「カノン」の外は夕暮れが近づいていて、町の空気はさらに重く、鈍くなっていた。風も、ない。

「・・・さっきの話、やっぱりただの地鳴りじゃない。誰かが、何かを目覚めさせようとしてる。・・・そんな気がする」

 ノエルの言葉に、母が頷いた。

「塔に入るには、結界を突破しなければならないわ。でも、正面からは無理ね。塔の魔力場は“内側”に向かって開いている。外から干渉すれば、逆に反発を受ける」

「じゃあ、内部に精通してる人に話を聞くしかないですね」

サラが言った、その瞬間だった。

──コツン、と石畳を鳴らす細い足音が、背後から近づいてきた。

 振り返ると、白いローブを着た少年が一人、静かに立っていた。年は私とそう変わらないように見える。けれど、その目は──底冷えするような無感情だった。

「お探しですか。“塔のこと”を」

その言葉に、一瞬、全員の空気が張り詰める。

「あなた・・・もしかして、“ラザル”の?」

 母が問うと、男は淡く微笑んだ。

「ええ。調査班第二塔管区所属、ユークリス・ラザル。ラザルの名を持つ者は皆、血と魔力を通じて繋がっています。つまり、僕は《地の観測者》でもあります」

彼の名乗りには、どこか形式的な響きがあった。

「あなたは、レフェの大魔女セリエナ・ベルナード様。そして、そのご令嬢・・・アリア様ですね」

 私の名を口にしたとき、思わず足が止まった。

「・・・どうして、それを」

「“地”が、感じ取るんですよ。“異なる流れ”がこの町に入ってきたことを。僕らは、そういうものに反応するんです」

その言い方が気に障ったのか、サラが半歩前に出た。

「で? それを感じ取ったから、こうして“話しかけてきた”と?」

「いいえ、逆です。警告に来たんです」

 空気が、一段冷えた。

「塔には、近づかないほうがいい。あの封印は──まだ“保っている”だけです。中で何が起きているか、僕らにも全容は見えていない」

「でも、調査はしてるんでしょう?」

ノエルが問いかける。

「・・・調査、というより“観測”です。あの塔は、もはや“地殻と同化”し始めている。オルガ様はその過程に入られた。だから我々は手出しできない。できるのは、ただ待つことだけ」

「待って、何を?」

「“結果”です。地が静まるのか。目覚めるのか」

 ユークリスの言葉は、どこか他人事のようで、そして──どこかで覚悟を決めている者のものでもあった。

「仮に、目覚めたら?」

私の問いに、彼ははっきりと答えた。

「その時は、町ごと、封鎖します」

「・・・!」

 思わず口を開いたが、母がそっと私の腕を抑えた。

「ありがとう。助言には感謝するわ。でも、私たちはただ待つ気はない。オルガに、会いに来たの」

「ならば、お好きに。ただ──あなたたちは“流れを変える者”の気配が強い。気をつけた方がいい。“地”は、変化を拒むものですから」

 そう言って、彼はくるりと背を向けた。
風のない通りを、ただ静かに、石畳を踏んで去っていく。

その背中を見送りながら、私は息を整えた。

「・・・どう思う?」

「彼は、“信じてる”のよ。オルガが、塔の奥で“何かと融合してる”ことを」

 母の言葉に、ノエルがぽつりと呟く。

「・・・あるいは、封じきれない何かを、自分ごと内に引きずり込んだか──」

私たちは再び、塔の方角を見る。

塔はまだ沈黙していた。
だが、その沈黙が終わる時は、夜の闇の中にある。
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