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第二部 砂の異種族
第31章 サーラの暁
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どれくらい時間が経っただろう。
彼女の腕の中で息を整えながら、僕は確かに感じていた。
この夜に味わったのは、ただの“快楽”じゃない。命と命が触れ合って、何かが芽吹こうとする瞬間だった。
「ありがとう、海斗…あなたが来てくれて、よかった」
眠たげに微笑むシャリファの声が、僕の耳に優しく響いた。
その言葉に、僕もまた静かに頷く。
僕はここにいる。彼女たちの傍で、”契り”の相手として、生きていく──。
朝が来た。
砂漠の空に、淡い光が差し始めている。
僕は目を開けると、隣に眠るシャリファの横顔を見つめた。
静かに寝息を立てるその顔は、昨夜見せた情熱の面影を残しながらも、どこか幼く、穏やかだった。
褐色の肌に広がる、白銀の髪。
灯火のない夜明け前の薄明かりの中で、シャリファの姿はまるで幻想だった。
僕はそっと指先で、そんな彼女の髪を撫でる。
それだけで夜のことを思い出し、胸の奥が熱くなる。
ふと、シャリファが目を開いた。
「…ん、おはよう、海斗」
まだ眠たげな声。瞳が潤んでいて、眠りから覚めたばかりだとわかる。
だけど、その赤い瞳が僕を見つめた瞬間、不思議と心が落ち着いた。
「おはよう、シャリファ。…よく眠れた?」
「ええ。とても…ね」
シャリファはそう言って微笑んだ。
この笑顔は、やっぱり綺麗だと思う。
ゆっくりと身を起こすと、彼女は軽く腕を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
風が、窓の隙間から吹き込んでくる。
乾いた砂漠の空気に、ほんの少しだけ、草花の香りが混じっていた。
「…ありがとう。あなたと契りを交わせてよかった」
彼女の声は、昨夜よりもずっと落ち着いていて、けれど確かな熱があった。
僕は、目をそらさずに頷いた。
「僕も。君が…僕を受け入れてくれて、嬉しいよ」
「私、あなたを満たせたかしら」
シャリファもきっと満たされただろう。でも、僕だってそうだ。彼女のまっすぐな瞳と、豊かな体に満たされた。
「もちろんだよ。君だけじゃない、ティスだって僕を満たしてくれたよ。他のサーラの皆だって、きっと」
僕がそう言うと、シャリファはふっと笑って、手を伸ばし僕の頬に触れた。
「優しいのね、あなたって」
「そうかなあ」
静かな時間が流れる。
やがて外では、サーラの集落の朝の営みが始まりつつあった。小鳥の声。誰かが井戸から水を汲む音。
それを聞きながら、僕はまた彼女の髪を撫でた。
「行こうか」
「ええ」
僕とシャリファはゆっくりと身支度を整え、朝の光が差し込む外へと歩き出す。
砂漠の朝はまだ冷たく、空気は澄んでいる。
集落の広場では、数人のサーラたちが朝の支度をしていた。水を運ぶ者、簡単な朝食の支度をする者。
彼女たちは僕たちを見ると、にこやかに挨拶をくれる。
「あら、おはよう、シャリファ。それに…えっと、海斗」
「朝からいい顔してるわね。さぞや楽しかったんでしょうね」
その一言に、シャリファは少し頬を染めて、でも穏やかに微笑んだ。
彼女たちの眼差しはどこか温かく、柔らかい。
この地で僕が“受け入れられつつある”ことを、肌で感じる。
僕も、自然に笑顔を返していた。
ふと、広場の奥にある簡素な石造りの建物から、ティスが現れた。
金の瞳が朝日に照らされ、いつもよりも柔らかく見える。
彼女は僕たちに気づくと、静かに歩み寄ってきた。
「二人とも、良い朝を迎えられたようだな」
「うん。とても」
僕の答えに、ティスは小さく頷いた。
「それなら、よかった。…海斗、今日の午後、話がある。」
彼女の声は穏やかだったが、その奥に何か、決意のようなものが見えた。
「わかった。午後に、ティスのところへ行けばいいんだね」
「ああ。私たちサーラの未来に関わる、大切な話だ」
その言葉に、僕は少しだけ身を引き締める。
そうだ、僕はただ愛を交わすために来たわけじゃない。彼女たちの「未来」を、共に背負うために、ここにいるんだ。
「わかった。必ず行くよ」
ティスは満足そうにうなずき、再び建物の中へと戻っていった。
その背中を見送ってから、シャリファが僕の腕をそっと取る。
「なんか、すごいことが起きそうな予感がする。でも、あなたと一緒なら…大丈夫そう」
シャリファはそっと、唇を重ねてきた。
それは熱を帯びた夜の口づけとはまた違った、優しい温もりのあるものだった。
彼女の腕の中で息を整えながら、僕は確かに感じていた。
この夜に味わったのは、ただの“快楽”じゃない。命と命が触れ合って、何かが芽吹こうとする瞬間だった。
「ありがとう、海斗…あなたが来てくれて、よかった」
眠たげに微笑むシャリファの声が、僕の耳に優しく響いた。
その言葉に、僕もまた静かに頷く。
僕はここにいる。彼女たちの傍で、”契り”の相手として、生きていく──。
朝が来た。
砂漠の空に、淡い光が差し始めている。
僕は目を開けると、隣に眠るシャリファの横顔を見つめた。
静かに寝息を立てるその顔は、昨夜見せた情熱の面影を残しながらも、どこか幼く、穏やかだった。
褐色の肌に広がる、白銀の髪。
灯火のない夜明け前の薄明かりの中で、シャリファの姿はまるで幻想だった。
僕はそっと指先で、そんな彼女の髪を撫でる。
それだけで夜のことを思い出し、胸の奥が熱くなる。
ふと、シャリファが目を開いた。
「…ん、おはよう、海斗」
まだ眠たげな声。瞳が潤んでいて、眠りから覚めたばかりだとわかる。
だけど、その赤い瞳が僕を見つめた瞬間、不思議と心が落ち着いた。
「おはよう、シャリファ。…よく眠れた?」
「ええ。とても…ね」
シャリファはそう言って微笑んだ。
この笑顔は、やっぱり綺麗だと思う。
ゆっくりと身を起こすと、彼女は軽く腕を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
風が、窓の隙間から吹き込んでくる。
乾いた砂漠の空気に、ほんの少しだけ、草花の香りが混じっていた。
「…ありがとう。あなたと契りを交わせてよかった」
彼女の声は、昨夜よりもずっと落ち着いていて、けれど確かな熱があった。
僕は、目をそらさずに頷いた。
「僕も。君が…僕を受け入れてくれて、嬉しいよ」
「私、あなたを満たせたかしら」
シャリファもきっと満たされただろう。でも、僕だってそうだ。彼女のまっすぐな瞳と、豊かな体に満たされた。
「もちろんだよ。君だけじゃない、ティスだって僕を満たしてくれたよ。他のサーラの皆だって、きっと」
僕がそう言うと、シャリファはふっと笑って、手を伸ばし僕の頬に触れた。
「優しいのね、あなたって」
「そうかなあ」
静かな時間が流れる。
やがて外では、サーラの集落の朝の営みが始まりつつあった。小鳥の声。誰かが井戸から水を汲む音。
それを聞きながら、僕はまた彼女の髪を撫でた。
「行こうか」
「ええ」
僕とシャリファはゆっくりと身支度を整え、朝の光が差し込む外へと歩き出す。
砂漠の朝はまだ冷たく、空気は澄んでいる。
集落の広場では、数人のサーラたちが朝の支度をしていた。水を運ぶ者、簡単な朝食の支度をする者。
彼女たちは僕たちを見ると、にこやかに挨拶をくれる。
「あら、おはよう、シャリファ。それに…えっと、海斗」
「朝からいい顔してるわね。さぞや楽しかったんでしょうね」
その一言に、シャリファは少し頬を染めて、でも穏やかに微笑んだ。
彼女たちの眼差しはどこか温かく、柔らかい。
この地で僕が“受け入れられつつある”ことを、肌で感じる。
僕も、自然に笑顔を返していた。
ふと、広場の奥にある簡素な石造りの建物から、ティスが現れた。
金の瞳が朝日に照らされ、いつもよりも柔らかく見える。
彼女は僕たちに気づくと、静かに歩み寄ってきた。
「二人とも、良い朝を迎えられたようだな」
「うん。とても」
僕の答えに、ティスは小さく頷いた。
「それなら、よかった。…海斗、今日の午後、話がある。」
彼女の声は穏やかだったが、その奥に何か、決意のようなものが見えた。
「わかった。午後に、ティスのところへ行けばいいんだね」
「ああ。私たちサーラの未来に関わる、大切な話だ」
その言葉に、僕は少しだけ身を引き締める。
そうだ、僕はただ愛を交わすために来たわけじゃない。彼女たちの「未来」を、共に背負うために、ここにいるんだ。
「わかった。必ず行くよ」
ティスは満足そうにうなずき、再び建物の中へと戻っていった。
その背中を見送ってから、シャリファが僕の腕をそっと取る。
「なんか、すごいことが起きそうな予感がする。でも、あなたと一緒なら…大丈夫そう」
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