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一章
異世界転移、始まり
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なんとなく、生きてた。
目的があったわけじゃない。ただ、朝が来て、夜が来て、それを繰り返していた。
嫌なことも、たくさんあった。
言葉にすればきっと軽くなってしまうから、誰にも言わなかった。
黙って耐えて、目を逸らして、息を潜めて。
ある日、病院にいた。何の治療だったかはもう思い出せない。
点滴の音、誰かの足音、消毒液のにおい。
──気づいたら、それが全部、消えていた。
目を覚ましたら、空が知らない色をしていた。
聞こえるはずのない風の音。見慣れない景色。妙に鮮やかな空気。
……なぜか、異世界に転移していた。
なんだ、ここ。
確か俺は、病院にいたはずだ。点滴を刺されて、白い天井をぼんやりと見ていた……はずだ。
けれど今、目の前に広がっているのは、まるで絵本の中のような風景だった。
空は深い藍色で、光源のわからない光が辺りを照らしている。草木の色も不自然に鮮やかで──
何より、周囲には“人間じゃないもの”が歩いている。
……異世界?
いや、そんな馬鹿な。夢か、幻覚でも見てるんだろうか。
でも──
……感覚は、ある。肌に風を感じる。足元の土の硬さも。心臓が、ちゃんと鼓動を刻んでる。
『おい、お前』
──!?
突然、背後から声がかけられた。
振り返ると、そこには異様なほど整った顔立ちをした男が立っていた。
人間……には、見える。でも、目が、妙に鋭い。まるでこちらの“すべて”を見透かしてくるような目だった。
「……その顔、隠す必要あるのか?」
フードの影に触れるその言葉に、なぜか心臓が強く跳ねた。
唐突にそう言われて、思わず一歩、後ずさった。
こいつは──何者だ?
見た目は人間。だけどただの人間じゃない。剣のように研ぎ澄まされた気配を纏っている。
目が離せなかった。というより、離せなくさせられていた。
「……別に、隠す理由は……」
嘘だ。
本当は、理由がある。でも、そう言うわけにもいかなくて、曖昧に濁すしかなかった。
男は一歩、ゆうに近づく。
その動作は驚くほど静かで、洗練されていた。まるで、舞台の上で誰かを射抜く王のように。
「フード、取ってみろ」
「……は?……いやに決まってるだろ」
思わず口から出たその言葉に、自分でも驚いた。
拒絶というより、防衛本能だった。
それなのに──
「ふーん……」
男は、それを“面白い”と言いたげに微笑んだ。
何かを暴こうとする者の顔。強く、ゆがんだ好奇心が、その表情には滲んでいた。
「お前、名前は?」
「……」
「ああ、やっぱり。お前、異世界から来ただろ?」
「──は?」
完全に、見透かされていた。
目的があったわけじゃない。ただ、朝が来て、夜が来て、それを繰り返していた。
嫌なことも、たくさんあった。
言葉にすればきっと軽くなってしまうから、誰にも言わなかった。
黙って耐えて、目を逸らして、息を潜めて。
ある日、病院にいた。何の治療だったかはもう思い出せない。
点滴の音、誰かの足音、消毒液のにおい。
──気づいたら、それが全部、消えていた。
目を覚ましたら、空が知らない色をしていた。
聞こえるはずのない風の音。見慣れない景色。妙に鮮やかな空気。
……なぜか、異世界に転移していた。
なんだ、ここ。
確か俺は、病院にいたはずだ。点滴を刺されて、白い天井をぼんやりと見ていた……はずだ。
けれど今、目の前に広がっているのは、まるで絵本の中のような風景だった。
空は深い藍色で、光源のわからない光が辺りを照らしている。草木の色も不自然に鮮やかで──
何より、周囲には“人間じゃないもの”が歩いている。
……異世界?
いや、そんな馬鹿な。夢か、幻覚でも見てるんだろうか。
でも──
……感覚は、ある。肌に風を感じる。足元の土の硬さも。心臓が、ちゃんと鼓動を刻んでる。
『おい、お前』
──!?
突然、背後から声がかけられた。
振り返ると、そこには異様なほど整った顔立ちをした男が立っていた。
人間……には、見える。でも、目が、妙に鋭い。まるでこちらの“すべて”を見透かしてくるような目だった。
「……その顔、隠す必要あるのか?」
フードの影に触れるその言葉に、なぜか心臓が強く跳ねた。
唐突にそう言われて、思わず一歩、後ずさった。
こいつは──何者だ?
見た目は人間。だけどただの人間じゃない。剣のように研ぎ澄まされた気配を纏っている。
目が離せなかった。というより、離せなくさせられていた。
「……別に、隠す理由は……」
嘘だ。
本当は、理由がある。でも、そう言うわけにもいかなくて、曖昧に濁すしかなかった。
男は一歩、ゆうに近づく。
その動作は驚くほど静かで、洗練されていた。まるで、舞台の上で誰かを射抜く王のように。
「フード、取ってみろ」
「……は?……いやに決まってるだろ」
思わず口から出たその言葉に、自分でも驚いた。
拒絶というより、防衛本能だった。
それなのに──
「ふーん……」
男は、それを“面白い”と言いたげに微笑んだ。
何かを暴こうとする者の顔。強く、ゆがんだ好奇心が、その表情には滲んでいた。
「お前、名前は?」
「……」
「ああ、やっぱり。お前、異世界から来ただろ?」
「──は?」
完全に、見透かされていた。
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