奇をもって貴しとなす日替部

山野 凌

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世界に一つだけのメシ

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 とある昼休み。

 日替部の五人は部室で顔を突き合わせていた。

 この時間に全員が集まるのは珍しい。今日はなぜか校内にあるランチスポットがことごとく混んでいたのだ。

「そういえばあ、みんなのお昼ってどういう感じなのかしらあ?」

 おのおのが昼食の準備を始めたところで、まのか部長が口火を切る。

「ちなみにわたしはこういうのなんだけどお」

 そう言って差し出したのは、金箔がふんだんに施された漆塗りのお重。

「「「「おおおおおーーーーー…………」」」」

 感嘆の四重奏が部室を包んだ。

 超高級食材をふんだんに使用したおかずが、これでもかとばかりひしめき合っている。見るからに原価も栄養価も高いラインナップだ。

「有名シェフの監修らしいけどお、正直もう飽き飽きなのよねえ、こういうのお。何というかあ、庶民の味に飢えている感じなのお、最近のわたしってえ」

 いつも通りのおっとりした調子で、まのか部長が語る。普通に聞けば激烈嫌味な自慢話なのだが、口にしている本人の表情はどこかさえない。

「よし、じゃあ順に披露な。あたしゃこんなだ」

 気分を変えるように、沙妃先輩が手持ちの巾着袋を開けた。

 出てきたのはやや大きめな、多分男子用の弁当箱。

「そーい」

 中身は、びっしり詰め込まれた白米と中華系のおかずだった。

「うわ、すごーい」

 瀬奈が素直な感想を漏らす。啓示としても、以下同文。

「とにかく量がないとだめなんだよな、あたしゃ。いい痴女になりたかったらまずメシを食えってやつさ」

 聞いたこともない珍説を披瀝しながら、沙妃先輩は白米をぱくつく。

「沙妃先輩、もしかして自分で作ってるんですか?」
「ん? んー……まあ作ってるっちゃあ作ってるんだけど、どっちかっつーとただ詰めてるだけのような……」

 啓示が聞くと、返答に困った様子で首を傾げた。

「ふむ。沙妃くんの家は定食屋だからな」

 横に座る匡先輩が助け舟を出す。

「多分このおかずは店で余った分だろう。沙妃くんはよく厨房で手伝っているし、広い意味では自分で作ったと言えなくもない。だが――」
「そう。結局は商売物を詰めただけなんだよな。わざわざこの弁当のために作ったわけでもないし」

 チンジャオロースをほおばった沙妃先輩が、照れくさそうに笑った。

「定食屋さん、なんですか? 沙妃先輩の家って」
「あ、言ってなかったか? 『四十九番』っていう中華料理屋だ。今度瀬奈ちんと二人で食いに来なよ。けーじっちだけ倍額取らせてもらうからさ」
「いや、せめて定価にしてくださいよ……」

 後輩割増。何てたちの悪いサービスだろう。

「で、村雲先輩は何でそんなに詳しいんです?」

 ぼやく啓示の傍らで、瀬奈は匡先輩に目を向けた。

「言うまでもない。僕は『四十九番』の常連だ」

 味も素っ気もないビニール袋をテーブルに置いて答える。

「うちは両親共働きでほとんど家にいないからな。夕食を外で済ませることはよくある。そんな時に近くて安くて量が多いあの店の存在は非常にありがたい」
「じゃあ匡のお昼がいつも学食や購買なのってえ……」
「そういうことです」

 まのか部長の問いにも、こともなげに頷いた。

「おかげですっかり学食や購買のマニアになってしまいました。今ではおばちゃん全員に顔を覚えられている始末です。まあ、欲しいパンを取り置きしてもらえたりするので助かってはいますけどね」

 言いながら、ビニール袋をがさごそとあさる。

「ちなみに本日の収穫はこちら、年に一度入荷されるかされないかといわれる幻の超巨大パン〈チョコチョコバットくん〉です」

 出てきたのは、標準よりも二回りほどはビッグなチョコパン。すごい……あんな大きいの、見たことない……。

「巨大なのにチョコチョコ。巨大なのに、チョコチョコ……ぷっ」
「で、三田村くんはどういう昼食なのかね?」

 一人で自分の世界に入る瀬奈を、匡先輩が連れ戻す。

「へ? あ、ああ、私ですか? 私は学校抜け出すのがほとんどです。今日も外でぱぱっと」

 そう言って、ひょいと外を指した。

「あらあ、瀬奈ちゃんのご両親も共働きなのお?」
「ええ、まあ、一応。でもどっちかというと、これは私の都合です」

 まのか部長の質問にも、淡々と答える。

「どういうこった?」

 沙妃先輩が首を傾げた。

「周りと一緒じゃなくて、自分だけのお昼ごはんをとりたい。大袈裟に言うなら、世界にひとつだけの昼食。これを完成させたいんですよ、私は」
「「「ほほお」」」

 瀬奈の演説に、先輩トリオから感心したようなどよめきが上がる。

「なーほどなーほど。で」

 沙妃先輩が手元を覗き込んできた。

「あんたはどんなだい? けーじっち」
「ひゃ、ひゃにがですか?」
「何って昼食だよ。この流れで他に何があるのかね?」

 噛んだところに匡先輩がたたみこんでくる。

「あ、ああ、昼ですか」

 啓示はカバンからおずおずと弁当箱を取り出した。

 自分の昼食は昨日も今日も多分明日も、母親が作った至って普通の弁当。正直、特にコメントもなければお披露目する自信もない。

「さあ、けーじくうん」
「は、はい。で、では……」

 まのか部長にせっつかれ、飾り気のない弁当箱をゆっくりと開ける。

「「「「……!」」」」

 中身を見た瞬間、啓示以外の四人が魅入られたように固まった。

「あまりに平凡で申し訳ないんですけど」

 啓示の言葉など聞く者はいない。全員が魔法でもかけられたように、ただ呆然と目の前の弁当を見つめている。

「庶民のお、味い……」

 まのか部長が呟いた。

「この弁当のためだけに、作られたおかず……」

 沙妃先輩がそれに続く。

「学食や購買になどあるはずもない……」

 匡先輩がさらに言葉をつないで、

「世界に、ひとつだけのお昼ごはん……」

 最後に瀬奈が口を開いた。

 しばし、沈黙。

 そして。

「「「「……おおおーーー……」」」」

 示し合わせたようなタイミングで、四人はハーモニーを奏でた。

「じ、じゃあ、そういうことで……」

 羨望の視線をこそばゆく受け止めながら、啓示は箸を取る。

「いただき、ます」

 おかずを軽くつまんで、ひょいと口に放り込んだ。

「……む」

 何の変哲もないそのおかずは、少し強めの塩味と、大いなる感謝の味がした。
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