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ご指名
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「そもそも、何で俺を勧誘したんですか?」
啓示は思い出したように尋ねた。
この日替部にやってきたのは、下駄箱に「指名しました」という紙が入っていたため。なぜ俺は指名されたのか。それ以前に、指名ってなんだ。
「実はあ、毎年新入生ドラフト会議をやってるのよお、うちの部活ってえ」
べらぼうな桁の数字を電卓で叩いていたまのか部長が、手を止めて語る。
「ど、ドラフト会議!?」
脳内に「選択希望選手、日替部、神野啓示」のアナウンスが流れた。もちろん、パンチョさんの声だ。分からない人は「パンチョ伊東」で検索だ。
「ちなみに瀬奈ちんは五十八の文化部が一位で指名する予定だった逸材だぞ」
パイプ椅子にあぐらをかいた沙妃先輩が、さらりと言う。
「ご、五十八!?」
啓示は目を丸くした。どんだけ将来有望なんだ、瀬奈。そしてどんだけいっぱいあるんだ、この学校の文化部。
「へー、そうなんですか。でも全然なかったですよ、他からのオファー」
「だろうな。部長があれこれと政治力を駆使した結果、最終的には単独指名による交渉権獲得と相成ったわけだから」
首を傾げる瀬奈に、女性士官姿の匡先輩が説明した。
「いやあねえ。匡ってば大げさなんだからあ。政治力なんて呼べるような代物じゃないわよお。あの程度のことお」
まのか部長は笑って謙遜する。
「……あの程度って、どの程度なんです?」
啓示は探りを入れてみた。
「んー……ちょーっとばかりお金にものを言わせてえ、五十七人の部長をまとめて屈服させただけえ」
「……」
あまりにも予想通りの回答に、もはや何も言うことなしであります。
「……ちなみに、俺は何位だったんですか?」
話を逸らすように尋ねる。
「えーとお、確か二百七十六位だったかしらあ」
「に、二百七十六位……」
ちょっと傷ついた。
華雄学園の生徒数は、一学年およそ三百五十人。あらゆる点で真ん中より微妙に上のポジションを取ってしまう啓示にしては、かなり低めだ。
「そーそー。あん時な、あんたも競合したんだよ。うちを含めて三つの部で」
沙妃先輩が口を開く。
「きょ、競合!?」
まさかの展開だった。俺がそんな逸材だったなんて。知らなかった。
「もうこの辺になるとみんな適当だからさ、意外と重複しちまうんだよな、指名。とりあえずくじびきをしたいからってわざとぶつけてくる奴もいるし」
「あーー……」
ですよねー。
「そ、それで、その俺を指名した部ってどこなんですか? うち以外で」
気を取り直して、質問。
「んあ? どこだっけ?」
沙妃先輩が、匡先輩を見やる。
「人体実験部とモルモット同好会だな」
すね毛メガネ士官殿が、さらりと答えた。
「何ですか、そのマッドな香りぷんぷんの部活は……」
啓示はしかめ面でぼやく。いくら自由な校風に定評があるカオス学園といってもさすがにこれはフリーダムすぎるのではあるまいか。
「ま、まあ競合の結果、とにかく日替部が俺を獲ったわけですよね。なぜ俺を?」
「まあヒマだしい、もう一人くらい指名しておこうかと思ってえ、その場で適当に見つくろったのよお。そしたらけーじくんが目にとまってえ」
「ぐっ……」
まのか部長から返ってきたのは、実にいい加減なお答え。父上さま、母上さま、申し訳ございません。あなたの息子、完全に残り物でした。
「でも……」
ふと、引っかかる。
「新入生ドラフトをやるということは、まのか部長も一年生の時に指名されたってことですか?」
「まさかあ」
あっさり否定された。
「この日替部はわたしが創ったのよお。一から十までぜえんぶう」
堂々と言い切ると、豊かな胸をばーんと張る。ルールに従う側ではなくルールを定める側になれ。なるほど、いかにもこの人の考えそうなことだ。
「じゃあ、沙妃先輩も匡先輩も……」
「はあい。わたしが指名しましたあ」
「なぜこのような……えー……個性的な人たちを?」
満面の笑みで応えるまのか部長に、啓示は精いっぱいのマイルドな表現で質問を重ねる。
「それはそうよお。だって妙ちくりんな人間にしか興味ないものお、わたしい」
あっさり断言された。妙ちくりんって。妙ちくりんって。
(というか……)
ちょっと聞き捨てならない発言だった。
まのか部長の言う通りなら、この部に指名された啓示もまた妙ちくりんな人間ということなる。自称オール3.5の平凡人として、それは納得がいかない。
「あの……俺のどこが妙ちくり……」
「えええええ!?」
啓示が言い終わる前に、まのか部長は走る汚物でも目撃したような声を上げた。
「分からないのおお!?」
細い三日月のような眼に、ぎらりと妖しい光が宿る。
「は、はい?」
啓示は戸惑いながら聞き返した。何だろう、この異様に不穏な空気は。
「本当に分からないっていうのおお?」
まのか部長が念を押してくる。
「え、あ……はい」
正直に言います。全くもって、分かりません。
「はああああ……」
まのか部長は、心の底から嘆かわしそうにため息をついた。
「でもそうよねえ。こういうのって本人は全然自覚がなかったりするのよねえ」
勝手に納得される。
「あ、あの……何の話ですか?」
啓示は尋ねた。胸の奥にもやもやと霧がかかる感じだ。
「うーん……うふふう」
あやふやな笑顔を、ほわーんと投げ返される。
「ちょっ……」
二年生コンビに目をやった。教えて、プリーズ。
「あめんぼあかいなあいうえお」
匡先輩は、何の脈絡もなく発声練習を始めた。
「すー、すぴ~」
沙妃先輩には口笛でごまかされる。いや、吹けてないけど。
「ふむ……なるほど」
瀬奈は思案の末に何かを理解したらしい。だがこれは聞いてもムダだろう。またブロックサインでも送られて、意味不明な状態になるのがオチだ。
「えー、と……」
改めて、指名主さまを見つめる。
「うふふふふう」
「……えぇえーー……」
柔らかな、しかし妙に含みのある笑顔だけが、啓示の目に焼き付けられた。
啓示は思い出したように尋ねた。
この日替部にやってきたのは、下駄箱に「指名しました」という紙が入っていたため。なぜ俺は指名されたのか。それ以前に、指名ってなんだ。
「実はあ、毎年新入生ドラフト会議をやってるのよお、うちの部活ってえ」
べらぼうな桁の数字を電卓で叩いていたまのか部長が、手を止めて語る。
「ど、ドラフト会議!?」
脳内に「選択希望選手、日替部、神野啓示」のアナウンスが流れた。もちろん、パンチョさんの声だ。分からない人は「パンチョ伊東」で検索だ。
「ちなみに瀬奈ちんは五十八の文化部が一位で指名する予定だった逸材だぞ」
パイプ椅子にあぐらをかいた沙妃先輩が、さらりと言う。
「ご、五十八!?」
啓示は目を丸くした。どんだけ将来有望なんだ、瀬奈。そしてどんだけいっぱいあるんだ、この学校の文化部。
「へー、そうなんですか。でも全然なかったですよ、他からのオファー」
「だろうな。部長があれこれと政治力を駆使した結果、最終的には単独指名による交渉権獲得と相成ったわけだから」
首を傾げる瀬奈に、女性士官姿の匡先輩が説明した。
「いやあねえ。匡ってば大げさなんだからあ。政治力なんて呼べるような代物じゃないわよお。あの程度のことお」
まのか部長は笑って謙遜する。
「……あの程度って、どの程度なんです?」
啓示は探りを入れてみた。
「んー……ちょーっとばかりお金にものを言わせてえ、五十七人の部長をまとめて屈服させただけえ」
「……」
あまりにも予想通りの回答に、もはや何も言うことなしであります。
「……ちなみに、俺は何位だったんですか?」
話を逸らすように尋ねる。
「えーとお、確か二百七十六位だったかしらあ」
「に、二百七十六位……」
ちょっと傷ついた。
華雄学園の生徒数は、一学年およそ三百五十人。あらゆる点で真ん中より微妙に上のポジションを取ってしまう啓示にしては、かなり低めだ。
「そーそー。あん時な、あんたも競合したんだよ。うちを含めて三つの部で」
沙妃先輩が口を開く。
「きょ、競合!?」
まさかの展開だった。俺がそんな逸材だったなんて。知らなかった。
「もうこの辺になるとみんな適当だからさ、意外と重複しちまうんだよな、指名。とりあえずくじびきをしたいからってわざとぶつけてくる奴もいるし」
「あーー……」
ですよねー。
「そ、それで、その俺を指名した部ってどこなんですか? うち以外で」
気を取り直して、質問。
「んあ? どこだっけ?」
沙妃先輩が、匡先輩を見やる。
「人体実験部とモルモット同好会だな」
すね毛メガネ士官殿が、さらりと答えた。
「何ですか、そのマッドな香りぷんぷんの部活は……」
啓示はしかめ面でぼやく。いくら自由な校風に定評があるカオス学園といってもさすがにこれはフリーダムすぎるのではあるまいか。
「ま、まあ競合の結果、とにかく日替部が俺を獲ったわけですよね。なぜ俺を?」
「まあヒマだしい、もう一人くらい指名しておこうかと思ってえ、その場で適当に見つくろったのよお。そしたらけーじくんが目にとまってえ」
「ぐっ……」
まのか部長から返ってきたのは、実にいい加減なお答え。父上さま、母上さま、申し訳ございません。あなたの息子、完全に残り物でした。
「でも……」
ふと、引っかかる。
「新入生ドラフトをやるということは、まのか部長も一年生の時に指名されたってことですか?」
「まさかあ」
あっさり否定された。
「この日替部はわたしが創ったのよお。一から十までぜえんぶう」
堂々と言い切ると、豊かな胸をばーんと張る。ルールに従う側ではなくルールを定める側になれ。なるほど、いかにもこの人の考えそうなことだ。
「じゃあ、沙妃先輩も匡先輩も……」
「はあい。わたしが指名しましたあ」
「なぜこのような……えー……個性的な人たちを?」
満面の笑みで応えるまのか部長に、啓示は精いっぱいのマイルドな表現で質問を重ねる。
「それはそうよお。だって妙ちくりんな人間にしか興味ないものお、わたしい」
あっさり断言された。妙ちくりんって。妙ちくりんって。
(というか……)
ちょっと聞き捨てならない発言だった。
まのか部長の言う通りなら、この部に指名された啓示もまた妙ちくりんな人間ということなる。自称オール3.5の平凡人として、それは納得がいかない。
「あの……俺のどこが妙ちくり……」
「えええええ!?」
啓示が言い終わる前に、まのか部長は走る汚物でも目撃したような声を上げた。
「分からないのおお!?」
細い三日月のような眼に、ぎらりと妖しい光が宿る。
「は、はい?」
啓示は戸惑いながら聞き返した。何だろう、この異様に不穏な空気は。
「本当に分からないっていうのおお?」
まのか部長が念を押してくる。
「え、あ……はい」
正直に言います。全くもって、分かりません。
「はああああ……」
まのか部長は、心の底から嘆かわしそうにため息をついた。
「でもそうよねえ。こういうのって本人は全然自覚がなかったりするのよねえ」
勝手に納得される。
「あ、あの……何の話ですか?」
啓示は尋ねた。胸の奥にもやもやと霧がかかる感じだ。
「うーん……うふふう」
あやふやな笑顔を、ほわーんと投げ返される。
「ちょっ……」
二年生コンビに目をやった。教えて、プリーズ。
「あめんぼあかいなあいうえお」
匡先輩は、何の脈絡もなく発声練習を始めた。
「すー、すぴ~」
沙妃先輩には口笛でごまかされる。いや、吹けてないけど。
「ふむ……なるほど」
瀬奈は思案の末に何かを理解したらしい。だがこれは聞いてもムダだろう。またブロックサインでも送られて、意味不明な状態になるのがオチだ。
「えー、と……」
改めて、指名主さまを見つめる。
「うふふふふう」
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柔らかな、しかし妙に含みのある笑顔だけが、啓示の目に焼き付けられた。
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