夢の果て

ゆう

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第1話

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 始まりは突然だった。いつもと何も変わらないありふれた1日を今日も過ごすと思っていた。
 授業中に地面が揺れた。地震だろうと誰もが思っていた。
「地震だ。机の下に頭を隠しなさい」
 みんな焦っていた。俺も例外ではなく、冷静でいることができなかった。俺が冷静でいられなかったのは地震のせいだけではない。
 
 地震が起こる、1分前のことだ。突如として腕から植物のようなものが生えてきたのだ。その植物は俺の意思など関係なしに俺の周辺で暴れまわった。周りの人の反応を見る限り見えているのは俺だけのようだった。
 そして地震が起こったのだ。
 
「地震が止まりました。余震に注意しながら教職員の皆さんは生徒達を校庭に避難させてください」
 俺の腕の植物は地震発生と同時に消えていった。だから今は存在していない。
「みんな早く並べ校庭に避難するぞ」

 余震もなく、避難が速やかに行われたおかげで犠牲者はいないとのことだった。
「皆さん、無事で良かったです。しかし、まだ余震が起こる可能性はあります。もうしばらくここで待機していましょう」
 生徒のみんなは興奮しているのか、あちこちで騒いでいた。ある声が聞こえるまでは。

「はじめに、大変驚かせてしまったことを深くお詫び申し上げます。たった今起こった現象の原因は、私のせいかもしれません。誠に申し訳無かったです」
息をいっぱいに吸う音が聞こえた。
「本日より夢の楽園、ドリームパークを開園いたします。皆様のご来場を楽しみに待っておりますのでお気軽にお越しください」
 誰のいたずらだろうか。頭の中から聞こえるような音でもあり、マイクを使った放送のようでもある、不思議な声だった。周りの反応を見る限り聞こえたのは俺だけじゃないようだ。
「あ、言い忘れてました。突如として、能力が現れた。能力者の皆様はお早めに来られることをお勧めします」
 能力という言葉が気にかかった。もしかしたら俺の腕から出てきた植物もそうなのかもしれない。もしそうなら。腕に力を集中させてみると、先程の植物が腕から出てきた。

「なんなんだ。さっきのふざけた放送は。誰のいたずらだ」
「世界各地で異常現象が起こったらしいぞ。これはいたずらじゃなくてテロなんじゃないか」
「いくらなんでも地震を起こすのは無理だろ。それも世界同時となるとなおさらだ」
 教師の間で様々な情報が飛び交っている。それを聞いて生徒たちも様々な憶測を立て始めた。

「ちょっといいかな」
声をかけてきたのは、同じ学年の森山だった。
「君のその腕のやつってもしかして能力」
「お前、これが見えるのか」
「うん」
 この植物が見えるということは、森山も何かしら能力と呼ばれるものを持っているかもしれない。
「僕の能力は、未来予知だ」
そういうと、森山の後ろに魔術師のような黒いマントを羽織った人間とは呼べない異質のものが出てきた。
「やっぱり見えるんだね。良かったよ同じ境遇の人がいて」
「未来予知ってことはこうなることは分かってたのか」
「うん、地震が起こってここに避難している未来、そして君とこうして話している未来がね」
 未来予知、俺の能力と比べてかなり便利な能力に思える。人によってここまで能力に差があるものなのか。
「うっ」
「大丈夫か」
「ありがとう。どうもこの能力を使うと頭痛がするみたいで」
 デメリット付きか。強力な能力ほど大きなデメリットがつくのだろうか。なんにせよ森山の能力は乱用できるものではないようだ。
「しばらく能力は控えとけ」
「そうしとくよ」
 この能力のこと、そしてあの放送のこと。分からないことが多すぎる。しばらくは大人しく様子を伺っていた方がいいかもしれない。

「そういえば君の能力、あの植物のようなものはどんな能力なんだい」
「よくわからない。今はわかってるのは俺の意思で出すことと消すことができるということぐらいだ」
「なら、今のうちに何ができるか調べておいた方がいいかもしれない。さっきの未来予知で見たのは、地震と君との接触だけじゃないんだ」
「何を見たっていうんだ」
「あれは何だろう。侵入者かな、それも能力者ぽい」
「そいつが何をしたんだ」
「悪いけど、見たのは侵入者が能力らしきものを使うとこまでだ」
「一体どんな能力だ」
「何もないところから刀を取り出した」
 刀を出したということは、武器生成能力の可能性もある。もしくは刀の形状を自由に変える能力か。どちらにせよ、その時が来なければはっきりしない。

「きっとそろそろだよ。彼が来る」
校門をの方を見ると、図体のやたらとでかい男がやってきた。刀というより拳で攻撃してきそうな見た目だ。
「俺はどうすればいい」
「分からない。けど、止めた方がいいかもしれない」
「わかった。やれることはやってみる」

「君、一体どこからきたんだ。余震があるかもしれないから早くこっちにきなさい」
教師の一人が、男に気づいて声をかけに行った。ここでの男の出方次第で俺も動かないといけないかもしれない。
「何をしてるだ早く」
「うるせえよ」
初めて人が真っ二つになるところを見た。
 男はなんのためらいもなく、声をかけに行った教師を切りつけたのだ。
「きゃーーーー」
「皆、みるんじゃない。早く逃げるんだ」
「君、止まりなさい。何をしにきたんだ」
やばい、このままだとあの先生も。
「うっせぇっていってんだろ」
 また男は何のためらいもなく先生を切りつけた。次は真っ二つにではなく、頭から胸のあたりまでだ。早く止めなければ、犠牲者が増えるだけだ。
「早く逃げなさい。教員もだ」
逃げろという命令を出した校長の判断は正しい。あれからは距離を取るべきだ。
「何をしている。君も早く逃げるんだ」
「後から行きます。ですから先生は自分のことを考えて逃げてください」
 この学校の能力者は俺と森山。俺が知らないだけで他にいるかもしれないが、ひとまず二人と考えておくとしよう。そのうち、一人は予知能力、戦闘には向いていない。俺の能力もとても戦闘向きとは思えないが、森山のよりはまだ戦闘向きだろう。だとしたら、男を止めれるのは俺だけだ。
「止まれ」
「うるせぇよ」
 やはり、話は聞かないか。だとしたら力ずくで止めるしかない。
「お前のその刀。どんな力があるんだ」
「ほお、刀が見えるのか。ということはお前も能力者か」
「だとしたらどうする」
「連れて行かないといけない」
「どこに連れて行くんだ」
「今にわかるさ。お前が次に目を覚ますのは、そこなんだからな」
男がまっすぐこちらに斬りかかってきた。この植物で防げるか。いや、無理だろう。かわす方が安全だ。
「よく避けたな。そのまぐれがいつまで続くか楽しみだぜ」
「まぐれは今回で終わりだろうな。次は実力で避ける」
何の力もないとしても、男に警戒心を与えることぐらいはできるだろう。腕から植物を出し、男に見せつけた。
「それがお前の能力か。弱そうだな」
「見かけによらず強いかもしれないぞ」
どうやら自分の意思でこの植物は動かせるようだ。感覚だが、十メートルは余裕で伸びそうだ。試しに男の方へ伸ばしてみた。
「おっと、捕まるかよ」
なるほど捕まえるか。見たところ強度もそこそこはありそうだし、手さえ抑えれば、拘束できるかもしれない。
「考え事か。隙だらけだぜ」
男が一気に距離を詰めてきた。避ける余裕もなさそうだ。この植物で防ぐしかない。腕を植物で覆い、ボクシングで見るような防御をとった。
「意外と固いな」
植物のおかげで切り傷程度で済んだ。それでも痛い。しかし、先生たちのことを考えるとこの程度どうしたこともない。
「次はその植物ごとお前の腕を斬ってやるよ」
 そんなことはさせない。俺もだんだんこの植物の使い方がわかってきたし、拘束ができるかもしれない。ひとまず距離を取らねば。
「お前、逃げる気か」
よし追ってきた。もう少し引き付ければ。
「俺がただ逃げてるだけだと思ったか。まさかな。お前を罠にかけるために走ってたんだよ」
「なに」
植物を一本思いっきり引っ張ると、男の足に植物が絡まった。
「もっと足元を見るべきだったな」
「地面に植物を潜めさせていたのか」
「その通り。突っ込んでくるから罠にかけやすかったよ」
先程の植物を引っ張り男を転ばせた後、他の植物を一斉に引っ張った。作戦通り、男は植物に全身を絡まれ、身動きがとれなくなった。
「俺の勝ちだな」
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