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最終節.女子高生(おっさん)の日常と、いともたやすく創造されしNEW WORLD

195.女子高生(おっさん)の歌詞づくり

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 【アオク】の曲製作と、文化祭に向けてのバンド練習がスタートとして……はや、二週間が経過した。
 おっさんは昼に、阿修凪ちゃんは夜に、共に疲れ果ててすぐに寝入ってしまうのでお互いの進行状況は全く把握できていないが大丈夫だろうか。

「キヨちゃん、阿修凪ちゃんの方は大丈夫そ?」

──{………まぁ…………命に別状はないとだけ言っておこうかの}

「バンド練習でなにが!? そんなに疲労困憊するような事あるの!?」
「文化祭に向けてバンド練習ですか、楽しそうですね」
「イドちゃん、昼の私になんかアドバイスしてあげてよ……もう寝てるけど」

 その代わりといっては何だが、すっかりイド様とは打ち解けてちゃん呼びするほどの仲になっていた。
 俺もイドちゃんもタイムリーパーで世界の未来を知っているし、内包している事情を打ち明けた者同士とだけあって話が途切れる事がなかった。

 しかし、曲づくりは難航している。
 イドちゃんの納得のいく歌詞はどうしても産み出せないままだった。

「う~ん……ちなみに、イドちゃんはこれまでどうやって歌詞を描いてたの?」
「私(わたくし)、世界を放浪してはよく風景画を描いておりました。今まで作詞した曲は全て、その時に描いた景色をイメージして当て嵌めていたのですが……」

 【アオク】の曲はよく『一枚の絵画を見ているようだ』と評される事が多い。それこそが他と一線を画す【アオク】の独自性となっているのだが──なるほど、本当にファンタジー世界の情景を思い浮かべて詞に乗せているのなら芸術的な歌詞も納得な話だ。

「ちなみに、俺が嵌まったきっかけの曲は『風化』なんだけどそれは……」
「『風化』は……魔人族の支配下にあったとある国で出逢った……家畜を脱したいと願う少年を思い描いた歌です」

 まさか現代日本で発売された曲の裏にそんな物語(ファンタジー)があったなんて誰も想像できまい。そしてその少年どうなったのか凄く気になる。

「そして……今度発表する曲ではどうしても描きたい風景があるんです。ですが……」
「……ですが?」
「その風景がどうしても……霞みがかったように思い出せないのです……幾分、子供の頃に見た景色なので記憶が曖昧で…………諦めかけていたそんな折に読んだアシュナちゃんの描いた世界が私(わたくし)の前世の世界に似ていましたので……『アシュナちゃんならばきっと、イメージ通りの世界を描いてくれる』──とお声がけさせて頂いたのです」

 ふーむ……つまり『最高の歌詞』を描くには、イドちゃんが前世のファンタジー世界子供の頃に見た『景色』を頭の中に想像させながら歌詞を作らなければならないのか……………。
 いや、無理じゃね? これまでのどんなクエストより難易度エキスパートじゃね?

「そのファンタジー世界に行ってその景色を見ないことにはどうしようもないじゃんか……キヨちゃん、間違って異世界転移させちゃうような駄女神の知り合いとか紹介してくれない?」

──{無茶苦茶言うでない。そんなポンコツな神は創作の中だけじゃ、生きておる人間を手違いで死なせる神なんぞいたら始末書もんじゃわい}

「いや、始末書で済むのかよ……ていうかそれなら俺は?」

──{お主の場合は【魂の移動】だけで阿修羅の体はまだ存在しとるわ、一緒にするでない}

 そういえば俺はトラックに轢かれたわけでもなく、転移に巻き込まれたわけでもなく、普通にある日突然世界線移動したんだ──その日なにしてたんだっけ?

 まぁそれはともかく──俺はいつでも元に戻れるし……いざとなれば『VR』で違う世界線への移動もできるからそんな悲壮感はないが、慣れ親しんだ故郷の景色を懐かしむ感覚はわからないでもない。
 どうにかしてその情景を思いださせてあげたいところだけど………

「……………そうだ、キヨちゃん!! 『VR』を使えばイドちゃんの元いた世界線への移動も出来て景色も見れるんじゃない?!」
「ほ……本当ですか!?」

──{……残念ながら不可能じゃよ。この能力はあくまで『お主』が辿る、数ある無限の可能性へ跳ぶ能力であって、お主の魂以外では干渉も観賞もできんのじゃよ……つまりは『波澄阿修羅の世界』以外は見れんというわけじゃ}

 キヨちゃんは『VR』能力の概要を細かく説明してくれた。『俺(アシュラ)のif世界』しか辿れないし、俺か阿修凪ちゃんしか観賞できないし、能力の譲渡もできないし、キヨちゃんがイドちゃんに能力を授けることも不可能だ──と。

 だが、そんな事は理解した上だ。
 肩を落としたイドちゃんとは対称的に、おっさんにはある確信があった。

「やはり……不可能ですよね……」
「いや、できるよ。無限の世界線を司る神様の力があれば簡単に」
「……えっ?」

──{どういう事じゃ、アシュラ。説明せい}

「だって、未来は無限の可能性があるんでしょ? なら、『俺がイドちゃんの世界に異世界転移した未来』もどっかにあるはずじゃん」
「……???」

──{………………………………}

 俺の言葉に混乱するイドちゃんと対称的に、キヨちゃんは呆気に取られた表情をした。きっとそれは……神様でも考えが及ばなかった事だからだろう。
 あまりにもを思いつかなかったのだろう。

「つまり、『おっさんがイドちゃんの世界に行く方法を見つけた未来』をキヨちゃんが探してきてってこと。それを『VR(夢)』で見るから。そうすれば万事解決じゃん」

──{ちょ……ちょっと待つのじゃ。簡単に言うが無限もの未来を管理するのも大変なんじゃぞ? それにワシはまだやるとは……}

「へぇ? 強制世界線移動させられた上に、沖縄では社捜索に尽力してあげたのに……こっちの頼み事は聞けないと……」

──{ぐぅっ……! お主も喜んでおったくせにっ……!}

「確か……出逢った時に言ってたよね? 『おっさんをこの世界に呼んだ理由はまだ言えない』って。今、思えば……本当はあの社を捜させるためだけに呼んだんでしょ? 阿修凪ちゃんに頼もうとしたけど彼女はコミュ障だったから別の魂を容れる必要があった……そこで、おっさんになった別次元の俺を呼んだ──更に言えば、その件でたぶん奥さんに怒られたんじゃない? いつだったか奥さんの事を聞いた時に歯切れ悪かったもんね。だからそれ以降、不自然なくらい俺に助言したりスキルを与えてくれたりした。でもさ……そんな神様都合だけで一人の人間の人生を左右させてるの……始末書ものじゃないのかな~?」

 俺はこれまでの伏線を回収するかのように、キヨちゃんのバックストーリーを推察し、捲(まく)し立てた。
 苦虫を噛み潰したかのような反応をする神様──どうやら当たりのようだ。

──{くっ………お主……間違いなくあの母親似じゃな……わかったわい! 探してくれば良いのじゃろう!}

「ありがとうございます、神様」

 神様を顎(あご)で使って調子乗ったりすると後が怖いので、美少女女子高生のとびきりの笑顔を添えてお礼を言った。

「何とかなりそうだよイドちゃん、待ってて──ちょっくら異世界探訪してくるから」



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