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チュートリアル
#000 【後】
しおりを挟む俺は気付くと『おかしな世界』にいた。
「……………………ここは…………」
そこには青い空、白い雲………どこまでも続く果てのない海があった。
波打つ砂浜には岩壁に波飛沫が打ち付ける音、森を通り抜ける風の音、何処かで鳴いている『ウミドリ』という海上を縄張りとする鳥の声しか聞こえない。
(………何故…………俺は【ネザー】にいたはずじゃ………)
そう、最後に思い出せるのは俺が殺された記憶。サクラに腹を引き裂かれ、あいつらに奈落の底に堕とされた記憶。それかどうして………こんな『おかしな世界』としか喩えようのない場所にと困惑する。
「よぉ、災難だったな」
「うわぁぁっ!?」
突然、後ろから声をかけられ心臓が飛び跳ねる。
「んな驚くなよ………ちぃっと驚かしただけじゃねぇか」
後ろを振り向くと、そいつも『おかしな』としか喩えようのない格好をした中年の男が立っていた。無精髭、皺だらけのよれたシャツ、首から下げるネクタイはきちんと結べていない。
「これか? ワイシャツにネクタイっつーんだよ、こっちの世界でも流通したか? なははは」
そう言って中年男は笑う。
(誰なんだよ………それにこのおかしな島…………)
もしかすると本当に俺は死んで転生でもしたのだろうか、ここは新たな世界なのかもしれない、俺はようやく解放されたのかもしれない、そんな思いを馳せていると俺はある事に気付く。
(あの船…………)
そう、続く砂浜の先に見える一隻の船。あれは………俺達が島に来るのに乗ってきた船だ、帆に俺達の住む王国の模様が描かれている。
「まぁ混乱してるわな、じゃあ簡潔にわかりやすくシンプルに話してやろう。お前は【ネザーゲート】っつー門を通って俺の世界にやってきた。つーか俺が連れてきた」
混乱する俺の頭に中年男は追い討ちをかけるようにわけのわからない情報を詰め込んだ。
「お前らの事は見てたぜ? ラッキーだったな、殺される場所が【ネザー】じゃなかったらお前は誰にも知られる事なく朽ちていっただろうよ」
細身の中年は困惑するこちらの事などお構い無しにわけのわからない情報を並べ立てる。
だが、知っている単語を話しているところをみるにこの中年男は全くの出鱈目を話しているわけでもない、そう思った俺はこの男の話を黙って聞く事にした。
「そーいやぁ、自己紹介してねぇな。俺の名は【ハコザキ】、よろしくな」
(………【ハコザキ】………? 何処かで聞いた事のあるような……?)
「お前は死ぬ直前にゲートを通って俺の世界にきた、そこまではいいな?この世界にくりゃあ治療は簡単だ。それで俺はお前を復活させた」
そう、俺の傷は治っていた。
血は止まり、骨折の痛みもない。しかし、腹には傷痕だけがはっきり残っているし服はボロボロ。
間違いなくこれはあの時間の続き………夢や幻ではない、とそう脳が勝手に理解する。
「つってー、口だけで説明しても信じられるわけねぇし面倒くせえな。確か…………ソウル・サンドとか言ったな? よしっ、お前には3つの質問の権利をやるよ。その3つで俺の言いてぇ事を理解しつつ、要領よく話を終わらせろ。できなかったらお前はそのまま死ね、俺が引導を渡してやんよ」
何を無茶苦茶な事を言ってるんだこいつは、と更にこの男の有り様全てが理解から遠ざかる。
しかし、間近で強者達を見てきた俺にはすぐにわかった。
この男に逆らってはいけない、そんな直感が俺を震えさせる。
「要点を掴んで要領良く理解しろよ? 質問には何でも答えてやる、何つったって俺は万能だからな」
質問は三回、その答えだけで今の状況を全てを理解して納得しろとようはそう言っているらしい。
(よくわからないが……逆らったりしたら殺されそうだ……やるしかなさそうだ……)
俺は一つめの質問を口にする。
「…………何で俺を助けたんだ?」
「んー、まぁ及第点だな。最初に『ここはどこなんだ?お前は何者なんだ?』なんてテンプレ言ってたらぶん殴ってたぜ? おっと、質問の答えはお前が俺に似てたからさ。俺もこうなる前は散々会社のお荷物だって言われてきたからよ。ま、いわゆる同情心だな、なははは」
カイシャって何だよ………と、この男が好き勝手に口にする単語を理解するのに疲労するがそんな事はどうでもよかった。
俺は二つめの質問を投げ掛ける。
「………俺は………生き返れるのか?」
「なははは、つまらねぇ質問だ。当たり前だろ、そもそもてめぇは死んでねぇ。世間的には死んだかもしれねぇが、この話が無事に済んだらてめぇは【ネザー】の最下層に戻す。てめぇの世界はそこだけだ」
(……なるほど。なら、俺の三つめの質問はもう決まった)
理由なんかどうでもいい、おかしな世界なんざどうでもいい。この男が何を言っているかなんてのもどうでもいい。
この悪魔が俺をこのおかしな場所に呼び出した理由。
俺が死ぬ間際に見た石碑に刻まれた文字が頭を通り抜ける。
「あいつらを……あいつらに復讐するだけの力を……俺に与えてくれるんだな?」
俺がありったけの憎しみを言葉に込めてそう言うと、ハコザキはにやりと笑い、やがて高らかに声をあげた。
「なははははははっ!! その通りだ!! 与えてやる!! そのために呼んだんだ!! 理解が早ぇな!! 死の間際に石碑を読んだらしい!! 『お荷物野郎には箱庭の福音を! クソ野郎共には地獄の苦しみと死を』!! なはははは!!」
まるで悪魔のように、ハコザキは奇声に近い声をあげる。
「俺の名前は【箱崎 ライン】!! かつてこの世界を創りあげた『創造主』だ!! 曲がり曲がって今では【悪魔のラインクザク】なんて言われてっけどな!! かつて俺はこの『力』で世界を創りあげた! いわゆる神さ!! だが!! 俺の世界にも【癌】が出来ちまった!! 地球と同じように!!」
ハコザキは俺には理解できない言葉を並べ、嗤った。
()やはりこいつが………<転生の悪魔>……伝承は本物だったのか!)
「ったくくだらねぇよ! なぁお荷物!? だからお前がこの世界をぶっ壊せ!! そして新たに世界を創りあげろ!! 俺が与える力………【箱庭(ラインクラフト)】にゃあそれができる力がある!! これは全ての物を『箱』に変える力………たとえどんなものだろうとな!! そして『箱』になったものを好き放題操る事ができる!! 遊ぶのも持ち運ぶのも壊すのもてめぇの自由さ!! なははは! 皮肉じゃねえか! いや、ぴったりじゃねえか! 荷物持ちでお荷物のお前にゃあな!」
そう、俺が今見ているこの世界。全てが『箱』みたいなもので積み上がっている世界。
海も、山も森も、花も木々も、船も砂も水も。全てがレンガみたいに四角い形で積み上がっている世界。
(ここは………間違いなく【ネザー】だ。全てが角ばっているが間違いなく【ネザー】そのもの。まるで積み木のような物で造りあげた……箱でできた島……)
そう、俺の復讐劇はこの『箱庭』から始まった。
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