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第一章 箱使いの悪魔
#011.■ギルドに入ろう⑤『vsならず者戦士』
しおりを挟む「──くそっ!! ちょこまか動きやがって!!」
「ふふ、帝国一の武闘派ギルドと言っても下部構成員はこんなものか……動きに無駄が多すぎる。それでは魔獣は倒せても私には掠りもしない」
戦闘に興じたイルナの動きは圧倒的だった。
狭い室内で、十人ほどの【斧銀】というギルドの酔っぱらい達に取り囲まれ、四方八方から攻撃をされても尚、イルナには何一つ掠(かす)りすらしていなかった。
酔っぱらい達の攻撃だけではなく、大乱戦するには窮屈なほどに置かれたテーブルや椅子、棚や置物、そのどれにも身体や衣服の一部すら触れていない。
まるで隙間を吹き抜ける風のように、イルナは酔っぱらい達をあしらっていた。
(……後衛の魔術師の動きじゃないな……やっぱり風魔の魔術の使い手らしい……)
それを目の当たりにして、ソウルは思考する。
この世界には魔力の源を構成する【原素を司る事象(せいれい)】という概念や思念体みたいなものが存在している。
それらは大気中どこにでもに存在しており、人の内在するマナを差し出す事により【術式】を生物の記憶の中に送り込んでくれる。つまり魔法とは事象(せいれい)とのマナの契約を無意識的に行う行為である。
マナの総量とイメージが巧(うま)くいけば人と人の間での術式の伝授も可能だ。
【地水火風雷氷闇光】が主なせいれい達の八大事象と言われているが、それ以外にも自然界には未知のせいれいは数多く存在している。
そして人の持つマナにはそれぞれ生まれつきに【相性】というものが内在している。
平たく言えば、事象との関係性。
自分の持つマナがどの事象に属しているか。
マナと事象が噛み合うほど魔術は強力となる。
しかし、それは本人にしかわからない。
自身の感覚で掴むしか知る術がないため、それが生涯判然としない魔術師もいる。
つまり、単にマナを事象と通わせ術式を記憶からイメージに起こして発動させれば魔法は形となるのだ。
勿論、言うは易しだが実際は簡単な話ではない。
魔法を発動できない生物も大勢いる、魔術とは縁のない生活を送っているものもいる。
大魔術師と呼ばれる連中はこれらを呼吸のように当たり前に行う連中であり、自身の相性も当然把握しているわけだ。
(常に風の力を身体に纏う魔術を使っているようだ、それで前衛の素早さと遜色のない動きを見せている……かなりの術式練度とマナ総量が無ければできないだろう。相性も当然把握している……イルナは【風魔】の遣い手だ)
「余所見たぁ余裕じゃねえか!! 喰らえっ!!」
「っと」
ソウルは思考の隅で酔っぱらいの剣閃を紙一重で躱(かわ)した。酔いどれとはいえ、流石に帝国にある戦士ギルドの面々──撃は鋭く、余所見をしていたソウルの毛先を剣がかすめた。
だが、既に、ソウルの攻撃は終わっていた。
「なはは、悪い悪い。もう余所見しねぇよ、これでいいか? まぁ勝負にはならねえだろうが」
「……あ? てめえ何言って────」
グラッ……ドサッ
ソウルが酔っぱらいと向き合った瞬間、酔っぱらいは言葉を切らしてその場に倒れた。
攻撃を躱(かわ)した瞬間に、超速で【黒耀剣】の柄を使い、がら空きの首もとを軽く叩いていたのだ。予期も視認もしていないダメージだったためか……酔っぱらいはそれに気づかぬまま気絶した。
(それにこの剣は柄の部分もネビリム素材だ、鋼よりも硬いことは実験済み。いくら帝国の戦士といえど急所にくらえば意識くらい失うようだな)
成り行きとはいえ、これは中々に良い情報と実験場ができたとソウルは再度、笑う。
街中にいる兵士(みまわり)とは違う、常に戦場にて魔獣と相対する屈強な肉体の戦士ですら──この剣の前ではいとも簡単に沈む事が実証されたのだから。
「──ふふ、見たところラインのスタイルは剣士のようだが是非君の魔術師としてのスタイルも拝見させてほしいところだよ」
いつの間にかソウルの隣にいたイルナが突然話しかけてた。ソウルとイルナを囲う連中は迂闊に斬り込んでいいものか躊躇(ちゅうちょ)して間合いを取っていた。
「別にこいつらを制圧できれば何でもいいだろ、魔術はあまり得意じゃないんだ」
「ふふ、あれだけのステータスを見させておいてそれは皮肉にしか聞こえないよ」
(いや、本当のことなんだが……確かにあのステータスの事は気にかかる。何故、出鱈目(でたらめ)なステータスが俺に宿っているのか……この一年間は生きることに必死だったのと【箱庭】と剣技の能力を伸ばすために魔術は一切使用しなかったのに)
仮に、【箱庭】の能力を得た副作用で魔術の威力すらも上がっているならば喜ばしいことではあったが……単純にそうは思えなかった。
(……ハコザキは魔術に関してはなにも言及していなかった。俺もこの【箱庭】が魔術の能力向上に関連していると思えないんだが……まぁ、考えていても仕方ない。試してみればいいだけだ)
一年間前までのソウルがマナ総量を事象(せいれい)に送り貰えた術式は最低ランクの『初級魔術』だけだった。
最も大らかな事象と呼ばれる【地(ヴルド)】とお人好しとされている【火(マグナ)】から授かった入門編の術式のみ。
(【地(ヴルド)】の初級魔術は斥候や索敵に役立つ探索系(サーチ)魔法しかないから……今は【火(マグナ)】の魔術を試してみようか、といっても俺は攻撃系魔術はこれしか使えないんだけど)
【火】の超初級魔術、【火球(マグナボウル)】。
文字通り火の球を産み出して投ずる……魔術学院でも基礎中の基礎として入学したばかりの『初等院生(ビギナー)』でも容易に産み出せる魔術だ。
ソウルはマナを掌(てのひら)に練って術式を唱えた。
「【ミリオ・ラナ・マグナ】────」
──唱えた瞬間、体の中から何かが湧き出るのをソウルは感じ取った。
それが何であるのか、何に起因したものなのかは彼には理解できなかった。
最初に視界に映ったのは──目映(まばゆ)いばかりの閃光。
そして、火の球なんて可愛らしい言葉では形容し難い……炎の塊。
ありとあらゆるものを灼(や)き尽くすような業火の集合体。
これまで【白銀の羽根】の斥候役として最初に前線に追いやられて身に付いた勘が、それを即座に危険なものだと判断した。
ソウルはすぐにそれをこの場から、掌から切り離すように前方上空に投げ棄てる──それが辺り一面を灼(や)き尽くす前に。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
ソウルの意思から切り離された業火の球体はその軌道──ギルドの壁や天井に大きな穴を空けた。
大砲により襲撃にでもあったかのような音が響き、その場全員の鼓膜を揺らす。
そしてそこから覗く薄暗い夜空を、星よりも明るく照らした。呆然とするマインやイルナ、ルルリラ、酔っぱらい達のその鮮明な表情をも。
「………………………ひっ!! ひぃぃぃぃっ!!! ばっ……化物っ!」
酔っぱらいのうちの一人がそう叫び逃げ出すと堰(せき)を切ったようにバタバタと、【斧銀】の連中はギルドから飛び出していった。
ただ一人、ステータス測定をした連中のリーダー格であったブルドクを残して。ソウルの魔術を見て腰を抜かしているようで床にへたりこんでいた。
ソウルはブルドクの前に行き、しゃがんで目線を合わせ──言った。
「なはは、この間合いなら魔術師より戦士のがはるかに優れてるんだのなんだの言ってたな。さぁ、どっちが優位か試してみようぜ? 俺が勝ったらてめぇは消し炭になるだろうがそんな事百も承知で宣(のたま)ってたんだから……構わねぇな?」
「ひっ……わ、悪かった!! もう馬鹿にしたりしねえから許してくれっ!! この町にも一切出入りしねえからよお!!」
ブルドクは惨めったらしく怯えた表情をしながらソウルに懇願する。
(別に俺は売られたケンカを買っただけでこいつに禍根があるわけじゃないからどうでもいい、こいつらに因縁があるのはこの町とこのギルドだけだ。俺らはそれに巻き込まれただけだからな────だが)
そう思考したのち、ソウルはブルドクの頭を掴んで、唱える。
「【ミリオ・ラナ────】」
「~~~~~~~~つ!!!!」
──ふりをした。
それが効いたのかブルドクは白目を剥(む)いて気絶する、恐怖のあまり。
「なはは、マインを怖がらせた罰だ。あとはイルナ達に任せる」
この出鱈目な力の源泉がなんであるのか判明するのはもう少し先の話なるが──とにかく、こうしてソウル達は無事に拠点と身分を手に入れたのだった。
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