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第一章 箱使いの悪魔
#013.■お金を稼ごう
しおりを挟む◇<宿場町カルデア 連盟商店通り>
「ソ……ラインさん。あれは何でございましょうか?」
「あれはカリンっていう果実だ、この地域でよく収穫できる甘味と酸味が特徴の名産品だな。食べてみるか?」
「………いえ、お心遣い感謝致しますが……マインは大丈夫です」
ソウルとマインは様々なギルドと露店が軒を連ねる商店通りを歩いていた。
二人の目的はインベントリに収納してある数々の財宝を売って当面の間の活動資金を得る事。
ギルド庇護下の身分証を得て経済活動も可能になった今、生活のための基盤を築かなければならなかった。
(とりあえずは生活費の他にギルドの修繕費用も必要だな……イルナは気にしなくていいと言っていたが破壊したのは俺だし……あいつに借りを作るのは非常に面倒な気がする)
そして、ソウルの目下の目標は【箱庭】の新たな能力を課金システムで取得することである。
【一人目】の復讐に必要な能力を会得する──島にいる時にスキルボックスに刻まれた文字(日本語)を解読したソウルは、その能力を真っ先に『あいつ』に使ってやろうと決意していた。
(ただ……課金額のこともそうだが、この課金システムも結構クセのあるものでそう簡単にはいかないがな)
そう、『その能力』を得るためには……ただそれに応じた金額を支払うだけではなく、そこに到達するまでに金額の低い能力から順々に会得していかなければいけないのだ。
つまり目標額を得ても、そのままでは『その能力』には課金できず……ランクの低い能力を順々に辿っていく必要があった。
(その能力を得るために必要な金額は五千万コイン……そこまでにスキルボックスに課金する額も含めると総額1億コインはくだらない……見つけた財宝にどれ位の値がつくか……)
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∇補足
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※【コイン】と【物々交換】
・【コイン】……オーバーワールドの通貨。金貨(10000)銀貨(1000)銅貨(100)の貨幣があり、ギルドの上級のクエストをこなした場合の報酬は平均金貨5枚(50000コイン)ほど。宿の雑魚寝部屋の一晩の宿泊費が100コイン。
・【物々交換】銅貨一枚以下の金額の場合など、地域や国によるが魔獣の素材や採取した鉱物などにより物々交換が行われている場合も多い。
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(とても普通に働いてちゃ払えない金額だ……【箱庭】の能力を全開放するまで一体どれだけかかるんだか……)
だが、途方がなくてもソウルは諦めるわけにはなかった──奴等の首もとに刃を届かせるため、できる事は全てやると決意を再度、胸に刻む。
イルナは【白銀の羽根】が国家指定連盟(EXギルド)から外されたと言っていたが、それ以上の情報は持ち合わせておらず……詳細は把握できないでいた。
一体あれから何があったのか……それ以上のことはわからなかったソウルだが、そんな事は彼には関係なく、ただ今はやることだけを見据えていた。
「人がいっぱいですね、みんなギルドの紋証をつけています」
マインの言うとおりに、通りは多くの人間達で賑わっている。普通の人間だけではなく多様に渡る種族も人波を作っている。
近くに狩り場があるから必然と余所の街のギルド員が多く見受けられた。皆、自身のレベルアップや魔獣の素材収集等に余念がない様子だった。
紋証というのはどのギルドの所属かを証明する印(あかし)で、同時に所属ギルド内での階級をも表している。
新人ならば石に所属ギルドの紋様を刻む、自身のマナの器に刻まれたもの(身分紋章)と同じものを。
ソウル達も先日、イルナにエレクトロブレイブの紋証を貰って所持していた。
これをどういう風に身につけるかは規定はされておらず、ネックレスのように首から下げているギルド員もいれば、髪留めや腕輪に嵌(は)め込んでいるギルド員も多かった。
ギルドでの依頼をこなし、活躍すれば新米の石から見習いの鉄へと変わる。そして、金の紋証となれば一人前の証である。
【石→鉄→金→エメラルド→ダイヤモンド】の階級があり、ギルドランクによって差異が出てくる場合もあるが……喩え底辺ランクのギルドであろうと、金階級の紋証をつけていれば一人前と見なされるのだ。
(この町でも金階級をちらほら見かけるな……この辺りにある魔獣の狩り場は金階級には物足りないレベルの筈なんだが……なにか事情があるのか?)
まぁどうでもいい事だ、と気を取り直し目的地である商会連盟を探していると人波の中で一際目立つ服装をした女達がこちらを見てニヤニヤと笑みを浮かべているのにソウルは気付いた。
紋証を見た所、魔術師連盟の者のようではあったが服装がそれらしくない。派手な装飾品をジャラジャラと身に纏(まと)い、持っている杖にも不必要に宝石のようなものを埋め込んでいる。
(あれが魔術師……? どっかの着飾ったバカ貴族にしか見えないが……それより何で俺達を見てるんだ?)
すると答え合わせをするかのように、その女達はソウル達に目をつけていた理由を大声で喋り始めた。
「ぷっ……ねぇ見てぇ? あの子のみすぼらしい格好ったらないわ。なんでこんなところに奴隷がいるのかしら?」
「ああ、本当ね。でも奴隷紋がないわよ? もしかしてあれでギルド員なの?」
「実力も権威もお金すらないのね、可哀想に。ねぇ、アタシ達のパーティーにいれてあげましょうよ」
女達はどうやらソウルにではなく、マインに目をつけていたようだ。大声で周囲に聞こえるようにわざとらしく主張していた。
(……大方、目を引くくらい美しくて可愛らしいマインの容姿を妬(ねた)んで目をつけてきたってところか。他にやることはないのか暇人が)
だが、確かにマインは駆け出しの冒険者のような革素材の装備しか身につけていなかった。
と、いうのもネザーで手に入れた素材で合成する上級装備は彼女の身体には重すぎて着用不可だったという理由からだ。
(木材や要塞にいた魔獣の皮で合成した革素材の防具しか着て動く事はできなかったからな……確かに女の子には少し質素な気がするし防御面でも心許(こころもと)ないな……だが、んな事をわざわざ人目の多い街中で指摘する必要ないだろうに……性根の腐った女ってのは見るに堪(た)えないな)
ソウルが女達に言い返そうとするとマインは制止するようにソウルの手を取り、微笑みながら言った。
「ソッ……ラインさん、マインは大丈夫ですから。相手にする必要もない人達に何を言われても大丈夫です」
強気に、マインはソウルの手を握った。
しかし、そう言いながらも耳を見ると僅かに紅潮しているのが見て取れた。
(……さっきも、いや、ネザーにいた時からマインは自分の事になるとずっとそう言ってきたな……『大丈夫』、だって)
だが、そういった心情の機微に疎(うと)いソウルにも手に取るようにわかった──マインは自分に気を遣って言っているだけなのだ、と。
復讐のために生きていくと誓った自分の邪魔になりたくなくて、重荷になりたくなくて、自分の事を我慢しているのだと。
まだ一年と少しの付き合いではあったが、マインがそういう性格であることをソウルははっきり理解している。
(……なはは、復讐にとらわれすぎて大事な相棒の事を疎(おろそ)かにしてちゃあいけねぇよな。なにより、マインにはやりたい事を我慢させるわけにはいかない)
そして、自分の大切なものを馬鹿にするような奴等にも──調子づいてる奴等にも当然、ナメられたらやりかえすまでだと、ソウルは女達に声をかけた。
「なはは、おい。そこの安っぽい可哀想な女たち、テメーらだよ。テメーらをパーティーに入れてやろうか? 有り難く思えよ」
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