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第一章 箱使いの悪魔
#029.■精算
しおりを挟むエリーゼの口からかつての自分の名を聞いたソウルとマインは、【白銀の羽根】が辿ったこの一年間のあらましを聞いていた。【白銀の羽根】の評価が失墜した原因──ソウルがネザーで修行中に起きたEXランクではなくなったその顛末(てんまつ)の全てを。
エリーゼはギルド員ではないので風の噂程度の信憑性はなかったが……それだけで元々【白銀の羽根】にいたソウルはそれが確実な情報であろうと確信する。
【白銀の羽根】の連中はごり押しでクエストをこなそうとしたが上手くいかずに悉(ことごと)く失敗。失態を犯し評判がガタ落ちしてEXランクの看板を下ろされたと──ただ、それだけの話だった。
(あいつら……相も変わらずなようで安心したよ。俺の『代わり』になってるやつには同情を禁じえないが……)
彼等の落ちぶれた話を聞いても不思議とソウルは何も感じていなかった──歓喜も、欣悦(きんえつ)も。しかし、それは決して彼の中にある思いと覚悟が風化してしまったからではないと自身でしっかりと認識していた。
「しかし腑(ふ)に落ちません。それがソウルさま……そのソウル・サンドさんという方のせいだとはどういう事ですか? その馬鹿集団たちが勝手に自滅していっただけじゃないですか」
マインが苛ついた様子でエリーゼを問い詰める。ソウルも同じ疑問を感じていた──確かにあいつらが馬鹿をしたせいで起こったギルド凋落の原因が俺の所為だと言われても話の整合性がとれない、と。
「アタシもそこまで詳しく知ってるわけじゃないんだけど……そのソウルって男はギルドマスターの国宝級の愛剣……【乱れ桜】を盗んだだけじゃなくギルドのコインや宝物をずっとくすねていたんだって……そしてそのまま【ネザー】で死亡……お金や剣は行方知れずで……それが原因で経営に影響が出て幹部やマスターは不調続きだったとか……だからギルドは弱体化し、衰退したって……」
「何ですかそれっ!!!」
ダンッ!!!
話を聞いたマインが叫び、エリーゼを寝かせていた寝台を叩いた。激情する彼女とは対称的にソウルは冷静に思い返していた。
死人に口なし──死んだ(と思っている)ソウル・サンドを悪者に仕立てあげさえすれば、サクラがネザーで彼を始末した事も幹部連中の目には当然の罰の処刑執行のように見えただろう。
もしかしたらサクラはそのためだけに長年に渡りソウルを在籍させ、利用しようと目論んでいたのかもしれない──『不都合が起きた際に自身を始末し、悪者に仕立てあげる』ためにと推察すると全てに合点がいき、納得せざるを得なかった。
マインは怒り心頭な様子でエリーゼを睨み付けた、ソウルと同じように、サクラの悪巧(わるだく)みに気付いたのだろう。
「どこまでどうしようもない連中なんですかっ……!!」
「ひっ……なにがよっ!? あっ……あたしに言われても知らないわよっ……!」
「マイン、落ち着け。まぁその話はもういいさ。だが……それが今回の新米狩りの首謀者とミランダをどう繋げる?」
「……御姉様はその現状を打破するために裏で動き始めたの。このままではいずれ対立している【バットランド】と争いが起きた時に侵略される……それを案じてバットランドの高官と手を結んだ……」
「……なるほどな、その中で一番可能性があるのが【政務官シルヴァラント】。国政を一手に仕切ってるっつー知将と名高いそいつのわけだ」
「そうよ……そして一時的な不可侵条約を裏で締結した御姉様は理想の世界を創るためにかねてより進めていた実験に着手した……」
「それが【ヒトを魔獣に変える】っつー実験なわけか? まさかんな事企んでたとはな、薄ら寒い」
やはりかつてミランダがギルド員を使って行っていた憂さ晴らしのような行為には意味があったのか、とソウルは戦慄する。一歩間違えば自身もあの死体のようになっていたのだ、と……過去、その憂さ晴らしに何度も付き合わされたのだから。
「さぁ、知ってることは全部話したわよ……もうすぐ加護が解けるんでしょ? 早くして」
「……あぁ、そうだな」
全てを聞き終えたソウルはエリーゼの身体に触れる。
治癒魔術はレベルの高い術者であれば対象に触れる事なく行えるが……そうでない者は対象に触れなければ発動しない。それを知っているからかエリーゼは少し吐息を漏らし身体をピクリと動かしたものの目を閉じて大人しくしている。
「もう一つ聞きてぇんだがよ、エリーゼ。お前さんは今まで何人殺した?」
「…………そんなの覚えてないわ、なに? まさか……やっぱり約束を守る気なんか無かったってこと?!」
エリーゼは目を見開き、再度ソウルを睨んだ。
「安心しな。約束っつーのはルールより遥かに大事だ、喩え相手が悪党だろうが守る。それを破っちゃクズ以下だ。こいつは興味本位の雑談だよ。俺は衛兵や騎士みたいな正義の使者じゃねえんだ、聞いたからって義憤に駆られるなんてこたぁない」
「………ふん、そんな事わかってるわよ……あんたはどう見ても正義なんて柄じゃない。悪魔にしか見えないわ」
「お誉めを与(さず)かって光栄だよ」
「……何人殺そうが知ったことじゃないわ。弱者(ゴミ)の有効活用をしてあげただけ、あんたはこれまでに捨てたゴミの数なんか覚えてるの?」
「なはは、それもそうか。ありがとよ、これで仕事がしやすくなった。確かにこれから悪党を何人手にかけようが数える気なんかないからな」
「…………は?」
ソウルはエリーゼに魔法をかける。
これは単なる比喩表現で魔術をかけたわけではない、そもそもが彼には『治癒魔術なんか扱えない』のだから。
第三者の目から見れば魔法か手品にしか見えない──【箱庭】という魔法しか。
「─────っ!!?? ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
エリーゼは叫び、もがき、苦しみ始める。
「でっめぇっ!!! クソッダレ!!! やっばり約束まもるなんで嘘じゃねえがクソがぁぁぁああああぁぁぁっ!!!!」
「なはは、誰も破っちゃいねぇさ。俺は『火傷を治して延命してやる』っつったんだ。『これ』は【人間をある姿】に変える奇術でその変化の段階で傷は完治する。皮膚細胞も全く別物に産まれ変わるわけだからな、それはそれは激しい痛みを伴うわけだが」
「ああああああああああああああああああああっ!!!!! あたじがぁっごんなクソゴミ野郎になんでっ!!!」
「なははははははっ!! テメーは散々っぱら人の見た目を弄(もてあそ)んできたんだろーが!!! テメーがされて文句言ってんじゃねぇよ!!」
「グゾがぁぁっ!!! ゴミどもばぞうざれであだりまえなんだよぉぉおっ!!! ごうげつなあだじにぞうざれるのがぁぁっ!!! あだじばぁぁっ!!」
「さぁ、もう何言ってんのかわかんねぇし行くとするか。エリーゼ、それが完了すりゃまた日の光を浴びて歩ける。まぁその姿の奇妙さたるや──魔獣に間違えられてもおかしかねぇ。捕らえられるか殺されるか……よくて奴隷商に見世物にされるかだ。その糞みてぇな『美的感覚』が許すんなら勝手に生きりゃいい、じゃあな」
ここではこの【箱庭】の能力を語る事は敢(あ)えてしない──ソウル自身も同じ思いであるため、【結果】も見ずにその場をあとにした。
何故ならこれを使うべき本命はまだいるから──復讐の一人目。
ソウルはようやく対象の尻尾を掴んだことにより、内に燻(くすぶ)った炎を大きくさせた──喩えあいつらが今どんな境遇だろうが。喩え弱体化していようが。喩え聖人になっていようが関係ない。犯した非道や過ちを精算できるのは自分(かがいしゃ)や他の誰でもなく……被害を被(こうむ)った奴だけなんだ、と。
復讐だけが、全てを精算(すっきり)させるのだからと。
「さぁ、最初はテメーの番だ。待ってろよ、【ミランダ・ユークラリス】」
ーー 第一章【箱使いの悪魔】 完ーー
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