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第一章 箱使いの悪魔
番外編.EXギルド【白銀の羽根】其の二
しおりを挟む◇ ~ 一年前 ~
〈冒険者ギルド 【白銀の羽根】 マスタールーム〉
「……それで、のこのこ帰ってきちゃったんだね。うんうん、仕方ないなー。君たちの実力を過信し過ぎた私にも多少落ち度はあるかなー……だってこんな簡単な依頼(こと)もできないとは思わないもんねー」
「「「──っ!!!」」」
ギリッ……!!
ヴェルト、ミランダ、ナイツの三名は【白銀の羽根】マスターであり、剣聖と呼ばれる【サクラ】の執務室にて先日受けた依頼の失敗を事細かに報告していた。
豪華絢爛な建造物の最上階──王宮と見紛うほどに荘厳な佇まいを誇るその頂点がギルドマスターとしての彼女の仕事部屋であり、そこに立ち入れる人間は限られている。
「でもさー確か私言ったよね? 『小間使いいなくて大丈夫?』ってさ。ヴェルト君とミランダちゃん自信満々に大丈夫ですって言ったよね? じゃあなんでこうなるのかな?」
「「「………」」」
矜持と信頼を壊され、その怒りに拳を握りしめた三者は『それは自分のせいではない』と主張するつもりではあった……が、自身より地位も実力もなにもかも遥かに格上な彼女が僅かに滲ませる程度の苛立ちを見せた事でそれを取り止める。
「私は哀しんでるんだよ? これは国政問題なんだよねー。君たちには特別に国家級(難度SSS)のクエストしか割り振ってないんだから。依頼元はそこいらの商人とかじゃないんだ、国からの依頼なの。失敗なんか許されないんだよ? その責任(しりぬぐい)を取るのは全部私なの、わかってるかな?」
徐々に、彼女の声色と表情が曇っていくのを三者は感じる。これは楽観的であり、自由奔放であり、気分屋であり、傾奇者である彼女には極稀なこと。その『本来』の彼女の姿を見たことがある人間も限られているはいるが。
少なくとも幹部である三者も初めて目にする姿だった。第三者から見る彼女は軽口口調ではありながら清廉で明るく、分け隔てなく優しく、底抜けに可愛らしく接しやすい人物だった。剣聖の冠を被りながら皆から親しみやすく愛でられる──【花の剣聖】の称号はまさしくそんな彼女の人物像に由来したものだった。
「はぁ~……今回は大目に見てあげる。けど次のクエストは私が【あの男】の代わりを用意するからその人を随伴させることー♪あ、安心して? 【あの男】よりかは有能だと思うから♪」
サクラが笑いながら言う【あの男】とはまさしくネザー島にて始末された【ソウル・サンド】である。彼(ソウル)を亡くしてからの彼女(サクラ)は三人の目から見ても怖いくらいにいつも通りだった。それがより一層、三人には『不可思議ながらに崇拝する存在』としてサクラとの距離を遠ざけていた。
三者はクエストを受け、誓う。
今度こそ無様を見せるわけにはいかないと。
------------------------------------------
◇~ 一週間後 ~
〈デルタ玄武岩地帯〉
「おいっ!! 報告と違うじゃねえか!! てめぇふざけてんじゃねえぞ!!」
「そっ……そもそもあんたらが無茶苦茶に破壊するからこんなことになってるんだっ! 俺は悪くないっ……!!」
そんな彼らだが、再度危機に見舞われていた。
デルタ玄武岩地帯と言われる真っ黒な崖の中に溶岩が湧くという忌避すべき岩石地帯にて湧き出てくる大型魔獣の群れに囲まれていたのだ。
「ちっ……使えねぇですわねっ!! 【複合魔術 ハイクラストエンド】!!」
ミランダの八大事象全てを含む魔術が大型魔獣を一掃する。かろうじて猶予ができたヴェルトとミランダは新たに依頼に加わった斥候役の人物の胸ぐらを掴み、問い詰める。
「てめぇがここには大型はいねぇっつったんだろうが!!」
「はぁ……はぁ……あぁ……だが、こうも言った!! スポナーがあるかもしれないから必要以上に派手にいくなって!! それを魔獣を見つけるやいなやっ……あちこち破壊しなから進むから魔獣を呼び出しちゃったんだよ!! あんたらのせいだろ!!」
サクラが見込んだ通り、斥候役としての彼の能力は素晴らしいもので実績もあった。彼の言うとおりにこの破滅的な状況を産んだのは三者の身勝手且つ粗暴な振る舞い。
斥候の彼の唯一の失敗はこの三人と仕事をしたことが無かった事。そして三人の本性を知らなかったこと。彼は約半年前に【白銀の羽根】に所属したばかりだった。
「僕たちの能力や性格を把握してそれを上手くいなして立ち振る舞う。君に求められているのはそういうものだと言っているんですが」
「はぁ……はぁ……ふっ……ふざけるなよ!! 荷物持ち!! 料理番見張り番!! 全部俺にやらせて寝てもいないのに地図作成や斥候まで全部できるかっ!! そのうえアンタ達が気持ちよく仕事できるようになんて無理に決まってるだろ!!」
「……『前任』はへりくだり気色悪く媚びへつらいながらそれらをこなしていましてよ? 貴方はそれ以下のゴミであると仰いたいと?」
「………だとしたらそいつはよほどの聖人かマヌケだな。俺は一回だけでよくわかったよ……あんたらは強いだけの単なるクズだ──」
──ザンッ
言葉を終えないうちに、彼は生涯を終えた。
言うまでもなく、ヴェルトによって槍に貫かれ、ミランダの魔術によって存在すら掻き消されたのだ。彼もまた……不慮の事故としてなんなく処理されるのだろう。
「あぁもう! 始末するのは勝手ですけどこれからどうするんですか!? ここには罠も無数にあるのにっーー」
「…………」
「…………」
二人の怒りは収まらないまま打開策も見つからずに、この日……三者は再度の依頼失敗を積み重ねた。
そしてこの日から一年間……【白銀の羽根】は度重なりクエストの失敗を積み重ね、EXギルドの看板を外される事となる。
ギルドマスター、幹部の三者、下位のギルド員達……それぞれの思惑はあれどーーその日からは忘れていた……思い出す必要のないあの【男】の存在を思い出さざるを得なくなる。
当然といえば当然、歯車が噛み合わなくなったのはその【男】がいなくなってからなのだから。
【白銀の羽根】長年の石ランク……【ソウル・サンド】の名を。
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