名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録

第一話 名前が全ての世界

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「……………で……か?!」

……………

「大………………すか!?」

……………………

………何か慌てたような声が聞こえる……うるさいな。

「……丈夫……か!………して………くだ……い!」

うー……ん、誰の声だろうか?妙に近くで聞こえる……
そういえば…ゲームをしてる最中に寝てしまったのか…まぁ、幸い今日は土曜日だ。
ゆっくり寝よう。

ゆさゆさ…

誰かに体を揺らされる……もう少し寝かせて欲しいんだけど…。
…………………………………………………そこで俺はある事に気づいた。
俺は一人暮らしだった事に。
そして、朝起こしに来てくれるような存在は母さんだけだった事に。

………何だ、母さんが来てくれたのか。
部屋も何も片付けてないや、来るなら連絡してくれたらいいのに。

「大丈夫……すか!?しっ…り!」

声から察するに若い女性だ、何だ…母さん若返りをしたのか。
まったく、もう六十歳近いんだから無理をしないでほしいものだ。
そう、これは母さん。
決して幽霊の声じゃない。
そう、自分に言い聞かせる。
少し肌寒い気がするのも気のせいだ、母さんが…俺がパソコンの前で寝てるのを心配して冷房をつけたのだろう。
母さんめ、そういう時は普通毛布をかけたりするもんだぞははは。


バシャアアッ!!

何故か母さんは俺に水をかけた。

「うぐぼぇっ!?母ばんっ!!室内ぃぃでぇっ!?」
「きゃあっ!?」


そこで室内ライトとは違う…散々と降り注ぐ日射しを視界に受けて俺は初めて異変に気づいたのだった。
目覚めた俺を待ち受けていたのは完全な屋外。
透明で綺麗な小川の傍ら、周囲にはどこまでも続く緑。
茂々と育った木々が並び立ち、その根幹を覆うのは露が伝うのを楽しんでいるような緑草達。
葉の隙間から見えるのは青空と白い雲。
まるで日光浴を楽しむ為に訪れた避暑地。

「げほっ!ごほっ!?そ、外!?何で!?」
「ご、ごめんなさい!起きないから死んでるのかと思って!水かけてみたの!は、はい!これで拭いて!」
「げほっ…あ……うん、どなたか存じませんがありがとう…」

声の持ち主から布を差し出される。
水をかけた相手は母さんではなかった…とりあえず顔を拭いた。
しかしおかげで視界も頭も冴え、徐々に自分の身に起きている不可思議な現象を考える事ができた。

まず、何故部屋で寝てたはずなのに外にいるのか。
ここはどこなのか?うちの近くにこんな綺麗な木々の森林はないはず。

答えは……「夢」
何だ夢か。
一気に疑問が解決した俺は色々と考えてみる。

(なるほど…見た事なかったけどこれが明晰夢というやつか。本当に現実みたいだ)

そして、目の前の女の子を見つめる。
どうやら先程から声をかけてくれていたのは彼女のようだ。

緑色でサラサラのとても綺麗な長い髪、油断するとこの緑いっぱいの森林に溶け込んでしまいそうだ。
白くおっとりとした顔立ちからは、それだけで彼女がきっと穏やかで心優しい人なんだろうと勝手に想像させられる。
大きい瞳も視界の色を反射させたような綺麗なエメラルドグリーン。
年齢は十代だろうか、可愛らしい顔立ちだが…もう少しすると美人にもなりそうな…絶妙な顔立ち。
要約するととても可愛い子、という事だ。

「あ…あの、大丈夫…なんですか?」
「うん?何が?」
「…倒れてらっしゃったので…ケガとかは?」
「あ、うん。大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
「…良かったぁ」

緑髪の少女はほっとし、胸を撫で下ろす。
どうやら印象通り優しい子みたいだ。

「ところで…ここはどこなのかな?」

折角の明晰夢だ、醒めないうちに色々としてみたい事が沢山ある。

「…覚えて…ないの?自分が誰かとかは…わかります?」
「あ、うん。それは覚えてるよ、ただこの場所に見覚えが無いだけで」

記憶喪失の中で出会った少女、この夢はそういう設定なのか。
まぁ明晰夢だから場所とか設定も自分で変えられるんだろうけど、今はこの状況を楽しんでみるとしよう。

「この場所に…名前はないの…名を失った孤島…そして枯れた島…」

名前を…失った孤島…?
それに枯れたって……とてもそうは見えない。
こんなにも綺麗な草木が茂っているのに。

「えーと…一番近い大陸はイートリストという大陸で…そこには港町シー・クレット、闘技大会の町アールステッド、ブラセリアム…国の名はアウクストラ…アウシュビッツ、アールグレイなんて国々があるんだけど…」

記憶喪失だと思ってるからか気を使って色々な地名を言ってくれているみたいだけど、どれも聞き覚えがない…。
そんな大陸と町の名前…地球にあっただろうか?
いや…間違いなくそんな名前の国はないはず。
彼女は日本語なのに近しい大陸の地名は全て英語…ここは日本ではないよな…。
まるでRPGの世界。
……そういえば…昨日買ったゲームの説明書に載っていた地図でそんな大陸の名前を見たような…。

……もしかすると、ゲームして寝落ちしたから…そのゲーム『NAME』の世界が夢に出たという事だろうか?
まだゲームでは冒険してないのに…酷いネタバレをくらった気がする。
まぁ、ファンタジーの世界を冒険するのは男の子が寝る前にする妄想の定番。
それが夢に出てくれたのだ、しかも可愛い女の子まで出てきた。
やる事は一つだろう。
現状を受け入れた俺は明晰夢でやりたい事の一つを叶える事にする。

「今から空を飛ぶよ、見てて」
「え?ええっ!?」

突然訳の分からない事を言い出した俺に少しの間を置いて女の子は驚きの声をあげる。

「ていっ」

俺は変身ヒーローのポーズで変なかけ声と共にその場で跳んだ。

ドサッ!

鼻から落下した、痛い。

「………」
「………」

うぉわぁぁぁあああああっ!?
夢なのに恥ずかしい!?痛い!?
夢なのに何故思い通りにいかない!?
俺は大人になってから中学生の時に書いた妄想ノートを見た時の如く、ダンゴムシのように丸まって地面に伏せ足をバタバタさせた。

「……あの、大丈夫ですか…?」

聞きようによっては「あなたの頭イカれてます?」みたいな優しい言葉を女の子から受け少し冷静になった。

「よ、よければ家に来て下さい、手当てしますから…」

完全に可哀想な人を見つめる眼で女の子は俺に手を差し出す。
なに、これは夢なんだ…どうという事はない。
俺は彼女の手を掴み、立ち上がる。
女の子の手に触れるのは何十年ぶりだろうか。

「ありがとう、良ければお邪魔させてもらうよ。…えーと、俺は」

ズキッ

名乗ろうとした瞬間、軽い頭痛が起きる。
何だろうか……一瞬自分の名前が思い出せなかった…。
気を取り直し、布を返した俺は自己紹介をする。


「俺の名前は※※※※、宜しく。えっと、君の名前は?」


ポトッ……

「…………え?」

自己紹介を聞いた彼女は…一瞬驚きの表情を浮かべ、手に持っていた布を落とす。
そして彼女は少しの間を置いて顔を真っ赤にして困り顔をしてもじもじしだした。
……?一体どうしたのだろうか?

「わ…私にフルネームを……そ、それに…私の名前を知りたいって……そんな突然言われても……会ったばかりじゃないですかぁ…」


何が?
よくわからないが俺は何か変な事でも言っただろうか?

「も…もう少し…時間を頂いてもいいかな…?言われたの初めてだから…そんな急には…答えられないよ…」

何故愛の告白をしたみたいな雰囲気になっているのだろう?
ただ名前を聞いただけなんだけど…
微妙な雰囲気になり、落ち着きのなくなった彼女の案内で俺は彼女の住んでいるという家へたどり着く。

この時はまだ知らなかった。
この世界では他人、近しい人であっても簡単に自分の名前を教えない。
自分の名前を教え他人の名前を知りたいと言う事はプロポーズ同然だ、と。

名前が全てのこの世界では。








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