名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録

第二話 名前がチカラの世界

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「それにしても変わった名前だね、服装も。どこから来たのかは覚えてます?」
「…えーと、日本…かな?」

敬語とため口を混ぜて話す彼女の案内で辿り着いた家は森林の中にあって、より一層存在感も大きさも増す大樹の幹をくり抜いた中にあった。
大樹の周りだけは大樹を森林達が崇めるように円形に囲い空が開かれ、それだけでこの大樹が何か特別なものなんだろうと勝手に感じさせる。
家…というより住居になるのかな、まさにファンタジーでよく見る妖精やエルフが住むような自然の住居。
中は結構広くて全てが木造りの机、椅子、本棚、キッチン、テーブル、寝台。
生活用品や食材…果実や野草なんかもある。
吹き抜け型で天井はないが、階段がありの二階や三階までもあるようだ。
ガラスは張られていないが、楕円形の窓からは空が見える。
…衛星が昼間でもはっきりと見える、尚且つ二つ空に浮かんでいる……あの衛星には名前があるんだろうか。

「ニホン…?聞いた事ないなぁ…」
「小さな島国だからね、それより…えーと君の事は何て呼べばいいかな?」
「…とりあえず管理番号はH.M10156だからヒュミって呼んで。名前は…まだ教えられないです…会ったばっかりだもん…」

さっきも言っていたが…この夢と世界は一体どんな設定なんだろう。
管理番号って…仰々しいワードまで出てきた。
名前を聞くだけなのがそんなに大事なんだろうか…。
だけどいつ醒めるかわからない折角の明晰夢なんだ、設定を掘り下げて考察している時間は無い。
まだまだやりたい事が沢山あるのだ。

「わかったヒュミ、助けてくれてありがとう。それじゃ」

俺はドアを開けて帰る事にした。

「ま、待ってよ!まだ手当ても何もしてないよ!?来たばっかりじゃないですか!?」

そうだった。
とりあえずこのシーンはまだ続くようだ、俺は大人しくする。

「あなたみたいな変わった人初めてだよ…とりあえず座ってください。鼻が赤いよ?」

それにしても明晰夢なのに都合通りにいかない夢だ。
まだ鼻がヒリヒリするし、空も飛べない。
念じているのに場所もシーンも変わらない、普通にここまで徒歩まで来てしまったし…。

「えーと、色々と聞きたい事があるんだけど…いいかな?」

何かしらの準備をいそいそと始めた彼女に俺は質問する。
とにかくこのシーンを進めてみようか。

「うん、何かな?」
「ヒュミはずっとここに住んでるの?」
「ううん、各地を転々としてるんです。ここ住み始めたのは…につきくらいかな?」

につき…2ヶ月って事か?
数字の数えかたや一年周期が地球と同じかはわからないけど。

「あっ、でも勝手に住んでるわけじゃないですよ?ちゃんと妖精さんとエルフさんに許可もらってるから!」
「各地を転々と…ひょっとして…職業は冒険者?」
「うーん、ちょっと違うかな?冒険者っていいますか…うーん…でもそうかも。それはわたしの出生とか…名前とかに関わってくる事ですから答えられないよ……今はまだ」

歯切れが悪そうに彼女はそう答えた。
そういえばこの夢の世界(ゲームの世界だと仮定して)は…名付けられた名前で能力だとか身体値が決まるんだった。
成程、名前についてやたら拘るのはそこらへんに関係しているのか。

「はい、わたし特性の薬塗ったからすぐに腫れは引く筈だよ。わたしからも聞いていいかな?」

話しながら彼女は俺の目の前に座り鼻に軟膏らしき薬を塗ってくれた。
薬剤師…ファンタジー風に言うと調合師とか薬師なのかな?

「勿論、どうぞ」
「あなたは…旅人?」
「んー、まぁそんなところだよ。未開の地を目指して海を旅をしてる最中に嵐に巻き込まれて船が大破して波に呑まれて…たぶんここに流れ着いたんだ」

……というベタな設定。

「…そうなんだ、大変でしたね。じゃあ料理、作るから待ってて!お腹空いてますよね!?」
「え?…いや大丈…」

俺が言い終わる前に彼女はバタバタとキッチンらしき所で準備を始めてしまった、何か顔が赤いような…忙しない感じだ。
好意はとても嬉しいしありがたいんだけど…一体いつまで続くんだこの夢…。

まぁいいか、可愛い女の子との孤島での一時…これも男子にとって思い描く理想の夢。
現実では絶対にありえないんだ、むしろ一ヶ月くらい続いてもいいな。
明晰夢なんていつかはまた見られるんだ、今回はこの状況を楽しむとするか。

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〈五日後〉

「ただいま」
「あ、お帰りなさい。収穫手伝ってくれてありがとう」

俺は背負った籠を降ろす。
中には大量の木の実を満遍なく詰めている。

「一杯だね!※※はすごいですね!わたしじゃ一日かかっちゃうよ!やっぱり男の人は頼りになるよ!」
「ははは、どうって事ないよ。他にやる事あるかな?」
「ううん、大丈夫だよ。お疲れ様です、夜御飯作るからゆっくりしてて」

美少女とのスローライフは続いていた。
いずれ目が醒めると思って初日からここに居候させてもらっている。
さすがに同じ屋根?の下に泊まるのはマズイと断ったのだが…どうやらここは本当に孤島のようで海を渡る手段もないし、「いてください」と押しきられたので観念した。
勿論寝るのは別々(一階と上階)で何もしていない。

ただいさせてもらうのは悪いので、この島の探索を兼ねて果実や木の実などの食材の収穫を行っている。
それでわかった事だが…この島はさほど広くなく、四時間も一直線に歩けば島の横断が可能だ。
島の中央には山があり、それを避ければだが。
面積のほとんどが森であり、中には湖や川もある。
全ての木々が緑々としていてとても綺麗な島だ、ヒュミが「枯れた島」と言っていたのがよくわからないくらい。

時刻は午後18時。
何故時間がわかるのか…それは俺がスマホを持っていたからだ。
夢なのにスマホを使えるとは驚いた、勿論電波など無く…ただの時計としてしか機能していないのだが。
一日の周期は地球と大体同じようだ、スマホの時間と相違無く朝昼夜がやってくる。

ヒュミにはまだ見せていない。
きっと驚いたり興味を持ったりするんだろうけど…

トントントン…

「今日もいい匂いだね、美味しそうだ」
「ええっ!?……あ、料理の話だよね!?そ、それより時間かかるからお風呂先にどうぞ!」
「じゃあお言葉に甘えて」

俺は外へ出て大樹の裏手にある…ある場所へと向かう。
少し歩くとそこには…木々に囲まれた天然の温泉があった。
勝手知ったる他人の我が家…最初に見た時は驚いたけど既に五日目。
俺は服を脱ぎ、夕焼けを見ながら湯へ浸かる。

チャプッ…

「ふぅ…」

今日もいい一日だった。
美少女の為に働き、美少女とご飯を食べ、温泉に浸かり、いい香りに包まれながら眠る。
素晴らしい人生、俺の新しい人生は今…ここから始まったのだ。


じゃなくて!
現実逃避してる場合じゃない!
いくら何でもおかしい!夢にしては長すぎる!!
もしかして……現実の俺に何かあって目が醒めない!?
病気とか……それで長い夢を見てるとか……だとしたら!!

……だとしたら…どうするんだ…?
夢の中で…目を醒ます方法なんか…あるのか?

ガサガサ…

それに…現実に戻って…何かあるのか…?
つまらない毎日…目的も何もない、ただ生きる為だけに生きる毎日。
自分がどこにもいない毎日…いるのかいないのか…自分でもわからない世界。

自分の名前が…どこにもない世界。

ガサガサ…

…ならいいんじゃないのか?
少なくともヒュミは俺を認識して…俺の名前を呼んでくれている。
例え夢だとしても…例えゲームの世界だとしても…俺の名前はここにある。
なら、夢に生きたって…いいんじゃないのか。

『あなたの名前は……』

……俺の名前は…

ズキッ!

「痛っ!?」

……あれ?
俺の名前…………※※……だよな?
何で……疑問系…?自分の…名前だろ?
ははは……まさか…自分でも自分の名前を忘れかけてるの…か?
折角……父さん母さんが…つけてくれた…名前なのに。

……そうだ、父さん母さん……
やっぱり帰らないと……一人暮らしで意識不明なんてなってたら洒落にならない。
だけど…どうすればいいんだ…?
痛みを負っても何をしても目が醒めない。
どうやったら…現実に戻れるんだ?


【ごめんなさい……ナナシの権兵衛さま…】


…え!?
女の人の声が聞こえた……ヒュミ?
いや、ヒュミの声じゃなかった…他に人が誰かいるのか?

辺りを見回す、すると森林の影に生い茂る草が音を立てて揺れているのに気づいた。
そこから間をあけず、黒い人影を確認するのにも時間はかからなかった。

「……ヒュミ?」


バァンッ!!


「……………………………………………え?」

夢の中で、幻想の中で、テレビで聞き慣れたような音が聞こえた。

銃声。

「ありゃりゃ?て~っきり『逃げ出した王女』様かと思ったのに違うじゃねぇか。他に人間なんていたのかよ!?おい、【銃兄弟】!一旦止めな!兄ちゃん、何者だ?」

森林の奥から現れたのはヒュミではなく、謎の声の女性でもない。
三人、男。
小太りで背の低い…帽子を被った黒スーツの男、両隣には黒いマントを羽織る長髪で背の高い…鏡写しにしたように左右非対称なだけの瓜二つな男達。

誰なのかと考える前に俺は二つの異変に気付く。

一つは肩が熱い事…決して湯に浸かっているからじゃあ…ない。
そう、鳴り響いた銃声は俺に向けられていて…それは俺の肩肉を掠め取っていった。
それは熱さと…血に染まる湯で何となく理解できた。

だけど…もう一つの異変、それは全く理解できなかった。
銃の発射元であるだろう三人のうちの誰か。
だが、三人は…誰も銃なんか持っておらず…手ぶらだった。
いや、一人は手ぶらではない。
正確に言うと、銃兄弟と呼ばれていたうちの一人は…「指」の「銃」を俺に向けていて……指先からは煙が出ていた。

「僕の名前は【リボルバー】、短距離から素早く殺す」
「僕の名前は【才且ライフル】長距離からゆっくり殺す」

「馬鹿、お前ら。名乗っちまうやつがあるか!かぁ~っ、俺もヤキが回ったな!金をケチってこんな下っ端雇っちまうたぁ…まぁいいか。王女様は戦闘向きの【名前】じゃねぇ、ここが完全に復活する前に見つけてさっさと殺っちまおう、エルフが出てきたら面倒だ!さぁ兄ちゃん、誰かなんて元々興味はねえが………知ってる事は吐いてもらおうか、緑色の髪の女をここで見なかったか?」


そう、ここは名前が能力(チカラ)になる世界。
俺がこの世界で初めて会った【能力者】は冗談みたいなカッコいい名前を名乗り、まるで少年ジャンプの主人公みたいなカッコいい能力を使う悪役だった。






















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