名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録

第三話 名前が飾りの世界

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カチャッ

「………っ!」

男が構えた指先から金属音が聞こえる。
端から見たら大の男が子供のように指先で銃の形を作りふざけて遊んでいるようにしか見えない。
……だが。

バァンッ!!

銃声が響き、森達がざわめく。
放たれた弾は俺の頬を掠め、背後の地面に穴を開けた。

「悪ぃな兄ちゃん、聞いた【名前】の通り……こいつらは暗殺ギルドの銃使いの兄弟……下手な事しねぇ方がいい。なに、質問にさえ答えてくれりゃあ殺しはしねぇよ」

…悪人が使う常套句。
こんな修羅場は体験した事のない(当たり前)俺だが…そこまで馬鹿じゃない。
誰も人がいない孤島、姿を見せた暗殺ギルドとやら、そして…この世界において重要な…能力の根幹である【名前】をわざわざ名乗った。
目撃した者は無関係な人間だろうと殺す。
質問とやらに答えたところで見逃してくれるわけがない。
非現実にあって…何故か俺の頭は冷静に働いた。

「聞きたいのはこの島に緑髪の女がいるはずだが…何処にいるかって事だ。この島にいるって裏は取れてんだ、兄ちゃんが誰かは知らねぇが…ここにいて知らねぇとは言わせねぇぜ?」

間違いなくヒュミの事だろう。
狭い孤島に特徴的な髪色の女の子が二人もいるわけない、こいつら…ヒュミを殺しに来たのか…何の為に。

「……」
「おいおい、沈黙は隠してると見なして殺されちゃうぜ?」
「…………知らない」

バァンッ!

「がっ……!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

今度の銃弾は掠めなかった。
肩と胸の間に銃弾を受けた俺は…あまりの事態と痛みに絶叫する。

「知らないなんて答えは知らない。僕達はどこに居るかと聞いている」
「知らないなんて答えは知らない。僕達は王女はどこかと聞いている」

「おいおい、もう少し優しく扱ってやれよ。なぁ兄ちゃん、俺達はその女を殺しに来たんだ、標的は兄ちゃんじゃねぇ。こいつらは兄ちゃんを殺したいみてぇだが無闇に死体を増やすのは趣味じゃねぇんだ。俺が約束してやるよ、喋れば兄ちゃんは助けてやる」

「ぐうっ…!ぅううううっ!!」

痛みで話が頭に入ってこないけど…よく言う。
飴と鞭の使い分けで相手に取り入り話しやすくする。
そんな約束…誰だって嘘だってわかる!

……だけど、実際に映画やドラマで見るのとはわけが違う。
怖い
怖い
怖い!
恐怖に支配された俺の心は一発の銃弾で容易く折れかけた。
死にたくない!
誰か助けて!
悪夢なら覚めてくれ!!

「落ち着きなって、ただ女の居場所を言えばそれでいいんだ。それとも女に事情でも聞いて同情でもしたか?色恋沙汰にでも発展したか?格好つけて守ろうとでもしてんのか?くだらねぇよ、そんなの命と引き換えにするもんでもねぇだろ?」

日常とかけ離れた光景に俺の心は一気に冷めていく。

……そうかもしれない。
いや、事情どころの話ではない。
ヒュミの事なんか何も知らないんだ、職業だって、生い立ちだって。
それどころか…本当の【名前】だって。
もしかしたら…彼女だって何かやましい隠し事でもしてるのかもしれない、暗殺者に狙われてるくらいなんだから。

何故関係無い俺が殺されなきゃならない?
俺は何もしていない、ただ目覚めた先でヒュミと出会い一緒にいただけだ。
こんな目に合わされる筋合いは……どこにも無い。

だったら…嘘だとわかってても話してしまえばいい。
少しでも助かる希望があるんなら、それに賭けてみるしかないんだ。
どうせこれは夢だ。
もしくは…これはゲームの世界だ。
俺が介入してもしなくてもこのイベントは起きて…ヒュミは結局イベント通りにしかならない。
じゃあ…もういいか。
楽になってみよう、生かされるにしても…死ぬにしても。
苦しむ必要は…………ない。


『あなたの…名前は…』


こんな時に…何だ?
走馬灯?肩を撃たれただけだから死ぬ事はないと思ってたのに…
結局死ぬのか…俺は…

『※※……きっと、※※※※※※※※※※ように』

父さん…母さん…
そうだ、これは俺が自分の名前を聞いた瞬間。
何故だろう…産まれたての新生児だった頃のこの記憶は…今でも鮮明に残っていた。
俺の名前、その由来。

望む通りに生きられなくて、ごめん。
こんな異世界の地で…死ぬとは思ってなかったよ。
里奈……妹、何年も話してないけど父さん母さんの事頼むよ。
せめてお前だけは親孝行してやってくれ。
貰った名前に恥じない、生き方をしてやってくれ。


『別にいいんじゃねぇのか?んなこと』
『そうですよ!名前に拘る事は…ないんです!』

…………誰の声だ?せっかくいい感じに感傷に浸って終わろうとしてたのに。
謎の二人の女性の声が走馬灯に入り交じり気分を台無しにした。

『名付けた人は!あなたにそんな生き方をしてほしくて名付けたわけではないんです!名前は世界で一番大切でっ……世界で一番意味のないただの飾りです!』

矛盾するような事を声の主は言う。

『あなたはっ…名付けた時っ!そう生きなきゃダメだって…そんな想いで名前を付けましたかっ!?違いますよね!?だったら!あなたに名付けた人の想いだって同じなはずです!』

名付けた?俺が?
誰にだ?俺に子供はいないんだけど…。

『大事なのはっ…!あなたが名前を受け入れて一緒にどう生きるのか!想いをどう受け止めるのかっ!ただそれだけなんですっ!だからっ……!!』


「……っ!!※※さぁんっ!!!!!」


走馬灯の謎の声の主が言い終わる前に、現実の聞き慣れた声の叫びが俺の鼓膜を揺らす。


「……ヒュミっ!!」


その瞬間は、刹那の時間だった。
まるでその現実までもが走馬灯になってしまったかのように。

ヒュミは森林の奥から俺達を視認した瞬間、こちらへ向かって走り出してきた。
当然、俺だけじゃなく…三人の男達も瞬間に彼女を視認した。

距離にして百数十メートル。
暗殺者達の片方、左右対称の片割れが片腕を顔へ引きもう片腕の指先を彼女へ向けた。
確かあっちのやつは【才且ライフル】って名乗った。
【才】【且】で【狙】……【狙撃】【ライフル】。
つまりスナイパーライフルの能力!
なら、ここからでも…彼女に届き得る!

この世界の理を受け入れた俺の頭は冷静に働いた。
いや、冷静ではなかったかもしれない。
その瞬間は…何も考えていなかった。
ただただ、何故か身体が勝手に動いていた。

「いたな!王女!殺せぇっ!!」
「※※さぁんっ!!!!!」


俺は彼女…ヒュミの事を何も知らない、名前すらも。
名前?
俺も名前がどこにも無い、けど。

明晰夢?ゲームの世界?シーン?イベント?
名前の意味?想い?由来?理由?


知るか!そんなこと!
彼女は俺の名前を間違いなく、叫んでいる。

それで、充分じゃないか。
助ける理由なんて!

ダッ!!

俺はヒュミと【才且ライフル】を結ぶ直線上に、走った。
間に合え!!
身体のどこでもいい!!滑り込ませろ!!
俺の名前を叫ぶ人がいる!!
助けろ!!俺がっ…俺の名前が彼女の中に存在している!
それだけでっ…!


…ターンッ……!!


ライフルの射撃音が鳴った。
瞬間、時は…………止まっていた。


『やはり、あなたは……思った通りの御方でした…』

結果は……まだ出ていない。
比喩ではなく本当に時が止まっていたから。
ギリギリで身体を滑り込ませた俺の頭を、ライフルの弾は捉えていた。
しかし僅か数ミリ、俺の頭を貫く瞬間に…空中で制止していたのだ。
風も、森も、雲も空も。ヒュミも俺も、三人の男達も。
全ての時間が止まっていた。

正確に言うなら……俺だけは、身体の動きだけが止まっている。
身体は一切動かせない、だけど精神だけはちゃんと止まった時間…現状を認識できていた。
一体……次から次へと何が起きているんだろうか…
これは一体何なんだ?

すると突然降ってわいたように…文字の如く、目の前に一人の女性が空から現れた。
それは何回か聞いた…走馬灯での声の主だった。


「はじめまして、名無しの権兵衛様。私は…【女神】。貴方様に助けて頂きたく、この世界へお喚びさせてもらいました」





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