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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録
第十五話 名無しの権兵衛vs閃光騎士
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『緑雨旋風!』ザアッ!
その剣閃は湖を割り、草を舞い上がらせ、緑色の水飛沫を降らせる。
『閃光烈斬!』ザクッ!
光る閃撃は大地を裂き、遥か上空の雲を斬る。
『剣突破山!』ドォンッ!
剣を突くだけで、遠景の山が爆破された様な振動を起こした。
この人、マジで俺を殺す気だ!
流石に剣を振るう相手じゃ勝手が違う、避けるのが精一杯だ。
しかも一撃一撃がとてつもない威力、喰らったら耐久度1000のパラメーターでもどうなるかわからない。
それに速い、剣だけではなく動き全てが閃光のようだ。
(これは、パラメーターを上げないと防戦一方か…だけど少女の姉だし女の子だ、殴るわけにはいかない。だからといって中途半端な決着の仕方じゃあ、この姉は納得しないだろう……何故こんな事に…全て俺が原因なんだが…)
~~~~~~~~
「さあ、構えろ。今度は不意討ちじゃない、全力で相手になってやろう…」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
リーフは剣を構え、酒乱のような目付きになっていた。
「ちょっと待ってくれ、こんな事してる場合じゃ…」
「………ちょっと待って」
少女が対峙する二人の間に入ってくる。
「…他に愛してる人がいるって……じゃああの言葉は……何かアタシの誤解だったって事?」
少女の目線は俺に向いている。
「…紛らわしい言い方をしてすまない…そんな意味だとは知らなかったんだ…」
何より少女の心を弄んでしまったんだ
それは俺が悪い、改めて謝罪する。
「………それはわかった、あなた少し世間ずれしてる感じがするから。アタシの誤解だったんだね…」
心が痛い。
この少女には、異世界から来た事情も全部説明してわかってもらうしかないか…
とりあえず場はおさまりそうでよかった……
「…じゃあ、キスしようとしたのは…?」
やはり俺はここで殺されるべきかもしれない。
反論の余地もない。
見ればリーフは悪魔のごとき顔つきに変貌していた。
「ちょーっと待つにゃあ!」
思わぬ所から声がかかる、赤髪の第三者だ。
場をおさめようとしてくれるのだろうか……
「リーちゃん、ここじゃあ森に傷がついちゃうにゃあ!エルフとしてはそれはまずいんじゃない?もっと広い場所でやるにゃ!」
そんなわけはなかった。
~~~~~~~~~~~~~
という事で、俺達は少女の仮住まいがある湖畔で死闘を繰り広げているのだった。
見れば赤髪の娘は果実を食べながら椅子に座り、リッチに見学している。
この娘、休むためにここでの戦闘を提案しただけか。
その隣には怒り顔のエルフ少女が座りながら手を膝にやり、背筋を伸ばして真剣に勝負を見届けていた。
実況と解説か。
……そんな事よりこのままでは埒があかない。
パラメーターを上げるにしても続々と繰り出される閃光の剣撃を避けるので手一杯だ。
エルフ騎士は今真正面から斬りかかってくる。
………ならば
俺は足を限界まで上にあげ、地面に勢いよく叩きつけた。
ドオオォォォオォォオォオォォオォォオンッッッッッ!!!
火山の噴火のような音と共に、振動と地割れ、地面の隆起が同時に起きる。
「にゃあああ!」「きゃああっ?」
地震が起こり、見学していた二人も屈み込む。
「くっ!?」
流石に地震に足をとられ、一瞬隙を見せるリーフ。
その隙にパラメーター画面を呼び出し、素早く敏捷の値だけを1500にまで上げる。
一瞬だけでは一項目だけ操作するのが精一杯だ。
『波十連斬!』
リーフは素早く体勢を立て直し、コンマ数秒の隙などなかったかのように波のような連続攻撃を仕掛けてくる。
驚いた、あれでもほんの僅かな隙しかみせないなんて。
これが経験故に出来る事の差か。
俺の周りには波打つ十の連撃が四方八方から緩急をつけ押し寄せていた。
ヒュッ
「!?」ガクン!
「…勝負ありだ」
しかし敏捷を上げた俺は連撃のわずかな隙間から抜け出ていた。
そしてリーフの後ろに回り、剣を持つ腕を押さえ足でリーフの膝裏を強引に押し曲げた。
強制的なひざカックンの形だ。
武道の知識はないが、相手を制圧するのにこの方法がいいとか何とかテレビかまとめサイトか何かで見た記憶が多少ある。
要するにうる覚えで根拠などまるでない。
だが、確かにリーフは微動だにしていなかった、効果はあるようだ。
「にゃ…なにが起きたのかにゃ?リーちゃんの動きも全然見えなかったけど…それ以上にあの人速かったよ……?」
「…………」
腕を抑えられ、膝裏に足を乗せられたまま動けないリーフは
静かに微笑んだ。
「……なるほど、妹に求婚するだけの事はある」
いや、してない。
「だが、油断したな」
ザクッ!
突如背後から衝撃を受けた。
「!?」
振り返るとそこには舞った葉の塊が
人の形を模して剣を俺に突き刺していた。
「剣を振るう事だけが能ではない、加えて私が剣を一本しか持っていないとも言っていない、油断しない事だな」
集められ人の形になった葉の集合体。
これがリーフの能力の一つ……確かに油断していた…。
「……っ!…ナナシぃっ!」
少女の悲痛な声が、俺の名前を呼ぶ。
ピキッ
……が、油断など俺にはやっぱり関係なかった。
パリィィィン!
「!?」
俺に突き立てられた剣は粉々に砕け散った。
ちょっとチクッとした、血出てないかな。
剣は俺の皮膚薄皮一枚の所でバラバラと音を立て地面へ落ちる。
それと同時に葉っぱの人も散り散りになり散っていった。
「にゃ……何あの人……剣が刺さらないの…?…化け物だよ…」
失礼な言葉が聞こえた気がする。
「………………ふっ」
身動きが取れないリーフは突如笑い出した。
「ふふふっ、あはははっ!ここまでデタラメじゃあ仕方ない、参った。降参だ」
「……えっ」
「自分から戦いを仕掛けたんだ、命乞いはしない。殺すなら殺せ」
女騎士から一番聞きたい言葉が聞けた。
「だが、頼む。妹の面倒を見てやってほしい、勝手な願いですまないが」
人を無視してどんどん話を進める騎士様、殺すなんて言ってない。
怖くなった俺は急いでリーフを解放する。
「む……。無駄な殺生はしないタイプか…?」
「まぁ、そうだけど…」
「ならば、不躾な願いだと思うが今生の頼みがある。聞いてはもらえないだろうか?そんな立場ではないのは重々承知した上でだ」
とても嫌な予感がする。
「見てのとおり、妹はまだ若く経験が足りていない。未だに狭い世界しか見ていないのだ、だからこれから色々と見聞を広めて欲しいと考えている。故に、婚姻は少し待ってほしい」
だから、それは誤解だと言っている。
この人、人の話聞いてないのか?
まぁ、話は解決しそうだ、良かった。
「……その…代わりといっては…何だが………私を妻として娶ってほしい」
「「「にゃっ!?」」」
思わず全員が猫のような声をあげてしまった。
「だ、駄目だろうか?確かに私は妹と違い可愛げはないし、女としての魅力は足りていないとは思う!未だに恋愛経験のない生娘だ!だがっ、全てを捧げ奉仕すると誓おう!」
大声で何を言っているんだ。
「ちょっ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!アタシが先にプロポーズされたんだよ?!」
「だが、この森の事態の収拾は任せてほしいと最初に私に言っただろう。私は断腸の想いでお前の成長のため任せたというのに、、助力を願うばかりかその間に男と交わっていただけ。挙げ句に婚姻などしてみろ。お前は里を追放されるぞ」
プロポーズしてないし交わってない。
「…うっ…」
「だからお前はもう少し成長をしてからと言っているのだ。別にこの殿方を横取りするつもりはない。エルフでは一夫多妻も認められている。しかし、その…殿方にも男の都合があるだろう。その間私が全身を以て奉仕すると言っているのだ」
全身を以て奉仕……いかん、反応するな。
「そ、そんなの…」
「無論、好意を持たぬ男にそんな事をするのは耐えられん。だが、私は昔から自分より強い殿方を求めていたしな。条件は満たしている。愛は徐々に育んでいけば良い」フフフ
「だっ、だめっ…」
「……あのーちょっといいかにゃ?」
いい加減色々と突っ込みそうになった時赤髪の娘が間に入る。
「そもそもその人…他に彼女がいるとか言ってなかったかにゃ?」
そう!
第三者が一番話を聞いてくれていた!
「「そんなの奪(うもん、えば良い)!」」
本来の目的の一つではあるのだが
段々と形成されていくハーレムに少し恐怖を覚えた瞬間だった。
--------------
----------
-----
………
「…研究所に名獣、そして見た事もない巨人か…」
俺達はあの後、修羅場の様な話し合いを一旦切り上げ本来の目的のため少女の仮住まいに腰を落ち着けた。
辺りはもう暗闇…時計はないが、恐らく深夜になっているだろう。
「確かに六つ目の巨人など私も見た事がないな、エレ、お前はどうだ?」
エレ?
「にゃー!わたしの名前ばらさないでよぅ!」
「略称なら問題なかろう」
「それでもそれだけで色々と予測はたてられるんだにゃー!」
……確かに。
略称であっても見知った顔だとしても軽々しく名前は呼ばない方がいいかもしれない。
「ナナシさん、他の人に言ったらあなたの名前もばらすにゃ…」
いつの間にか名前を知られていた。
そう言えばさっきエルフ少女が叫んでいたな。
別に俺は問題ないけど。
「大丈夫、聞いてない事にするから」
「ありがとにゃー…わたしも巨人には会った事あるけどそんな巨人の話は聞いた事ないよぅ」
「ふむ…ならば実験によって産み出された巨人、若しくは生後まもない巨人を連れ去り実験に使ったかのどちらかだ」
「…ひどい」
「生後まもないってのは?」
「そんな巨人の話を聞いた事ない以上、一から造られたものだと思うだろう」
「巨人族を捕らえ改造したとしたら?」
「……可能性はあるが…巨人族は一体でも相当な戦闘力を誇る、それを捕らえ操るなど……」
「……」
「……それを越える、若しくは操る名前を持つ者がいればおかしくはないか」
そう、どんな名でどんな能力を持つ者がいるかわからない。
だから安心はできない。
「……それにあの巨人も普通の巨人以上の力を持ってるかも……名前を言ってたけど…『フロラーバ』なんて言葉聞いた事ないわよ」
俺も聞いた事ない言葉だ、元の世界にそんな言葉あっただろうか。
スマホは女神のところに置いてきてしまったしな。
そもそもネットに繋がらないから検索できない。
「うむ、私達を呼んだのは賢明だったなアイ、先ほどはすまなかった。許してくれ」
アイ?
また略称か…このお姉さんは口が軽いのか天然なのか。
「それでね、お姉ちゃん達を呼んだのは頼みがあるからなの」
アイはエレと違って特に取り乱さず言う。
「たぶん、ナナシとお姉ちゃんがいれば二人でもどうにかなるかもしれない、でもね。アタシにも協力させてほしいの」
「わたしは?」
赤髪の第三者は数えられなかった。
「…しかし、お前の手に負える相手ではないかもしれん」
「わかってる、だからね。アタシもう一度鍛え直してくる、彼…ナナシと一緒に」
え?
初耳なんだけど…
「ナナシにはアタシを鍛えてほしいの、師匠の元に行くまで」
「師匠?」
「アタシの弓の師匠。この大陸にまだいるはずだからここから歩いてなのかくらいの街にいるわ」
「七日……この森と巨人の監視はお姉さんに任せてって事か?」
「うん、アタシの最後の我が儘、お願いお姉ちゃん!」
「………」
「絶対…強くなって隣で戦えるようになるから…その間だけこの森を守ってほしいの…お願い…」
なるほど、リーフの強さなら何かあっても任せられるしその間俺達のレベルアップもできるか。
「わたしは頭数に含まれないのかにゃ?」
ごめん、エレもいた。
ならば俺も協力するべきだな。
「俺からも頼む、アイの事は俺が責任を持つから妹の頼みを聞いてやってほしい」
「……ナナシ…」
「……………」
リーフは目を瞑り、長い沈黙が訪れる。
「…………いいだろう」
リーフは了承してくれた。
「こちらの事は任せろ、ただし、もう妥協も甘えも一切ナシだ、必ず、今度こそ強くなって帰ってこい」
「っ!ありがとう!お姉ちゃん!」
「ならばさっさと行け」
……え?
今から?
「まさか、一晩寝てからとでも言うつもりではないだろうな?寝てる暇があるなら出来る事があるだろう」ギロッ
「うん!行ってくる!行くよ、ナナシ!」
手を引かれ、俺達は扉を開く。
必ず強くなる事を約束して。
バタン!
「…毎度毎度お姉ちゃんは辛いにゃ~?」
「………五月蝿いぞ…」グスッ
「はいはい、よしよしにゃー」
--------------
---------
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俺達は暗闇の中を光を目指して歩く。
「これからよろしくねっ!」
「あぁ、よろしくアイ」
「………アイスメリア」
「え?」
「アイスメリア、アタシの名前。エルフの言葉で『降り注ぐ日射し』、家族以外ではあなたしか知らない名前…今まで通り人前ではアイって呼んで………でも二人きりの時は…名前で呼んでね」
「…ナナシっ!」にこっ
いい名前だ、初めて見る少女の笑顔はその名の由来の通り、日射しのように俺に降り注いだ。
その剣閃は湖を割り、草を舞い上がらせ、緑色の水飛沫を降らせる。
『閃光烈斬!』ザクッ!
光る閃撃は大地を裂き、遥か上空の雲を斬る。
『剣突破山!』ドォンッ!
剣を突くだけで、遠景の山が爆破された様な振動を起こした。
この人、マジで俺を殺す気だ!
流石に剣を振るう相手じゃ勝手が違う、避けるのが精一杯だ。
しかも一撃一撃がとてつもない威力、喰らったら耐久度1000のパラメーターでもどうなるかわからない。
それに速い、剣だけではなく動き全てが閃光のようだ。
(これは、パラメーターを上げないと防戦一方か…だけど少女の姉だし女の子だ、殴るわけにはいかない。だからといって中途半端な決着の仕方じゃあ、この姉は納得しないだろう……何故こんな事に…全て俺が原因なんだが…)
~~~~~~~~
「さあ、構えろ。今度は不意討ちじゃない、全力で相手になってやろう…」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
リーフは剣を構え、酒乱のような目付きになっていた。
「ちょっと待ってくれ、こんな事してる場合じゃ…」
「………ちょっと待って」
少女が対峙する二人の間に入ってくる。
「…他に愛してる人がいるって……じゃああの言葉は……何かアタシの誤解だったって事?」
少女の目線は俺に向いている。
「…紛らわしい言い方をしてすまない…そんな意味だとは知らなかったんだ…」
何より少女の心を弄んでしまったんだ
それは俺が悪い、改めて謝罪する。
「………それはわかった、あなた少し世間ずれしてる感じがするから。アタシの誤解だったんだね…」
心が痛い。
この少女には、異世界から来た事情も全部説明してわかってもらうしかないか…
とりあえず場はおさまりそうでよかった……
「…じゃあ、キスしようとしたのは…?」
やはり俺はここで殺されるべきかもしれない。
反論の余地もない。
見ればリーフは悪魔のごとき顔つきに変貌していた。
「ちょーっと待つにゃあ!」
思わぬ所から声がかかる、赤髪の第三者だ。
場をおさめようとしてくれるのだろうか……
「リーちゃん、ここじゃあ森に傷がついちゃうにゃあ!エルフとしてはそれはまずいんじゃない?もっと広い場所でやるにゃ!」
そんなわけはなかった。
~~~~~~~~~~~~~
という事で、俺達は少女の仮住まいがある湖畔で死闘を繰り広げているのだった。
見れば赤髪の娘は果実を食べながら椅子に座り、リッチに見学している。
この娘、休むためにここでの戦闘を提案しただけか。
その隣には怒り顔のエルフ少女が座りながら手を膝にやり、背筋を伸ばして真剣に勝負を見届けていた。
実況と解説か。
……そんな事よりこのままでは埒があかない。
パラメーターを上げるにしても続々と繰り出される閃光の剣撃を避けるので手一杯だ。
エルフ騎士は今真正面から斬りかかってくる。
………ならば
俺は足を限界まで上にあげ、地面に勢いよく叩きつけた。
ドオオォォォオォォオォオォォオォォオンッッッッッ!!!
火山の噴火のような音と共に、振動と地割れ、地面の隆起が同時に起きる。
「にゃあああ!」「きゃああっ?」
地震が起こり、見学していた二人も屈み込む。
「くっ!?」
流石に地震に足をとられ、一瞬隙を見せるリーフ。
その隙にパラメーター画面を呼び出し、素早く敏捷の値だけを1500にまで上げる。
一瞬だけでは一項目だけ操作するのが精一杯だ。
『波十連斬!』
リーフは素早く体勢を立て直し、コンマ数秒の隙などなかったかのように波のような連続攻撃を仕掛けてくる。
驚いた、あれでもほんの僅かな隙しかみせないなんて。
これが経験故に出来る事の差か。
俺の周りには波打つ十の連撃が四方八方から緩急をつけ押し寄せていた。
ヒュッ
「!?」ガクン!
「…勝負ありだ」
しかし敏捷を上げた俺は連撃のわずかな隙間から抜け出ていた。
そしてリーフの後ろに回り、剣を持つ腕を押さえ足でリーフの膝裏を強引に押し曲げた。
強制的なひざカックンの形だ。
武道の知識はないが、相手を制圧するのにこの方法がいいとか何とかテレビかまとめサイトか何かで見た記憶が多少ある。
要するにうる覚えで根拠などまるでない。
だが、確かにリーフは微動だにしていなかった、効果はあるようだ。
「にゃ…なにが起きたのかにゃ?リーちゃんの動きも全然見えなかったけど…それ以上にあの人速かったよ……?」
「…………」
腕を抑えられ、膝裏に足を乗せられたまま動けないリーフは
静かに微笑んだ。
「……なるほど、妹に求婚するだけの事はある」
いや、してない。
「だが、油断したな」
ザクッ!
突如背後から衝撃を受けた。
「!?」
振り返るとそこには舞った葉の塊が
人の形を模して剣を俺に突き刺していた。
「剣を振るう事だけが能ではない、加えて私が剣を一本しか持っていないとも言っていない、油断しない事だな」
集められ人の形になった葉の集合体。
これがリーフの能力の一つ……確かに油断していた…。
「……っ!…ナナシぃっ!」
少女の悲痛な声が、俺の名前を呼ぶ。
ピキッ
……が、油断など俺にはやっぱり関係なかった。
パリィィィン!
「!?」
俺に突き立てられた剣は粉々に砕け散った。
ちょっとチクッとした、血出てないかな。
剣は俺の皮膚薄皮一枚の所でバラバラと音を立て地面へ落ちる。
それと同時に葉っぱの人も散り散りになり散っていった。
「にゃ……何あの人……剣が刺さらないの…?…化け物だよ…」
失礼な言葉が聞こえた気がする。
「………………ふっ」
身動きが取れないリーフは突如笑い出した。
「ふふふっ、あはははっ!ここまでデタラメじゃあ仕方ない、参った。降参だ」
「……えっ」
「自分から戦いを仕掛けたんだ、命乞いはしない。殺すなら殺せ」
女騎士から一番聞きたい言葉が聞けた。
「だが、頼む。妹の面倒を見てやってほしい、勝手な願いですまないが」
人を無視してどんどん話を進める騎士様、殺すなんて言ってない。
怖くなった俺は急いでリーフを解放する。
「む……。無駄な殺生はしないタイプか…?」
「まぁ、そうだけど…」
「ならば、不躾な願いだと思うが今生の頼みがある。聞いてはもらえないだろうか?そんな立場ではないのは重々承知した上でだ」
とても嫌な予感がする。
「見てのとおり、妹はまだ若く経験が足りていない。未だに狭い世界しか見ていないのだ、だからこれから色々と見聞を広めて欲しいと考えている。故に、婚姻は少し待ってほしい」
だから、それは誤解だと言っている。
この人、人の話聞いてないのか?
まぁ、話は解決しそうだ、良かった。
「……その…代わりといっては…何だが………私を妻として娶ってほしい」
「「「にゃっ!?」」」
思わず全員が猫のような声をあげてしまった。
「だ、駄目だろうか?確かに私は妹と違い可愛げはないし、女としての魅力は足りていないとは思う!未だに恋愛経験のない生娘だ!だがっ、全てを捧げ奉仕すると誓おう!」
大声で何を言っているんだ。
「ちょっ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!アタシが先にプロポーズされたんだよ?!」
「だが、この森の事態の収拾は任せてほしいと最初に私に言っただろう。私は断腸の想いでお前の成長のため任せたというのに、、助力を願うばかりかその間に男と交わっていただけ。挙げ句に婚姻などしてみろ。お前は里を追放されるぞ」
プロポーズしてないし交わってない。
「…うっ…」
「だからお前はもう少し成長をしてからと言っているのだ。別にこの殿方を横取りするつもりはない。エルフでは一夫多妻も認められている。しかし、その…殿方にも男の都合があるだろう。その間私が全身を以て奉仕すると言っているのだ」
全身を以て奉仕……いかん、反応するな。
「そ、そんなの…」
「無論、好意を持たぬ男にそんな事をするのは耐えられん。だが、私は昔から自分より強い殿方を求めていたしな。条件は満たしている。愛は徐々に育んでいけば良い」フフフ
「だっ、だめっ…」
「……あのーちょっといいかにゃ?」
いい加減色々と突っ込みそうになった時赤髪の娘が間に入る。
「そもそもその人…他に彼女がいるとか言ってなかったかにゃ?」
そう!
第三者が一番話を聞いてくれていた!
「「そんなの奪(うもん、えば良い)!」」
本来の目的の一つではあるのだが
段々と形成されていくハーレムに少し恐怖を覚えた瞬間だった。
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………
「…研究所に名獣、そして見た事もない巨人か…」
俺達はあの後、修羅場の様な話し合いを一旦切り上げ本来の目的のため少女の仮住まいに腰を落ち着けた。
辺りはもう暗闇…時計はないが、恐らく深夜になっているだろう。
「確かに六つ目の巨人など私も見た事がないな、エレ、お前はどうだ?」
エレ?
「にゃー!わたしの名前ばらさないでよぅ!」
「略称なら問題なかろう」
「それでもそれだけで色々と予測はたてられるんだにゃー!」
……確かに。
略称であっても見知った顔だとしても軽々しく名前は呼ばない方がいいかもしれない。
「ナナシさん、他の人に言ったらあなたの名前もばらすにゃ…」
いつの間にか名前を知られていた。
そう言えばさっきエルフ少女が叫んでいたな。
別に俺は問題ないけど。
「大丈夫、聞いてない事にするから」
「ありがとにゃー…わたしも巨人には会った事あるけどそんな巨人の話は聞いた事ないよぅ」
「ふむ…ならば実験によって産み出された巨人、若しくは生後まもない巨人を連れ去り実験に使ったかのどちらかだ」
「…ひどい」
「生後まもないってのは?」
「そんな巨人の話を聞いた事ない以上、一から造られたものだと思うだろう」
「巨人族を捕らえ改造したとしたら?」
「……可能性はあるが…巨人族は一体でも相当な戦闘力を誇る、それを捕らえ操るなど……」
「……」
「……それを越える、若しくは操る名前を持つ者がいればおかしくはないか」
そう、どんな名でどんな能力を持つ者がいるかわからない。
だから安心はできない。
「……それにあの巨人も普通の巨人以上の力を持ってるかも……名前を言ってたけど…『フロラーバ』なんて言葉聞いた事ないわよ」
俺も聞いた事ない言葉だ、元の世界にそんな言葉あっただろうか。
スマホは女神のところに置いてきてしまったしな。
そもそもネットに繋がらないから検索できない。
「うむ、私達を呼んだのは賢明だったなアイ、先ほどはすまなかった。許してくれ」
アイ?
また略称か…このお姉さんは口が軽いのか天然なのか。
「それでね、お姉ちゃん達を呼んだのは頼みがあるからなの」
アイはエレと違って特に取り乱さず言う。
「たぶん、ナナシとお姉ちゃんがいれば二人でもどうにかなるかもしれない、でもね。アタシにも協力させてほしいの」
「わたしは?」
赤髪の第三者は数えられなかった。
「…しかし、お前の手に負える相手ではないかもしれん」
「わかってる、だからね。アタシもう一度鍛え直してくる、彼…ナナシと一緒に」
え?
初耳なんだけど…
「ナナシにはアタシを鍛えてほしいの、師匠の元に行くまで」
「師匠?」
「アタシの弓の師匠。この大陸にまだいるはずだからここから歩いてなのかくらいの街にいるわ」
「七日……この森と巨人の監視はお姉さんに任せてって事か?」
「うん、アタシの最後の我が儘、お願いお姉ちゃん!」
「………」
「絶対…強くなって隣で戦えるようになるから…その間だけこの森を守ってほしいの…お願い…」
なるほど、リーフの強さなら何かあっても任せられるしその間俺達のレベルアップもできるか。
「わたしは頭数に含まれないのかにゃ?」
ごめん、エレもいた。
ならば俺も協力するべきだな。
「俺からも頼む、アイの事は俺が責任を持つから妹の頼みを聞いてやってほしい」
「……ナナシ…」
「……………」
リーフは目を瞑り、長い沈黙が訪れる。
「…………いいだろう」
リーフは了承してくれた。
「こちらの事は任せろ、ただし、もう妥協も甘えも一切ナシだ、必ず、今度こそ強くなって帰ってこい」
「っ!ありがとう!お姉ちゃん!」
「ならばさっさと行け」
……え?
今から?
「まさか、一晩寝てからとでも言うつもりではないだろうな?寝てる暇があるなら出来る事があるだろう」ギロッ
「うん!行ってくる!行くよ、ナナシ!」
手を引かれ、俺達は扉を開く。
必ず強くなる事を約束して。
バタン!
「…毎度毎度お姉ちゃんは辛いにゃ~?」
「………五月蝿いぞ…」グスッ
「はいはい、よしよしにゃー」
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俺達は暗闇の中を光を目指して歩く。
「これからよろしくねっ!」
「あぁ、よろしくアイ」
「………アイスメリア」
「え?」
「アイスメリア、アタシの名前。エルフの言葉で『降り注ぐ日射し』、家族以外ではあなたしか知らない名前…今まで通り人前ではアイって呼んで………でも二人きりの時は…名前で呼んでね」
「…ナナシっ!」にこっ
いい名前だ、初めて見る少女の笑顔はその名の由来の通り、日射しのように俺に降り注いだ。
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