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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録
第十四話 閃光騎士リーフレイン
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「…ひっ…!」
洞窟の影から姿を現したのは、七階建てのビルの大きさに相当する巨人。
その姿は普通ではなく、瞳が顔中に散らばり六つ。口は裂け鼻は潰れ機能しているのかはわからない。
髪はその殆どが抜け落ちたのか、所々まばらに生えているだけだった。
身体は筋骨粒々といった感じで至るところに血管が浮き出ている。
ドスン、ドスン。
地響きを立て、こちらに近づいて来ているがまだこちらを視認してはいないようだ。
「…むぐっ!?」
その隙に少女の口を手で押さえ、素早く岩影、巨人の視界の外へ移動する。
「んっ」
「静かに」ぼそっ
丁度少女を後ろから抱き締め密着する形になってしまったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
ドスン、ドスン。
もう俺達の鼻先まで来ている。
これも実験生物なのだろうか?
巨人族ならこの世界にはいるかもしれないが、こんな異形の巨人がわんさかいるとは考えたくはない。
どちらにせよ、無理に戦いたくはない。
この生物はおそらく…被害者なのだから。
「………」
辺りを六つの眼を使い、見回している。
「あれ~おかしいなぁ、罠に反応があったのに…溺死しちゃったかな?」
突然巨人の方から声が聞こえる。
巨人が喋りだしたのかと思ったがそうではなく、よく見ると巨人の首もとあたりにもう1つ熱源がある。
声の主はどうやら巨人の肩に乗っている人物のようだ。
「う~ん、このルートはあんま人は迷い込まないと思ったんだけど…偽装してある入口もそう簡単に破れるもんじゃないしなぁ~」
顔までは見えないが、声からは若い男のような印象を受ける。
もしかしたらこいつが研究所とやらの人間か。
「ま、いいか。旅人やエルフ族ならいつでも殺れるし、帰るよ。『フロラーバ』」
フロラーバ?
巨人の名前か?
ドスンドスンと音を立て、闇へと巨人達は消えていった。
……
辺りには再び静寂が訪れる。
「……」
後を尾けるべきだったろうか。
初めて生身で見る(当たり前だが)巨人に圧倒されてしまった。
パラメーターの力を俺が持っていなかったら失神していたかもしれない。
対人や対獣とはわけが違ったな…
…しかし、どうしたものか。
ここまで予想は当たっていたんだ、これであの巨人と人間がただの散歩でここに来た…なんて事はないはずだ。
研究所の人間かどうかはともかく、森で見た『名獣』とやらに何かしら関わっていると見て間違いないだろう。
だけどこのまま少女を連れて乗り込んで良いものだろうか。
少なくともさっきの台詞からみて友好的にいくとは思えない、戦闘は避けられない。
「……めぇ」
巨人との戦闘、一人ならともかくこの少女を守れるだろうか。
…無傷で守る自信は…なかった。
この少女は間違いなくついてくるだろうしな…
「んー!」
…だが、どうする?
悠長に考えている間に新たな被害者が出ないとも限らない。
だめだ、判断できない。
これが圧倒的な経験不足か…判断力も足りていない。
「んーんーんー!」
あ、口で手を抑えつけて後ろから抱き締めたままだった。
これじゃあ誘拐だ、俺は口から手を離す。
「ぷぁっ、苦しいってば!」
「ごめん」
「……それに、手ぇ、いつまで触ってるのよ」
無意識にもう一方の手は濡れた少女の胸を包んでいた。
「っ!ごめん!わざとじゃない!」バッ!
「………いいけど」
少女は怒ってるような恥ずかしがっているような微妙な表情をして俺から離れる。
「……それで?どうするの?追わないの?」
「……」
「……ごめん、アタシだよね。たぶん足手まといになる、さっきから何も役に立ってないし」
「……そんな事はない」
「……ありがと、でもいいの。巨人を見た時アタシは恐くて動けなかった……アタシね、里を出て初めて一人でこの森の管理を任されたの。エルフはね、修行して成人になると各地の森へ行って神聖な森の命を守るってしきたりがあって…これまではお姉ちゃんと一緒に各地を廻ってたんだけど……この森の噂を聞いて一人でやってみたくて…頼みこんだらお姉ちゃんが一人でやってみろって……弓は一生懸命練習したし…自信あったのに……全然だめだったね、あなたが1日でたどり着いた事にひとつきかかってもたどり着かなかった…ただ右往左往して…全然だめ…」
「……」
「……でもね。アタシはやっぱり見過ごせない、神聖な森でこれ以上犠牲を出したくないから……それにね、あなたなら一人で勝てるのかもしれないけど…やっぱり一人で行かせたくない、…アタシの仕事だからってのもあるけど……もしもの事があったりしてあなたが死んだりしたら…………寝覚めが悪いしね!」
少女は目に少し涙を浮かべる。
「……ごめん、全部アタシのワガママなんだけどさ…」
どの種族にも事情があるんだな。
できる事ならこの少女の力になりたい。
俺が犠牲も出さずに解決できるほどの力があればよかったのに…
しかし現状それができる自信がない、何て情けない話だ。
「だからね、一回アタシの仮住まいまで戻ってほしいんだ」
「……仮住まいまで?」
「あそこなら何か異変があってもすぐここに来れる、だからお願い」
「……わかった」
俺達は洞窟を上にたどり、先ほど落ちた入口まで戻った。
道は一本道で意外とすんなり着いた、きっとどこかには更に下へ続く道があるのだろうが。
今はただ少女の言葉に従い戻る、きっと考えがあるのだろう。
--------------
----------
------
「実は…情けない話だけど…結構前にアタシ一人の手には負えないと思って伝書鳩を飛ばしたの…お姉ちゃんに」
「お姉さん?」
「うん、同じ大陸の森にいるからたぶんそろそろ来てくれると思う」
「…お姉さんは、強いのか?」
「物凄く、エルフ族の中でもたぶん一番か二番。あなたの本気はわからないけどさっきのあなたくらいの事はできるのよ」
マジか、あの時のパラメーターは1000。
能力者を悶絶させる5倍の力だぞ、ゴリラみたいなエルフなの?
「けど凄く怖い人だから…アタシの事は大事にしてくれてると思うんだけど…ケンカしないように気をつけて」
気をつけてと言われても。
そんなお姉さんと会って俺にどうしろと言うんだ…
ビュッ!
その時、風を切る音が聞こえた
それと同時に、剣が、俺の顔めがけて、飛んできていた。
正確には音と同時に俺の瞳の前に剣の切っ先がもうそこにあった。
パシッ
俺は剣の切っ先を親指の付け根と掌で挟み、剣を止める。
剣は俺の瞳数ミリ先で動きを制止された。
危なっ!
事前に動体視力のパラメーターを見つけていなければ死んでいた。
この世界、常人が生きていくのに厳しすぎやしないか?
「……っえ?」
それに気づかず数歩先を歩いた少女がようやく事態に気付き、歩みを止める。
「なっなに?!どうし…………あっ…」
少女は俺が抑えた剣を見て顔色を変える。
「この剣……お姉ちゃんの…」
「ほう、中々やるようだ」
剣の飛んできた方角から勇ましい感じの声が聞こえる。
「こっれは~防げるかぁ~……」
それと同時に後方頭上からまたもや声がする、どうやら別人。
二人いる!
「ニャッ!!」
少し間の抜けたような声と共に
後方頭上から俺達を目掛け
大きな岩が飛んできた。
「キャッ!?」
気が付くと俺の後ろではエルフの少女が剣を飛ばしたと思わしき人物に連れ去られる。
しかし岩はもう目前まで迫っていた。
(気をとられた、避けるのはもう間に合わない!)
俺は拳を握り、直径5メートルほどの岩に叩きつける。
ボゴオォォォォンッ!!!
岩は粉々に砕け散り残骸が辺り一面に飛散した。
「フニャッ!?」
それと同時に岩を飛ばした木の上にいる人物の背後に回り、
その人物の両腕を後ろ手に回し拘束した。
「にゃ~!痛いよう~!」
とても痛がっているようには見えないのでその言葉を無視し、エルフの少女を連れ去った人物に話し掛ける。
「こっちも一人拘束した、この子が大事なら少女を返せ」
まぁ、大体正体は掴めているからこんな台詞が通用するんだが。
連れ去ったのも恐らく、飛んできた岩の被害を受けさせないために匿っただけだろうし。
木の陰で様子を伺っていたのであろうその人物が少女の手を引き姿を現す。
「妹よりも大事なものなどこの世にはない、…だが、そいつも大切な友人でな。こちらから仕掛けておいてすまないが、話し合おう。」
エルフの少女に瓜二つだった。
恐らく少女がもう少し成長したら、こんな感じで凛々しく美人になるのだろう。違うのはブロンドの髪をポニーテールにしている事くらいだ。
白い肌、きつい目付きに蒼い瞳、尖った耳。
よく見れば身体つきも違う、未だ発展途中の妹に対し、姉の方は全てが抜群だった。
妹が半熟なら姉は完成品だろう……我ながら何なんだこの例えは。
簡単に言うと、俺の大好きな「くっ殺」系の女騎士だ。
「…ごめんにゃ~」
友人と呼ばれたこの娘は赤色の髪をボブカットにしている可愛らしい女性だった。耳の形は普通なのでただの人間らしい。
丸く大きな瞳、丸っこい顔つき。エルフ姉妹や女神と比べると特別美人というわけではないが、一番愛嬌のある顔。皆から可愛がられる…そんな感じだ。
だが、特筆すべきはその胸。
異世界に来て出会った中で一番大きい。
胸を見たいわけではないがどうしてもその大きさに目がいってしまう。
「降りてきてくれ」
俺は赤髪の娘をお姫様だっこし、飛び降りる。
「んにゃっ?!」
ドォンッ!
「びっ、びっくりしたにゃ…キミ何者なの…」
「いや、君と同じただの人間」
「普通の人間は人を抱えたままあんな高さから飛び降りて無傷じゃいられないにゃ…」
「君は軽いから平気だ」
「にゃ~…女たらしなのかにゃ?お姫様抱っこも初めてされたぁ」
「あ、ごめん、降ろすよ」
「にゃー!居心地良いからもう少ししてていいよう!」
猫語と通常語を織り混ぜながらよく喋る明るそうな娘だった。
「「ごほん!」」
姉妹が同時に咳払いをする、そうだ、第三者同士で話し合っててどうする。
「初めまして、俺はナナ」
「わー!わー!わー!」
急に少女が叫びだす。
「だーかーら!名乗ろうとするな!」
そうだった、元の世界では挨拶の常識だったから癖がどうも抜けきらない。
「うむ、私はリーフレイン。リーフと呼べ」
常識人がいた。いや、この世界では非常識人なんだった。
「……お姉ちゃんはいいのよ、自信家だし…それに能力はエルフ族に伝わる言葉の意味だから」
「?…どーいう事だ?」
「そのままだ。母様が名付けてくれたこの名はエルフ族に伝わる言葉から取ったもの、例えばレインとは一般的には「雨」を意味するがエルフ族の言葉では「光」を意味する。私の主に使う能力もそれに準ずるものだ」
「そこまで言っちゃっていいのかにゃ~…」
「構わん、知られた事で大した不都合もない」
言い切るか、確かに自信家だ。
しかし新たな情報だ。
名前はその種族に伝わる言葉の意味合いで名付けたら、その意味合いの能力も使う事ができるのか。
だとしたら、かなり面倒だな…
それぞれの種族に伝わる言葉の意味を網羅しておかないと能力がわからない事になる。
「ところで貴様は何者だ?ここで妹と何をしている?」
「えーと」
色々と説明が面倒だ、出会いや研究所の事だけ話せばいいだろう。
…だが、説明しようとした時エルフの少女が思いもよらない言葉を発した。
「お姉ちゃん!彼を傷つけないで!この人は……っ!アタシの婚約者なの!」
「えっ」
「にゃあ」
「………………ほう?」
時間が止まる、何を言っているんだこの少女は。
「だって、彼……アタシの名前を知りたいって……それにアタシに名前呼んでほしいって…」
「にゃにゃっ」
にゃにゃっではない。
既に話が通じなさそうな二人に代わり、第三者に説明を求める。
「それは紛う事なきプロポーズの言葉だにゃっ。男が女に名前を聞いて教え、呼んでほしいっていうのは一生を添い遂げたいって意味なんだよぅ?知らなかったのかにゃ?」
あれか?
毎日味噌汁を作ってほしいとかそういうやつか?
だから少女はあんなに取り乱したように怒って家を飛び出したのか。
あ、………それに…ヒュミ。
俺はヒュミと会った時も…同じ事を言った。
名前を教え、名前を教えてほしいと言った。
だからヒュミはあんなに照れていたんだ……。
しかしこのエルフの少女は怒っていた。
怒っていたのに何故婚約した事になっているのか。
あまりにも混乱して訳がわからなくなった俺は
この状況に最もそぐわない言葉を発してしまう。
「いや、その、違う、誤解だ。そもそも俺にはもう愛してる人がいるから…」
「えっ」
「……………ほう?」
「わたしの事かにゃ?」
何でだよ。
リーフの目付きが更に変わる。
言葉を発さなくても殺気だけで殺そうとしているのが伝わってくる…
「…………………いいだろう」
えっ?
姉から早くも御許しを得たのか?
得られても困るのだが。
だが、そんな事はなかった。
「全て体で説明してもらう、死んでも恨みっこなしだ…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
俺は今こんな事してる場合じゃないのに。
研究所と事を構える前に
エルフ最強の騎士と戦う事になってしまった。
洞窟の影から姿を現したのは、七階建てのビルの大きさに相当する巨人。
その姿は普通ではなく、瞳が顔中に散らばり六つ。口は裂け鼻は潰れ機能しているのかはわからない。
髪はその殆どが抜け落ちたのか、所々まばらに生えているだけだった。
身体は筋骨粒々といった感じで至るところに血管が浮き出ている。
ドスン、ドスン。
地響きを立て、こちらに近づいて来ているがまだこちらを視認してはいないようだ。
「…むぐっ!?」
その隙に少女の口を手で押さえ、素早く岩影、巨人の視界の外へ移動する。
「んっ」
「静かに」ぼそっ
丁度少女を後ろから抱き締め密着する形になってしまったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
ドスン、ドスン。
もう俺達の鼻先まで来ている。
これも実験生物なのだろうか?
巨人族ならこの世界にはいるかもしれないが、こんな異形の巨人がわんさかいるとは考えたくはない。
どちらにせよ、無理に戦いたくはない。
この生物はおそらく…被害者なのだから。
「………」
辺りを六つの眼を使い、見回している。
「あれ~おかしいなぁ、罠に反応があったのに…溺死しちゃったかな?」
突然巨人の方から声が聞こえる。
巨人が喋りだしたのかと思ったがそうではなく、よく見ると巨人の首もとあたりにもう1つ熱源がある。
声の主はどうやら巨人の肩に乗っている人物のようだ。
「う~ん、このルートはあんま人は迷い込まないと思ったんだけど…偽装してある入口もそう簡単に破れるもんじゃないしなぁ~」
顔までは見えないが、声からは若い男のような印象を受ける。
もしかしたらこいつが研究所とやらの人間か。
「ま、いいか。旅人やエルフ族ならいつでも殺れるし、帰るよ。『フロラーバ』」
フロラーバ?
巨人の名前か?
ドスンドスンと音を立て、闇へと巨人達は消えていった。
……
辺りには再び静寂が訪れる。
「……」
後を尾けるべきだったろうか。
初めて生身で見る(当たり前だが)巨人に圧倒されてしまった。
パラメーターの力を俺が持っていなかったら失神していたかもしれない。
対人や対獣とはわけが違ったな…
…しかし、どうしたものか。
ここまで予想は当たっていたんだ、これであの巨人と人間がただの散歩でここに来た…なんて事はないはずだ。
研究所の人間かどうかはともかく、森で見た『名獣』とやらに何かしら関わっていると見て間違いないだろう。
だけどこのまま少女を連れて乗り込んで良いものだろうか。
少なくともさっきの台詞からみて友好的にいくとは思えない、戦闘は避けられない。
「……めぇ」
巨人との戦闘、一人ならともかくこの少女を守れるだろうか。
…無傷で守る自信は…なかった。
この少女は間違いなくついてくるだろうしな…
「んー!」
…だが、どうする?
悠長に考えている間に新たな被害者が出ないとも限らない。
だめだ、判断できない。
これが圧倒的な経験不足か…判断力も足りていない。
「んーんーんー!」
あ、口で手を抑えつけて後ろから抱き締めたままだった。
これじゃあ誘拐だ、俺は口から手を離す。
「ぷぁっ、苦しいってば!」
「ごめん」
「……それに、手ぇ、いつまで触ってるのよ」
無意識にもう一方の手は濡れた少女の胸を包んでいた。
「っ!ごめん!わざとじゃない!」バッ!
「………いいけど」
少女は怒ってるような恥ずかしがっているような微妙な表情をして俺から離れる。
「……それで?どうするの?追わないの?」
「……」
「……ごめん、アタシだよね。たぶん足手まといになる、さっきから何も役に立ってないし」
「……そんな事はない」
「……ありがと、でもいいの。巨人を見た時アタシは恐くて動けなかった……アタシね、里を出て初めて一人でこの森の管理を任されたの。エルフはね、修行して成人になると各地の森へ行って神聖な森の命を守るってしきたりがあって…これまではお姉ちゃんと一緒に各地を廻ってたんだけど……この森の噂を聞いて一人でやってみたくて…頼みこんだらお姉ちゃんが一人でやってみろって……弓は一生懸命練習したし…自信あったのに……全然だめだったね、あなたが1日でたどり着いた事にひとつきかかってもたどり着かなかった…ただ右往左往して…全然だめ…」
「……」
「……でもね。アタシはやっぱり見過ごせない、神聖な森でこれ以上犠牲を出したくないから……それにね、あなたなら一人で勝てるのかもしれないけど…やっぱり一人で行かせたくない、…アタシの仕事だからってのもあるけど……もしもの事があったりしてあなたが死んだりしたら…………寝覚めが悪いしね!」
少女は目に少し涙を浮かべる。
「……ごめん、全部アタシのワガママなんだけどさ…」
どの種族にも事情があるんだな。
できる事ならこの少女の力になりたい。
俺が犠牲も出さずに解決できるほどの力があればよかったのに…
しかし現状それができる自信がない、何て情けない話だ。
「だからね、一回アタシの仮住まいまで戻ってほしいんだ」
「……仮住まいまで?」
「あそこなら何か異変があってもすぐここに来れる、だからお願い」
「……わかった」
俺達は洞窟を上にたどり、先ほど落ちた入口まで戻った。
道は一本道で意外とすんなり着いた、きっとどこかには更に下へ続く道があるのだろうが。
今はただ少女の言葉に従い戻る、きっと考えがあるのだろう。
--------------
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「実は…情けない話だけど…結構前にアタシ一人の手には負えないと思って伝書鳩を飛ばしたの…お姉ちゃんに」
「お姉さん?」
「うん、同じ大陸の森にいるからたぶんそろそろ来てくれると思う」
「…お姉さんは、強いのか?」
「物凄く、エルフ族の中でもたぶん一番か二番。あなたの本気はわからないけどさっきのあなたくらいの事はできるのよ」
マジか、あの時のパラメーターは1000。
能力者を悶絶させる5倍の力だぞ、ゴリラみたいなエルフなの?
「けど凄く怖い人だから…アタシの事は大事にしてくれてると思うんだけど…ケンカしないように気をつけて」
気をつけてと言われても。
そんなお姉さんと会って俺にどうしろと言うんだ…
ビュッ!
その時、風を切る音が聞こえた
それと同時に、剣が、俺の顔めがけて、飛んできていた。
正確には音と同時に俺の瞳の前に剣の切っ先がもうそこにあった。
パシッ
俺は剣の切っ先を親指の付け根と掌で挟み、剣を止める。
剣は俺の瞳数ミリ先で動きを制止された。
危なっ!
事前に動体視力のパラメーターを見つけていなければ死んでいた。
この世界、常人が生きていくのに厳しすぎやしないか?
「……っえ?」
それに気づかず数歩先を歩いた少女がようやく事態に気付き、歩みを止める。
「なっなに?!どうし…………あっ…」
少女は俺が抑えた剣を見て顔色を変える。
「この剣……お姉ちゃんの…」
「ほう、中々やるようだ」
剣の飛んできた方角から勇ましい感じの声が聞こえる。
「こっれは~防げるかぁ~……」
それと同時に後方頭上からまたもや声がする、どうやら別人。
二人いる!
「ニャッ!!」
少し間の抜けたような声と共に
後方頭上から俺達を目掛け
大きな岩が飛んできた。
「キャッ!?」
気が付くと俺の後ろではエルフの少女が剣を飛ばしたと思わしき人物に連れ去られる。
しかし岩はもう目前まで迫っていた。
(気をとられた、避けるのはもう間に合わない!)
俺は拳を握り、直径5メートルほどの岩に叩きつける。
ボゴオォォォォンッ!!!
岩は粉々に砕け散り残骸が辺り一面に飛散した。
「フニャッ!?」
それと同時に岩を飛ばした木の上にいる人物の背後に回り、
その人物の両腕を後ろ手に回し拘束した。
「にゃ~!痛いよう~!」
とても痛がっているようには見えないのでその言葉を無視し、エルフの少女を連れ去った人物に話し掛ける。
「こっちも一人拘束した、この子が大事なら少女を返せ」
まぁ、大体正体は掴めているからこんな台詞が通用するんだが。
連れ去ったのも恐らく、飛んできた岩の被害を受けさせないために匿っただけだろうし。
木の陰で様子を伺っていたのであろうその人物が少女の手を引き姿を現す。
「妹よりも大事なものなどこの世にはない、…だが、そいつも大切な友人でな。こちらから仕掛けておいてすまないが、話し合おう。」
エルフの少女に瓜二つだった。
恐らく少女がもう少し成長したら、こんな感じで凛々しく美人になるのだろう。違うのはブロンドの髪をポニーテールにしている事くらいだ。
白い肌、きつい目付きに蒼い瞳、尖った耳。
よく見れば身体つきも違う、未だ発展途中の妹に対し、姉の方は全てが抜群だった。
妹が半熟なら姉は完成品だろう……我ながら何なんだこの例えは。
簡単に言うと、俺の大好きな「くっ殺」系の女騎士だ。
「…ごめんにゃ~」
友人と呼ばれたこの娘は赤色の髪をボブカットにしている可愛らしい女性だった。耳の形は普通なのでただの人間らしい。
丸く大きな瞳、丸っこい顔つき。エルフ姉妹や女神と比べると特別美人というわけではないが、一番愛嬌のある顔。皆から可愛がられる…そんな感じだ。
だが、特筆すべきはその胸。
異世界に来て出会った中で一番大きい。
胸を見たいわけではないがどうしてもその大きさに目がいってしまう。
「降りてきてくれ」
俺は赤髪の娘をお姫様だっこし、飛び降りる。
「んにゃっ?!」
ドォンッ!
「びっ、びっくりしたにゃ…キミ何者なの…」
「いや、君と同じただの人間」
「普通の人間は人を抱えたままあんな高さから飛び降りて無傷じゃいられないにゃ…」
「君は軽いから平気だ」
「にゃ~…女たらしなのかにゃ?お姫様抱っこも初めてされたぁ」
「あ、ごめん、降ろすよ」
「にゃー!居心地良いからもう少ししてていいよう!」
猫語と通常語を織り混ぜながらよく喋る明るそうな娘だった。
「「ごほん!」」
姉妹が同時に咳払いをする、そうだ、第三者同士で話し合っててどうする。
「初めまして、俺はナナ」
「わー!わー!わー!」
急に少女が叫びだす。
「だーかーら!名乗ろうとするな!」
そうだった、元の世界では挨拶の常識だったから癖がどうも抜けきらない。
「うむ、私はリーフレイン。リーフと呼べ」
常識人がいた。いや、この世界では非常識人なんだった。
「……お姉ちゃんはいいのよ、自信家だし…それに能力はエルフ族に伝わる言葉の意味だから」
「?…どーいう事だ?」
「そのままだ。母様が名付けてくれたこの名はエルフ族に伝わる言葉から取ったもの、例えばレインとは一般的には「雨」を意味するがエルフ族の言葉では「光」を意味する。私の主に使う能力もそれに準ずるものだ」
「そこまで言っちゃっていいのかにゃ~…」
「構わん、知られた事で大した不都合もない」
言い切るか、確かに自信家だ。
しかし新たな情報だ。
名前はその種族に伝わる言葉の意味合いで名付けたら、その意味合いの能力も使う事ができるのか。
だとしたら、かなり面倒だな…
それぞれの種族に伝わる言葉の意味を網羅しておかないと能力がわからない事になる。
「ところで貴様は何者だ?ここで妹と何をしている?」
「えーと」
色々と説明が面倒だ、出会いや研究所の事だけ話せばいいだろう。
…だが、説明しようとした時エルフの少女が思いもよらない言葉を発した。
「お姉ちゃん!彼を傷つけないで!この人は……っ!アタシの婚約者なの!」
「えっ」
「にゃあ」
「………………ほう?」
時間が止まる、何を言っているんだこの少女は。
「だって、彼……アタシの名前を知りたいって……それにアタシに名前呼んでほしいって…」
「にゃにゃっ」
にゃにゃっではない。
既に話が通じなさそうな二人に代わり、第三者に説明を求める。
「それは紛う事なきプロポーズの言葉だにゃっ。男が女に名前を聞いて教え、呼んでほしいっていうのは一生を添い遂げたいって意味なんだよぅ?知らなかったのかにゃ?」
あれか?
毎日味噌汁を作ってほしいとかそういうやつか?
だから少女はあんなに取り乱したように怒って家を飛び出したのか。
あ、………それに…ヒュミ。
俺はヒュミと会った時も…同じ事を言った。
名前を教え、名前を教えてほしいと言った。
だからヒュミはあんなに照れていたんだ……。
しかしこのエルフの少女は怒っていた。
怒っていたのに何故婚約した事になっているのか。
あまりにも混乱して訳がわからなくなった俺は
この状況に最もそぐわない言葉を発してしまう。
「いや、その、違う、誤解だ。そもそも俺にはもう愛してる人がいるから…」
「えっ」
「……………ほう?」
「わたしの事かにゃ?」
何でだよ。
リーフの目付きが更に変わる。
言葉を発さなくても殺気だけで殺そうとしているのが伝わってくる…
「…………………いいだろう」
えっ?
姉から早くも御許しを得たのか?
得られても困るのだが。
だが、そんな事はなかった。
「全て体で説明してもらう、死んでも恨みっこなしだ…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
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枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
大和型戦艦、異世界に転移する。
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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