名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録

第十三話  エルフの少女③

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「俺も、その研究所とやらの調査に協力させてくれ」

俺はエルフの少女の目を真っ直ぐ見据え、話す。
少しの静寂に包まれる室内。
俺の目をしっかりと蒼い瞳で見返し、少女は言う。

「………一つ聞かせて。そう思うに至った理由はなに?」

瞳を俺から離さず、怒っているような真剣な顔で質問する少女。
まるで圧迫面接だ、しっかりしているんだなこの子。

「……そうだな、キミを手伝いたくなったから、それじゃあダメ?」
「ふざけないで」

不合格だった。
我ながら、今のは会社面接でも不採用になる答えだと思った。

「………そうだな、じゃあ名前」
「…名前?」
「キミの名前を知りたいし、キミに俺の名を呼んでほしい。それが理由だ」

嘘ではない。
俺はこの世界の名前の在り方についてもっと知りたい。

世界中の皆が、自分の名前とどう向き合っているのかを。
この少女についても。
折角出会ったのに名前すら知らない少女じゃあ悲しすぎるから。

「………」ぷるぷる

見ると少女は顔を真っ赤にして口を真一文字に結び
怒った顔をしながら震えていた。
何か変な事いったのか…とりあえず何か叫びそうだったので身構える。

「ばっかじゃないのっ!!!」キーン

予想は当たった、少女は立ち上がりダンダンと音をたて外へ出ていってしまう。
……失敗したか。
何かマズイ事でも言ってしまったのか…。

仕方ない、一人でもこの森を調査してみよう。

そう思った時、開いた扉から少女が顔を覗かせる。

「何してるの!さっさと行くわよ!」

どーいう事だ?
さっきのはOKの返事だったのか。
わかりづらすぎる。

とりあえず外に出た。

--------------

「まずは、今まで実験体の目撃地点を教えながら探っていくわ」

少女の機嫌は治ったようで二人は森を歩き地図を見ながら辺りを散策する。

「今まで確認した6種は全てバラバラの場所で目撃されたの。森の奥にはミューデル山脈っていう山の連なりがあって、それを覆うようにこの森林地帯があるんだけど…」
「森の面積は約7㎞2。それぞれ20km以上離れた地点で見つかってるから共通性の足取りも全く予測できないのよ」

そんなに広かったのかこの森は。
前の世界で言うと下手すると県自体が丸々飲み込まれるくらいあるぞ。
しかし独自の文化を築き上げてきた世界のはずなのに、言葉とか単位とかは前の世界と一緒なんだな、助かるけど。
俺は地図を覗き込むため、顔を少し少女に近づける。

「なっ?何!?近いわよっ!」

近いだけで怒らなくても。
目撃地点に印のついた地図を見る。
確かに東西南北、見つかった場所はばらばらのようだった。
一つの山を中心に見据えるとしてその周りを囲むように印がつけられている。

印は全部で14個。
6種って言ってるから同じ種類の生態もそれぞれ別の場所で見つかったって事になる。

「山の向こうにまで森があるのか…」
「そ、そうよ。森を迂回した方が早いと思うけどそれでも調査しに向こう行くのに2日かかったんだから」

……待てよ。

「なぁ、この近くに町はあるのか?」
「え?まぁ…近くはないけどあるわよ。森の入口から南西に20キロくらいにあるのが一番近いかしら…」
「…かつて昔にもっと近くに町があったって記録は?」
「うーん、確か山脈の麓に大昔に町があったって聞いた事あったと思うけど…」

……気になるのは何故ここを廃棄場所に選んだのか。

そして、どうやって実験生物を運搬しているのか。
考えられるのは……そういった能力をもった人間がいるって可能性。
確かにそれなら人目につかないこの場所を選ぶ理由もあるな…
しかし、廃棄した場所がバラバラなのが気になる。

例え動物が何かを求めて移動したとしても
同一種までがこんなに違う行動範囲で動くものなのか?

山を一つ越えてまで?
噂が立ち始めたのが約一月前って言ってたな……

「…ちょっと確かめたい場所があるんだがついてきてくれるか?」
「え?……う、うん」

確信があるわけではないが、一つの可能性がある場所を確認してみることにした。

--------------
----------


「……ここ?」
「ああ」

それは通りやすい整備された土の道を通ってたどり着いた森林の最奥、そそり立つ山の崖肌。

整備されたような土の道や地平の森林は途切れ、そこからは登頂不可能な程の崖の上に木々だけが少し続いている。

「こんなところに何かあるの?」
「まぁ、確証はないけど」ガサガサ

俺は辺り一面に生えている草をかき分け何かを探す。

「……あった」

そこにあったのは何の用途に使われたのかはわからないが土器のようなものの破片。

「何なのそれ?」
「さぁ?別に何でもいいんだけど」
「……?」

俺は崖に近づき、スキルを起動する。

New skill

【蛇の特性】【熊の特性】

実は前もって確認はしていたスキル。
どうやら学名のある動物に関してはその肉を口にする事によりその特性を得る事ができるみたいだ。
俺は先ほど口にした熊蛇肉で熊と蛇の学名の力を手にしていたのだ。

【蛇の特性】ピット器官

蛇は温度をサーモグラフのように第六感で感じる事ができるらしい。
その蛇の特性に合わせ、人間である俺の特性も発動する。

【人間の特性】

これもスキル画面で新たに発見したものだ。

体力や腕力とは別に
視覚聴覚嗅覚などの別項目が羅列されている。
これに【管理者(神)の力】を使用する。
すると、【人間の特性】の羅列項目に数値が表示された。

「あとは…」

視覚の数値を上昇させる。
すると赤青緑橙黄と数値の表示で温度の違いを視覚できるようになった。

「…どうしたの?」

少女の方を向く。
少女は現在体温が36.2度、少し顔の辺りが赤く表示されている。
外気温13.5度の青色表示にしては少女の体温は高いようだ。

こんな感じで視覚に全て表示されているのだ。

「…成功した」

俺は聴覚と嗅覚の数値もあげ、崖を見る。

「……予想通りだ」

崖の中には空洞があった。

「少し下がってくれ」
「え…?うん…」

俺は獣と対峙した時の要領で
崖を殴りつける。

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォンッッッ…!!

ガラガラガラガラガラガラガラッッッッ!!

ドドドドドドドドッッッッ…………

殴りつけた部分は広範囲に崩れ落ち
そこにはポッカリと穴が開いた。
穴は闇を放ち遥か奥の方まで続いている。
力加減を間違えて山を吹きとばさなくてよかったと安堵する。

「…」ぽかーん

俺は放心している少女に声をかける。

「ほら、行こう」

俺達は洞窟になった穴へと足を踏み入れる。

--------------


「ね、ねぇ…どうしてこんな場所が…空洞があるってわかったの?」

その殆どが能力を使ったものなのだが…説明が面倒だな…。

「さっき歩いてきた土の整備された道が気になってさ。あれはたぶんここに町か集落があった時の名残だと思ったんだ」
俺は能力の部分を省いて簡潔に説明する。

「山の麓に町を造る理由なんて限られてる、恐らくここには炭鉱があって採掘資源を運搬するコスト削減で集落か何かを造ったんだろう。だからさっきは生活の名残があったかどうかを調べてたんだ」

「…で、でもそれと研究所の話は何か関係があるの?」

「まぁそれはこの先を探ってみないと何とも言えないんだけど…あまりにも獣の生息分布図が離れすぎてる気がしてさ、まぁそれは良いんだけど…あの生物を廃棄するのに正直まともに運搬するにはそういう能力を使うしかないと考えてみたんだ。しかし、町から離れすぎているこの場所を選ぶ理由がよくわからない、人目につかないとはいえコストが悪すぎるような気がする。自分がその悪人になったとして考えてみたら、別に森じゃなくても途中の平原や正直街の近くに放したって構わない、どちらにせよ犠牲者が挙がっている時点で。生活圏だって下水道とか人目につかない場所はあるだろうし」

「…それもそうね…」
「だから逆に考えてみたんだ、ここに廃棄しに来たんじゃなく……この地下に研究施設が何かがあるんじゃないかって」
「!!」
「まぁ目撃情報や噂がたった時点で廃棄した数ある研究所の中の一つだと思ってるんだけど…入口が数ヶ所あればそこから廃棄された生物が出ていき、生息地が分布されている説明もつくし…まぁ、あくまで推理っていうか予想だけど。」

「………」ザッ
「?」

歩いていた少女は急に立ち止まり、うつむきながら上目遣いでじーっとこちらを見ている。

「……どうした?」
「……………かみさまみたい」ぼそっ
「神様?」
「………なんでもなっ、きゃっ!」ガッ

急に動きだそうとした為、少女は石につまずきこちらへ飛び込んできた、俺は慌てず受け止める。

「っと、大丈夫か?気をつけろよ」
「……う、うん。ありがと…」ドキドキ
「だんだん光も無くなってきたな…松明みたいなものも無さそうだし……」

俺は蛇の力があったので暗闇でも関係ないのだが、少女にはこの先は厳しそうだった。

「危なそうだし、こっから先は俺一人で行くよ。キミは外で待っててくれ」

そう言うと少女は切なそうな顔になり、抱きついた姿勢のまま…近づいた顔を更に俺の顔に近づけ声を荒げた。

「やっやだっ!一緒に行くっ!」

唇が触れ合いそうな程の距離で懇願する少女。
少女からは花のようないい香りがする。
それに気がついたのか少女は赤面しながら慌てて体自体を俺から離した。

「………だっ!だって!これはアタシの仕事だしっ!?あなただけ危ない目に合わせるわけにいかないもんっ!」

……なるほど、それならしょうがない。
しかし、光源がない、どうしたものか。

「……だ、だから…」すっ

少女は他所を見ながら俺の方に手を伸ばす。

「うん?」
「て……手ぇつないでって言ってるの!気付きなさいよ!」

あ、そういう事か。

「ごめんごめん、ほら」ぎゅっ
「……あ、ありがと」ドキドキ

ガコン!

「「!?」」

その瞬間、機械音のようなものがなり
足下の地面が突如消失する。
コンマ数秒浮遊していた俺達も重力に逆らえず
奈落の闇へと落下する。

「きゃっ…んぐっ」

俺は先ほどと全く同じ形で少女を抱き抱え、自分の背中を下にして落下に備える。

ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ………

--------------
---------
……

………

ザバァァァァァァァァン!!

落下した先は、水だった。
かなり深い…地底湖ってやつか。

「…っ!ごぼっ!」

突然の出来事に対応できなかった少女はパニックになり腕の中で暴れだす。

(……っ!落ち着けってっ!)ごぼこぼ…

そんなに深くまでは深水していないが、少女を水の中で制するのに必死で中々上がれない。

(…っ!)ごぼこぼ

パラメーターの項目値をいじっている暇もない。

(……っ!仕方ない!)

俺は暴れる少女を抱き締めたまま…
彼女にキスをする。
落ち着かせるためでもあるが、目的は彼女に空気を送る事。
逆に水が入り危険かもしれないが、多少慌てた俺もこれ以外思いつかなかった。

「!?」

水が入らないように唇を押し付け、唇を使って少女の口を開ける。

「!!……………っ」

一瞬ビクッと震えた少女ではあったが、効を奏したようで身体の中でおとなしくなる。
その隙に蛇の視界を使い水上へと浮上する、彼女と口を通じて空気を送り合ったまま。

ゴボゴボゴボッ………

------
-----------
…………………

ザバァァッッ!

「「ぷはぁっ!!」」

浮上した先は地底湖のど真ん中だった。
かなり広い洞窟で地底湖もドーム二つ分くらいはある。

「はあっ…はあっ……」

少女の口と俺の口は雫を伝う糸で繋がり、それが唾液なのか水滴なのかわからない。
とりあえず無事なようだ。
蛇の目で遠くに岸を見つけた俺は彼女を抱き抱えたまま泳ぐ。
彼女は意識はあるようだが、泳いでいる間は一言も喋らなかった。

--------

「……はぁっ、はぁっ…」

岸に上がった俺達はとりあえず一息つくために岩の地面に腰を下ろす、少女はまだ少し苦しそうだ。
少女の呼吸が落ち着くまで待つ事にした俺は辺りを見回す。
罠のようなものから落下した割には辺りは静寂に包まれた普通の洞窟のようだった。
熱源のようなものもとりあえずは見当たらない。

しかしあれは明らかに人工的な罠だった、鉱山時代の名残ってわけでもないだろう。
ここに何かがある事は間違いない。

(…落ち着いたら辺りを探索してみよう)

「…………」
気がつけば少女の呼吸は落ち着いていた。

「…大丈夫か?」
「………」
「…すまない、落ち着かせるためにはああするしかないと思ったんだ」
「………」
「……だから、その。あれは人工呼吸のようなものでキスってわけじゃないから…」
「………」
「…えーと…」

少女は喋らない、指を口にあてて座りうつむいている。
濡れたその姿は少女のわりにかなり扇情的で艶やかで
こんな状況ではあるが、少しいつもとのギャップにドキッとする。

「……」
「……」

体感的は永遠に思えたが、時間にしておよそ一分、静寂を置いた後彼女から口を開いた。
その一言は俺を湖に落ちた時より動揺させた。

「………ねぇ、もう一回……してよ」
「……え?」
「だから……その、キス……さっきのはキスじゃないんでしょ…………だから、今度は…ちゃんと…してよ…」

何故?
その理屈はよくわからなかった。
女心とはそういうものなのだろうか。

「………」

しかし、こんな美少女にしてと言われてしないやつはいない。
断言する。
女神という愛しい存在がいる俺だが。
これは能力を増やすため、
……とどう偽っても言い訳にしかならないから言わない。

正直に言おう。
それは能力を増やす目的のためではなかった。

「……」ガッ
「……っ」

少女の肩を掴み、見つめる。
それに耐えられなかったのか、少女は顔をそらす。

数秒間、そうしていた彼女だったが覚悟を決めたのか俺の方を向き目を瞑り結んでいた濡れたピンク色の唇をほんの少し開けた。

……ドスン…

唇を重ね合わせようとしたその時、遠くから微かに振動音のようなものが聞こえた気がした。

…ドスン…ドスン…

気のせいではない、徐々に音はこちらに近づいてくる。

ドスン、ドスン、ドスン!

振動が体に伝わり、震えた。
彼女もそれに気づいたのか音とする方を向く。

岩肌の壁の向こう側からそれが姿を現した。
壁の向こうから伝わってきた熱源でその大きさを感知していた俺だったが、それでも驚く。

それは、高く…20メートルはあるだろう洞窟の天井に頭がつきそうな程の巨人。
ただの巨人ではない、目が…1つ…2つ…3つ………6つ。

六目の巨人が現れた。











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