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第二章 命名研究機関との戦い
第三十七話 名無しの権兵衛vs暗殺ギルド頭領
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「佰仟!殺!!」
佰仟からスマホで連絡を受けた俺達は竜に乗り、急ぎ二人の元へ駆けつけた。
「な、何があったなのなの…ナナシったら説明もせずに引っ張ってくるんだもの…」
殺の傷は酷かった、あちこちに火傷の痕があり両腕はなくなっている。
かろうじて意識を保っているような感じだった。
「出血量と時間を操作してかろうじてこの状態だ、頼む」
「ああ!」
【氷の造花】
--------------
「……助かったであります」
「…よかった…本当にすまない…」
俺は殺に謝る。
「……何故貴方が謝るでありますか…」
「…俺が皆を巻き込んでるからさ…それに俺がここにいればこんなケガを負わなくてすんだかもしれないだろ」
「……」
「しかし、人身売買に研究所の人間が絡んでいるとはな。まぁ不思議な事ではないが、これで証拠探しは一歩前進か」
「まだまだわからないわよ、見たのもナナシだけだし…アジトに研究所の人間がいたってだけだしね。物証にはならないわ」
「それに…何故閃光騎士と王国の護衛騎士だけを連れ去ったのかも気にかかるな…」
「……」
「まぁここで考えていても仕方あるまい、どうする?町にいくのか?」
「…そうね、あたくしも行くわ。人魚達の事も気になるし……サイの居場所もはっきりさせないといけないしね」
「……あぁ、アイ達と合流しよう」
バサァッ…
バサッ…バサッ…
「……」
飛び去った竜を地から見つめる視線が一つ…
--------------
----------
-------
<港町シー・クレット>
陽も昇り時刻は朝10時(スマホ時間)
海を一望できるその町は行商人や卸売業者で賑わう。
港には大型の船が立ち並び、船首の見おろす先には倉庫の様な建物の羅列。中には貿易や競りに使う色々な物が眠っているのだろう。
港から少し離れると宿や海の名産品などを扱う露店、多くの酒場や飲食店からの活気があった。
そんなに大きくはない町だが、冒険者や旅人なども集っているようだ。
風に乗る潮の香りがその賑わいを盛り立てる良いスパイスになっている。
「ナナシっ!!」
事前に皆にはメール(のようなもの)で事情を知らせていた。
心配と不安からかアイは俺に抱きつく。
「……お姉ちゃん……大丈夫かな…」
「……ごめん…俺が一緒にいながら…」
「………ぅうん、あんたのせいじゃない…」
抱きあう俺達をよそに、佰仟、古心、エレ、ルールは会話する。
殺だけが何故かこちらを見つめていた。
「……」
「人魚達は?」
「皆宿で待ってるよ、元々ここに宿をとってたんだって」
「皆が二部屋私達に貸してくれるって言ってたにゃ!それくらいしか御礼できないけどって」
「ならばさっさと宿へ行くぞ」
「ナナシ、行くいくわよ」
「……あぁ」
「……」
アイはまだ不安そうなままだ。
そこに意外な人物が声をかける。
「……閃光騎士なら問題ないであります」
「!……アンタに何がわかるのよ…」
「おい、殺……」
「私にもわかるくらいであります、それくらい妹の貴女にはわかるものだと思ったのでありますが」
「!!………………」
「むしろこれは幸運であります、内部から閃光騎士が研究所を探って私達に報をくれれば動き易くなるであります」
「……………」
「違うでありますか?」
「……ふん!わかってるわよ、そのくらい勿論!お姉ちゃんが負けるわけないんだから!ほら、行くわよ!!」
アイはいつも通りの強気で宿へ向かっていった。
「……ありがとう、殺。励ましてくれたんだな」
「………」
殺は何も言わずアイの後に続いて行った。
何か睨まれたような……何かしたかな俺……
--------------
<宿>
「集まったにゃ、それで…これからどうするの?」
ガチャ…
「あのぅ…うちも参加していいでございましょうか…」
別室にいた人魚さんが部屋に入ってくる。
一応、誘拐被害を受けた面々は別室で休養していたのだった。
「別に構わないけど…どうしたんだ?」
「失礼しますでございます…」
質問には答えず、しかももう既に椅子に座っていたが一応人魚さんは挨拶をする。
「あ…果実のお酒を頂けますでございますか?」
「あ、はいにゃ」
「ありがとうございます…よければつまむ物を作って頂けますでございますか…?」
「オッサンかにゃ?しかも私が作るのかよぅ」
「あ、あと…」
「貴女、おどおどしてるけどけど図々しいわね」
「じゃあ俺が厨房借りて何か作ってくるよ」
「ちょっと!そんな事男のする事じゃないわよ!それに人魚さん!今から話し合いなの!邪魔するなら出てって!」
「ご…ごめんなさいでごさいます…」しゅん…
「ま、まあまあアイっち。人魚さんはあの事話しにきたんでしょ?」
「あの事?」
「はい……実はずっと気になってる事があるのでございます…」
「なんか気になって人魚さんの心読んだんすよ、それで少し話したんすけど…」
「あまり確証のない事でございますので…話半分に聞いて頂けたらでございます…」
--------------
----------
-------
◇
「……一体どこなのだ、ここは…」
「どうやら何者かに罠にかけられた様ですね」
リーフとサイは血と鉄の臭いがする牢獄のような場所に監禁されていた。
「全く気づかれずにか…私ならともかく、旦那様にまで…」
「しかしどうやら罠にかけられたのは私達だけのようですね、他に人のいる気配はしません」
「そうか、貴様の能力は……………とにかく脱出しよう」
「しかし鉄格子が…鍵もかけられているようです」
「容易い」
スパッ
剣を構え…一閃、鉄の格子は真っ二つになる。
(監禁しているというのに持ち物はそのままだ…何故…)
シュルルルルルルルルルルル……
「!!」
真っ二つになった鉄格子は瞬時に再生を始める。
「な、何なんだこれは」
スパッ
スパッ
シュルルルル……
「……無駄のようですね、斬ったさきから瞬時に再生を始めてしまいます」
「……誰かの能力か、だから持ち物もそのままなのだな……持ち物……そうだ」
リーフは懐からスマホを取り出した。
「?…何ですかそれは?」
「説明が難しいな……よくわからんが、外部と連絡を取れる機械だ」
「……エルフが機械を使うとは……それよりよくわからないものを操作できるのですか?」
「わからん、できん」
「…では何故閃いたように取り出したのですか…少し貸してみてください」
ピッ
ピピッ
ピッ
バキッ
「あ……」
「あ」
スマホは薄く真っ二つになってしまった。
「す、すみません…未知の機械すぎて何が何だか…壊れてしまったのでしょうか…」
「仕方ない、私にもさっぱりだからな。機械に頼るのは無しだ」
「恐ろしく前向きですね…しかし、これからどうすれば…」
コッ…
コッ…
コッ…
「……静かに、誰かくる」
コッ…
コッ…
「やぁ、おにーさんにおねーさん、こんにちは」
鉄格子をはさみ、リーフ達の目前に現れたのは一人の少年。
そしてすぐ後ろにはフードを目深に被る背の高い人物がいた。
「……子供…?貴様達が誘拐犯か?………いや、その顔はどこかで……」
「僕?僕はブリッジ、隠してないから言っちゃうけど『命名研究機関』の研究員だよ」
「!何だと?」
「あなたがエルフ最強の騎士さんだよね、所長が欲しがってたから知ってるよ。人魚さん達の誘拐は失敗しちゃったけど…これで所長のご機嫌取りも何とかなるかな?」
「ブリッジ、あまり喋るでない」
後ろの男が饒舌な子供の話を制する。
「はいはい、まぁ無駄話をしにきたんじゃないしね」
そう言って少年は格子の鍵を開ける。
「あ、下手な事しない方がいーよ?僕の後ろの人、凄く強いから、それに君達の大事な人を殺されたくないでしょ?」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ、まぁ状況もよくわからないまま下手に暴れたら戦局が良くなる事はないよって意味かな?」
「………」
リーフは抜こうとしていた剣をおさめる。
少年の言う通り、今はそんな事をしても無駄だと悟った。
ハッタリであろうと何だろうと、確証はない。
ならば今ここで暴れるのは得策ではないと判断する。
「そうそう、じゃあおにーさん一緒に来てもらおうかな」
「……私ですか」
「待て、何をするつもりだ!」
「安心してよ、すぐ殺したりしないからさ。とりあえずおにーさんから話したいだけ、順番だよ」
「信じられると思うのか?」
今度こそ剣を抜こうとするリーフ。
「よしておけ」
チャキン
「!」
また、剣は鞘におさまる。
しかし今度はリーフの意志ではなかった。
剣は意志とは関係なく、鞘に戻されたのだ。
(…何だ?今…私は一体…)
「リーフ、今はおとなしく言う通りにしましょう」
「まぁおとなしく待っててよ、おにーさん返したら次はおねーさん呼ぶからさ」
ガチャン!
そうしてサイは闇に消え、やがてまた辺りは静寂に包まれる。
リーフは何もできず、牢獄で待つ他なかった。
--------------
----------
-------
◇
<宿の一室、男部屋>
「………」
時刻は夕暮れ、結局話し合いは今の今まで続いていた。
しかし、リーフ達を見つける決定打策が見つからず町での情報収集が交代で開始されていた。
「……女神待ちか…」
俺は俺の思いつく一番有効な手段を講じていたが、それも結局は女神に頼るものだった。
女神は二つ返事で引き受けてくれたが、どれくらい時間がかかるかわからない。
「くそっ……!」
不安は募る、いくらリーフが強いとはいえ研究所が絡んでいるとなると話は別だ。
自然とイライラしてしまう。
人魚さん達が貸してくれた宿の二部屋。
男部屋と女部屋に分けたのだが、こんな俺の状態を察してか佰仟は率先して情報収集をやってくれていた。
俺に休みを促して。
「……情けない……気を使わせて……待ってるしかできないなんて……何がやがて神を越えるだ、全然駄目じゃないか…」
何か打開策はないか。
俺のできるだけのスキルを使って…
ガチャ
その時、部屋の扉が開く。
佰仟が戻ってきたのかと思い、茶でも淹れようかと思った時
ビュッ
文字が飛んできた。
それは見覚えのある技、そして文字。
油断はしていたが、パラメーターを高く固定していた為
瞬時にそれを俺は避ける。
空を切ったインクはそのまま飛び、その先にあった壁に文字を作り出す。
壁は殺され、音を立て崩れ落ちた。
ガラガラガラ……
【氷の造花】
ピキピキピキ…
騒ぎになるのを避ける為、すぐに壁を再生した。
「流石でありますね、完全に油断していると思ったでありますが」
「…………………………何を……してるんだ…」
俺はその文字の名前の持ち主に問う。
「勿論、貴方を殺すであります。ナナシ、覚悟するであります」
それは決意を目に宿したような、忌み名の少女【殺】
【名無しの権兵衛】vs【忌み名の殺】
宿の一室での攻防が始まった。
佰仟からスマホで連絡を受けた俺達は竜に乗り、急ぎ二人の元へ駆けつけた。
「な、何があったなのなの…ナナシったら説明もせずに引っ張ってくるんだもの…」
殺の傷は酷かった、あちこちに火傷の痕があり両腕はなくなっている。
かろうじて意識を保っているような感じだった。
「出血量と時間を操作してかろうじてこの状態だ、頼む」
「ああ!」
【氷の造花】
--------------
「……助かったであります」
「…よかった…本当にすまない…」
俺は殺に謝る。
「……何故貴方が謝るでありますか…」
「…俺が皆を巻き込んでるからさ…それに俺がここにいればこんなケガを負わなくてすんだかもしれないだろ」
「……」
「しかし、人身売買に研究所の人間が絡んでいるとはな。まぁ不思議な事ではないが、これで証拠探しは一歩前進か」
「まだまだわからないわよ、見たのもナナシだけだし…アジトに研究所の人間がいたってだけだしね。物証にはならないわ」
「それに…何故閃光騎士と王国の護衛騎士だけを連れ去ったのかも気にかかるな…」
「……」
「まぁここで考えていても仕方あるまい、どうする?町にいくのか?」
「…そうね、あたくしも行くわ。人魚達の事も気になるし……サイの居場所もはっきりさせないといけないしね」
「……あぁ、アイ達と合流しよう」
バサァッ…
バサッ…バサッ…
「……」
飛び去った竜を地から見つめる視線が一つ…
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<港町シー・クレット>
陽も昇り時刻は朝10時(スマホ時間)
海を一望できるその町は行商人や卸売業者で賑わう。
港には大型の船が立ち並び、船首の見おろす先には倉庫の様な建物の羅列。中には貿易や競りに使う色々な物が眠っているのだろう。
港から少し離れると宿や海の名産品などを扱う露店、多くの酒場や飲食店からの活気があった。
そんなに大きくはない町だが、冒険者や旅人なども集っているようだ。
風に乗る潮の香りがその賑わいを盛り立てる良いスパイスになっている。
「ナナシっ!!」
事前に皆にはメール(のようなもの)で事情を知らせていた。
心配と不安からかアイは俺に抱きつく。
「……お姉ちゃん……大丈夫かな…」
「……ごめん…俺が一緒にいながら…」
「………ぅうん、あんたのせいじゃない…」
抱きあう俺達をよそに、佰仟、古心、エレ、ルールは会話する。
殺だけが何故かこちらを見つめていた。
「……」
「人魚達は?」
「皆宿で待ってるよ、元々ここに宿をとってたんだって」
「皆が二部屋私達に貸してくれるって言ってたにゃ!それくらいしか御礼できないけどって」
「ならばさっさと宿へ行くぞ」
「ナナシ、行くいくわよ」
「……あぁ」
「……」
アイはまだ不安そうなままだ。
そこに意外な人物が声をかける。
「……閃光騎士なら問題ないであります」
「!……アンタに何がわかるのよ…」
「おい、殺……」
「私にもわかるくらいであります、それくらい妹の貴女にはわかるものだと思ったのでありますが」
「!!………………」
「むしろこれは幸運であります、内部から閃光騎士が研究所を探って私達に報をくれれば動き易くなるであります」
「……………」
「違うでありますか?」
「……ふん!わかってるわよ、そのくらい勿論!お姉ちゃんが負けるわけないんだから!ほら、行くわよ!!」
アイはいつも通りの強気で宿へ向かっていった。
「……ありがとう、殺。励ましてくれたんだな」
「………」
殺は何も言わずアイの後に続いて行った。
何か睨まれたような……何かしたかな俺……
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<宿>
「集まったにゃ、それで…これからどうするの?」
ガチャ…
「あのぅ…うちも参加していいでございましょうか…」
別室にいた人魚さんが部屋に入ってくる。
一応、誘拐被害を受けた面々は別室で休養していたのだった。
「別に構わないけど…どうしたんだ?」
「失礼しますでございます…」
質問には答えず、しかももう既に椅子に座っていたが一応人魚さんは挨拶をする。
「あ…果実のお酒を頂けますでございますか?」
「あ、はいにゃ」
「ありがとうございます…よければつまむ物を作って頂けますでございますか…?」
「オッサンかにゃ?しかも私が作るのかよぅ」
「あ、あと…」
「貴女、おどおどしてるけどけど図々しいわね」
「じゃあ俺が厨房借りて何か作ってくるよ」
「ちょっと!そんな事男のする事じゃないわよ!それに人魚さん!今から話し合いなの!邪魔するなら出てって!」
「ご…ごめんなさいでごさいます…」しゅん…
「ま、まあまあアイっち。人魚さんはあの事話しにきたんでしょ?」
「あの事?」
「はい……実はずっと気になってる事があるのでございます…」
「なんか気になって人魚さんの心読んだんすよ、それで少し話したんすけど…」
「あまり確証のない事でございますので…話半分に聞いて頂けたらでございます…」
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「……一体どこなのだ、ここは…」
「どうやら何者かに罠にかけられた様ですね」
リーフとサイは血と鉄の臭いがする牢獄のような場所に監禁されていた。
「全く気づかれずにか…私ならともかく、旦那様にまで…」
「しかしどうやら罠にかけられたのは私達だけのようですね、他に人のいる気配はしません」
「そうか、貴様の能力は……………とにかく脱出しよう」
「しかし鉄格子が…鍵もかけられているようです」
「容易い」
スパッ
剣を構え…一閃、鉄の格子は真っ二つになる。
(監禁しているというのに持ち物はそのままだ…何故…)
シュルルルルルルルルルルル……
「!!」
真っ二つになった鉄格子は瞬時に再生を始める。
「な、何なんだこれは」
スパッ
スパッ
シュルルルル……
「……無駄のようですね、斬ったさきから瞬時に再生を始めてしまいます」
「……誰かの能力か、だから持ち物もそのままなのだな……持ち物……そうだ」
リーフは懐からスマホを取り出した。
「?…何ですかそれは?」
「説明が難しいな……よくわからんが、外部と連絡を取れる機械だ」
「……エルフが機械を使うとは……それよりよくわからないものを操作できるのですか?」
「わからん、できん」
「…では何故閃いたように取り出したのですか…少し貸してみてください」
ピッ
ピピッ
ピッ
バキッ
「あ……」
「あ」
スマホは薄く真っ二つになってしまった。
「す、すみません…未知の機械すぎて何が何だか…壊れてしまったのでしょうか…」
「仕方ない、私にもさっぱりだからな。機械に頼るのは無しだ」
「恐ろしく前向きですね…しかし、これからどうすれば…」
コッ…
コッ…
コッ…
「……静かに、誰かくる」
コッ…
コッ…
「やぁ、おにーさんにおねーさん、こんにちは」
鉄格子をはさみ、リーフ達の目前に現れたのは一人の少年。
そしてすぐ後ろにはフードを目深に被る背の高い人物がいた。
「……子供…?貴様達が誘拐犯か?………いや、その顔はどこかで……」
「僕?僕はブリッジ、隠してないから言っちゃうけど『命名研究機関』の研究員だよ」
「!何だと?」
「あなたがエルフ最強の騎士さんだよね、所長が欲しがってたから知ってるよ。人魚さん達の誘拐は失敗しちゃったけど…これで所長のご機嫌取りも何とかなるかな?」
「ブリッジ、あまり喋るでない」
後ろの男が饒舌な子供の話を制する。
「はいはい、まぁ無駄話をしにきたんじゃないしね」
そう言って少年は格子の鍵を開ける。
「あ、下手な事しない方がいーよ?僕の後ろの人、凄く強いから、それに君達の大事な人を殺されたくないでしょ?」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ、まぁ状況もよくわからないまま下手に暴れたら戦局が良くなる事はないよって意味かな?」
「………」
リーフは抜こうとしていた剣をおさめる。
少年の言う通り、今はそんな事をしても無駄だと悟った。
ハッタリであろうと何だろうと、確証はない。
ならば今ここで暴れるのは得策ではないと判断する。
「そうそう、じゃあおにーさん一緒に来てもらおうかな」
「……私ですか」
「待て、何をするつもりだ!」
「安心してよ、すぐ殺したりしないからさ。とりあえずおにーさんから話したいだけ、順番だよ」
「信じられると思うのか?」
今度こそ剣を抜こうとするリーフ。
「よしておけ」
チャキン
「!」
また、剣は鞘におさまる。
しかし今度はリーフの意志ではなかった。
剣は意志とは関係なく、鞘に戻されたのだ。
(…何だ?今…私は一体…)
「リーフ、今はおとなしく言う通りにしましょう」
「まぁおとなしく待っててよ、おにーさん返したら次はおねーさん呼ぶからさ」
ガチャン!
そうしてサイは闇に消え、やがてまた辺りは静寂に包まれる。
リーフは何もできず、牢獄で待つ他なかった。
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<宿の一室、男部屋>
「………」
時刻は夕暮れ、結局話し合いは今の今まで続いていた。
しかし、リーフ達を見つける決定打策が見つからず町での情報収集が交代で開始されていた。
「……女神待ちか…」
俺は俺の思いつく一番有効な手段を講じていたが、それも結局は女神に頼るものだった。
女神は二つ返事で引き受けてくれたが、どれくらい時間がかかるかわからない。
「くそっ……!」
不安は募る、いくらリーフが強いとはいえ研究所が絡んでいるとなると話は別だ。
自然とイライラしてしまう。
人魚さん達が貸してくれた宿の二部屋。
男部屋と女部屋に分けたのだが、こんな俺の状態を察してか佰仟は率先して情報収集をやってくれていた。
俺に休みを促して。
「……情けない……気を使わせて……待ってるしかできないなんて……何がやがて神を越えるだ、全然駄目じゃないか…」
何か打開策はないか。
俺のできるだけのスキルを使って…
ガチャ
その時、部屋の扉が開く。
佰仟が戻ってきたのかと思い、茶でも淹れようかと思った時
ビュッ
文字が飛んできた。
それは見覚えのある技、そして文字。
油断はしていたが、パラメーターを高く固定していた為
瞬時にそれを俺は避ける。
空を切ったインクはそのまま飛び、その先にあった壁に文字を作り出す。
壁は殺され、音を立て崩れ落ちた。
ガラガラガラ……
【氷の造花】
ピキピキピキ…
騒ぎになるのを避ける為、すぐに壁を再生した。
「流石でありますね、完全に油断していると思ったでありますが」
「…………………………何を……してるんだ…」
俺はその文字の名前の持ち主に問う。
「勿論、貴方を殺すであります。ナナシ、覚悟するであります」
それは決意を目に宿したような、忌み名の少女【殺】
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