名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

文字の大きさ
61 / 72
第二章 命名研究機関との戦い

第五十七話 昔話①

しおりを挟む



「名前が……ない?」

俺の名前はロヴ、ある国の王国研究員。
研究調査の一貫で広大な森に来ていた所……護衛の兵士とはぐれてしまい森の野獣に襲われかけていたところを助けられた。
俺を助けてくれた少女はどうやらエルフ族。
綺麗なブロンドの髪をなびかせるその立ち姿は凛としていて、余所の種族に排他意識を持つと言われているエルフ族のイメージには良い意味で合致していた。
見た目は少女にしか見えないがとても大人びていて、今年二十になる俺よりも歳上のようにも感じる。

少女は第一印象から少し変わっていた。

というのもこの世界で「貴女は?」などと訪ねた時に、名前を教えてほしいという意味合いはない。
それを教えられない事など常識だし、こちらも名乗ってほしいわけではない。

しかし彼女は真っ先に…名乗ってはいないが名前の事を意識した。
助けてもらって何だがエルフというのはそこまで変わり者なのか、と失礼な事を思ってしまう。

それが初めて出会ったエルフという種族における印象となった。

「立てる?」
「あ……あぁ」

彼女は名前の事についてこれ以上話す気はないようで、尻餅をついた俺に手を差し伸べる。

「私は少し前からこの森の管理を任された者。貴方はどうしてこの森に来たの?冒険家?」
「い…いや、俺はルブラネイル王国の研究員だ。この森には地質や生態調査に来たんだ?」
「一人で?」
「いや……護衛の兵士とははぐれてしまって…」
「……そう」

そう言って彼女は俺を通りすぎ歩いていく。

「……どうしたの?ついてきて」

茫然としてる俺に彼女は言った、どういう事だろうか?
案内でもしてくれるっていうことか?
初めて会うエルフ族に普通であれば警戒し、罠の可能性を考えるのだろうが…俺は自然に彼女についていく。
変わり者であるという印象と共に、どこか不思議な魅力を感じていたのは確かだった。

--------------

「さっき冒険家って言ってたけど…それで森の管理を任されてるってのは……どういう事なんだ?」

俺は彼女と歩きながら、ふと感じた矛盾を訪ねてみた。

「……あぁ、そうよね。混乱させてごめんなさい。冒険家ってのは自称……っていうより憧れなの。いつかなりたいなっていう夢。今は里を出たばかりのただのエルフよ」

噂で聞いた事がある、エルフは16歳になると世界各地の森を守るために森に滞在する試練…義務があると。

「そうなのか、じゃあ冒険家になったらまずうちの王都に来なよ。助けてもらったお礼に案内するよ」

自然と女の子をデートに誘うような事を口走ってしまった事に驚く、俺は研究員として仕事一筋で生きてきたはずなのに。…と言ってもまだ二十歳そこらだけど。

「あら、デートの誘い?ふふ、そうね。いつか立ち寄らせてもらうわ」

彼女は俺の考えが筒抜けかのように嬉しそうに微笑み、笑った。

「ロヴ!一体どこを歩き回ってるんだ!」
「あ、ゼロ。やっと見つけた」
「こっちの台詞だ!まったく…」

護衛兵士の名はゼロ。
十も歳上だけど、俺が子供の頃から付き合いのある歳の離れた親友でもあった。

「ゼロ、紹介するよ、彼女が案内してくれた……あれ?」

彼女は既に姿を消していた、まるで出会った事すら夢幻のように。


「夢でも見てたのか?しっかりしてくれよ」

助けてもらった事、ゼロに引き会わせてくれた事を話しをするもゼロは茶化すようにそう言った。

(本当に…夢か幻だったのか?)

しかし、「名前がない」と言った時に見せた…虚ろげな…消え入りそうな顔をした彼女の姿はしっかりと目に焼き付いていた。

~~~~~

-4年後-

研究者として一心に取り組んだ功績を買われ、俺は研究機関の上級研究員にまで登りつめていた。
結局あの後…エルフの少女に会う事は無かったが何処かで元気にやっているのだろうか。
あの哀しそうな顔だけは忘れられずにいた。

「ロヴ、話があるんだがいいか?」

1日の仕事を終え休んでいた俺の部屋にゼロがやってくる。
ゼロも能力と元々の剣の腕により、王国騎士隊長の座にまで登りつめていた。

「どうした?仕事終わりか?」
「直にお前にも話が通達されるだろうが…大規模の遠征任務が入ったんだ。護衛騎士が俺を含め数十名……研究員が数人…全て上級員により構成される危険な任務だ、お前の名もあった」
「お前が事前に話をするって事は相当なんだろうな…それで?」
「場所はあの『名前を与えられた島』、噂の『悪魔島』だ」
「……………本当か」
「名賢人達が遂に腰をあげたらしい、五ヶ国による共同任務だ」

そこは今、多くの国で問題視されている未開の島。
国に所属しない正体不明の『占画士』と呼ばれる部族集団により名付けられた文字通りの悪魔の住む島の通称。

そこには忌み字と呼ばれ、名付けに禁止されている文字をどうやったのか生物に刻む事に成功した『忌み名』と言われている人間達が占拠し、生活しているとの噂があった。

「何が起きるかわからない、それに長旅になる。身辺整理だけは済ませておくんだ」
「……そうだな」
「まぁ……研究員達は俺が必ず守るさ。お前に話したいのはそんな事じゃないんだ」

……?じゃあ何を…

「各国より集められた精鋭騎士が連携訓練のためにこの国に集められている、その中に……お前が昔から話していた……」

「ゼロ、そこからは私が引き継ぐわ。覚えているかしら?久しぶりね」

扉の向こうから話を聞いていたのか突然話に割って入室してきた人物がいた。


「……あ」
「デートに連れていってくれるのよね?それともあれは単なる社交辞令だった?」


それは刻を刻んでもまったく変わらない、凛とした…名前の無いブロンド髪のエルフの剣士だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...