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第二章 命名研究機関との戦い
第五十七話 昔話①
しおりを挟む「名前が……ない?」
俺の名前はロヴ、ある国の王国研究員。
研究調査の一貫で広大な森に来ていた所……護衛の兵士とはぐれてしまい森の野獣に襲われかけていたところを助けられた。
俺を助けてくれた少女はどうやらエルフ族。
綺麗なブロンドの髪をなびかせるその立ち姿は凛としていて、余所の種族に排他意識を持つと言われているエルフ族のイメージには良い意味で合致していた。
見た目は少女にしか見えないがとても大人びていて、今年二十になる俺よりも歳上のようにも感じる。
少女は第一印象から少し変わっていた。
というのもこの世界で「貴女は?」などと訪ねた時に、名前を教えてほしいという意味合いはない。
それを教えられない事など常識だし、こちらも名乗ってほしいわけではない。
しかし彼女は真っ先に…名乗ってはいないが名前の事を意識した。
助けてもらって何だがエルフというのはそこまで変わり者なのか、と失礼な事を思ってしまう。
それが初めて出会ったエルフという種族における印象となった。
「立てる?」
「あ……あぁ」
彼女は名前の事についてこれ以上話す気はないようで、尻餅をついた俺に手を差し伸べる。
「私は少し前からこの森の管理を任された者。貴方はどうしてこの森に来たの?冒険家?」
「い…いや、俺はルブラネイル王国の研究員だ。この森には地質や生態調査に来たんだ?」
「一人で?」
「いや……護衛の兵士とははぐれてしまって…」
「……そう」
そう言って彼女は俺を通りすぎ歩いていく。
「……どうしたの?ついてきて」
茫然としてる俺に彼女は言った、どういう事だろうか?
案内でもしてくれるっていうことか?
初めて会うエルフ族に普通であれば警戒し、罠の可能性を考えるのだろうが…俺は自然に彼女についていく。
変わり者であるという印象と共に、どこか不思議な魅力を感じていたのは確かだった。
--------------
「さっき冒険家って言ってたけど…それで森の管理を任されてるってのは……どういう事なんだ?」
俺は彼女と歩きながら、ふと感じた矛盾を訪ねてみた。
「……あぁ、そうよね。混乱させてごめんなさい。冒険家ってのは自称……っていうより憧れなの。いつかなりたいなっていう夢。今は里を出たばかりのただのエルフよ」
噂で聞いた事がある、エルフは16歳になると世界各地の森を守るために森に滞在する試練…義務があると。
「そうなのか、じゃあ冒険家になったらまずうちの王都に来なよ。助けてもらったお礼に案内するよ」
自然と女の子をデートに誘うような事を口走ってしまった事に驚く、俺は研究員として仕事一筋で生きてきたはずなのに。…と言ってもまだ二十歳そこらだけど。
「あら、デートの誘い?ふふ、そうね。いつか立ち寄らせてもらうわ」
彼女は俺の考えが筒抜けかのように嬉しそうに微笑み、笑った。
「ロヴ!一体どこを歩き回ってるんだ!」
「あ、ゼロ。やっと見つけた」
「こっちの台詞だ!まったく…」
護衛兵士の名はゼロ。
十も歳上だけど、俺が子供の頃から付き合いのある歳の離れた親友でもあった。
「ゼロ、紹介するよ、彼女が案内してくれた……あれ?」
彼女は既に姿を消していた、まるで出会った事すら夢幻のように。
「夢でも見てたのか?しっかりしてくれよ」
助けてもらった事、ゼロに引き会わせてくれた事を話しをするもゼロは茶化すようにそう言った。
(本当に…夢か幻だったのか?)
しかし、「名前がない」と言った時に見せた…虚ろげな…消え入りそうな顔をした彼女の姿はしっかりと目に焼き付いていた。
~~~~~
-4年後-
研究者として一心に取り組んだ功績を買われ、俺は研究機関の上級研究員にまで登りつめていた。
結局あの後…エルフの少女に会う事は無かったが何処かで元気にやっているのだろうか。
あの哀しそうな顔だけは忘れられずにいた。
「ロヴ、話があるんだがいいか?」
1日の仕事を終え休んでいた俺の部屋にゼロがやってくる。
ゼロも能力と元々の剣の腕により、王国騎士隊長の座にまで登りつめていた。
「どうした?仕事終わりか?」
「直にお前にも話が通達されるだろうが…大規模の遠征任務が入ったんだ。護衛騎士が俺を含め数十名……研究員が数人…全て上級員により構成される危険な任務だ、お前の名もあった」
「お前が事前に話をするって事は相当なんだろうな…それで?」
「場所はあの『名前を与えられた島』、噂の『悪魔島』だ」
「……………本当か」
「名賢人達が遂に腰をあげたらしい、五ヶ国による共同任務だ」
そこは今、多くの国で問題視されている未開の島。
国に所属しない正体不明の『占画士』と呼ばれる部族集団により名付けられた文字通りの悪魔の住む島の通称。
そこには忌み字と呼ばれ、名付けに禁止されている文字をどうやったのか生物に刻む事に成功した『忌み名』と言われている人間達が占拠し、生活しているとの噂があった。
「何が起きるかわからない、それに長旅になる。身辺整理だけは済ませておくんだ」
「……そうだな」
「まぁ……研究員達は俺が必ず守るさ。お前に話したいのはそんな事じゃないんだ」
……?じゃあ何を…
「各国より集められた精鋭騎士が連携訓練のためにこの国に集められている、その中に……お前が昔から話していた……」
「ゼロ、そこからは私が引き継ぐわ。覚えているかしら?久しぶりね」
扉の向こうから話を聞いていたのか突然話に割って入室してきた人物がいた。
「……あ」
「デートに連れていってくれるのよね?それともあれは単なる社交辞令だった?」
それは刻を刻んでもまったく変わらない、凛とした…名前の無いブロンド髪のエルフの剣士だった。
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