60 / 72
第二章 命名研究機関との戦い
第五十六話 ただの出逢いから
しおりを挟む「うっ……うっ……ぅぅっ……ぐすっ……」
リーフは俺の腕の中でずっと泣いていた。
「……」
リーフに何があって、何を思ったのかは話せるようになるまで聞く気はないし、記憶も心も探らない。
だから俺は一言も話さず、だけど一刻も手を離さずリーフを抱きしめていた。
それがどれくらいの時間かはわからない。
もしかしたら一分くらいだったかもしれないし、もう世界の終わりを迎えるくらいまでの時間を過ごしたのかもしれない。
それくらいの静かな時間だった。
「どうやら全てを思い出したようだな」
リーフの後ろにいた男が静寂を打ち破る。
心と記憶を読んでもう知っていた、この男が『命名研究機関』トップ。
研究所の室長にして一連の事態を起こした黒幕。
名前は『ロヴ』
白衣を身に纏った姿は研究員としてのイメージからは程遠いほどのスマートな筋肉質。壮年ではありそうだが蓄えた髭と短髪の茶髪からは若々しさを感じる、ダンディズムという言葉が似合う風貌の男だった。
男は抱き合っている間もただただ俺達の事を何をするわけでもなく眺めていた。
何か…その情景を慈しむような……懐かしさを噛みしめるようなそんな瞳で。
その意味を、俺は既に知っていた。
ザッ
抱き合う俺達とロヴの間に目を覚ましたエレとアイが立ち塞がるように割って入る。
逆に倒れた幹部達と俺達の間には佰仟、殺、しゃん、不思議ちゃんが俺達を囲うように立ち塞がっていた。
「役に立てなくてすまない、ナナシさん。もう大丈夫だ、二度とあんな醜態は晒さん」
佰仟が俺に詫びるように言った。
「閃光騎士を連れて逃げるであります、時間稼ぎくらいならできるであります」
殺が覚悟を決めたように言った。
「そうにゃ、お詫びにそれくらいはさせてよぅ。リーちゃんと一緒に先に行って」
エレメントとアイはロヴと戦う気でいるようだ。
「今度こそ…お姉ちゃんの事…お願い」
「……娘は二人いたのか、成程…リーフレインが必要以上に名を高めたのも妹の存在を隠すためだったか……ヒトには目的を話しておくべきだったな、そうすればこんな遠回りをしなくて済んだかもしれん…………本当に生き写しのようだよ」
アイが俺に決意を託すと同時に、ロヴがそれを遮るようにアイを見て一人言を言う。
「……?どういう事?さっきそっちのフードの奴も言ってたけど……アタシとお姉ちゃんに何の恨みがあるのよ、何にしてもこっちももうアンタ達を許す事はできないけどね」
フードの初老、ゼロは依然倒れたままだ。
【氷の造花】
ピキピキ…
俺はゼロの命を再生する。
「!?な、何をやってるにゃ!ナナシッ!」
それに驚いたエレが声を荒げる、まぁ当然だろう。
「この方が事情を話しやすいと思って、さ……」
ゼロの記憶も読んで俺は知っている。
研究所……というより『ロヴ』と『ゼロ』……この二人の目的を。
「…………………ロヴ……もう……よいのか…?」
目を覚ましたゼロはロヴに向け言った。
「……あぁ、ようやく、わかった……随分と…遠回りをしたもんだ…」
研究所室長は遠い目をして、ゼロに言った。
「な、何が?どーいう事だーるる?し、室長…ゼロ…あーんた達は何を言ってるんだーるる?」
幹部であるスピリットでさえ、事情をわかっていなかった。
何故この侵入者達を捕らえるなり戦うなりしないのかと困惑している様子だった。
「さっぱりわからないわよ、ナナシ…どーいう事なの?」
アイはたまらず俺にそう言った。
戦う気であったアイ達は、動こうともしないロヴとゼロに毒気を抜かれたように立ち尽くす。
「………大丈夫…二人にはもう戦意はないよ……」
ロヴとゼロ………そしてリーフ。記憶を詠んだ俺。
真相を知る中で話を始める気があるのはどうやら今俺だけのようだ。
俺は自分の傷を治すことなく、少ない体力でこの騒動の奥にあった本当の目的……真実を語る。
「リーフとアイを……必要としたのも……有用な能力者を集めたのも……願叶を必要としたのも……」
『それ』を叶えようとしたため。
無論その手段ややり方は許される事ではないし、真相を知った俺もこの二人…ひいては研究所を許す気もない。
必ず償いはさせる。
「そもそも……研究所を創設した事さえも……」
研究所員、幹部すら利用した二人のたった一つの目的。
それは前の世界では到底目的たりえないもの。
何故ならそれを叶える事は、容易いから。
しかし、この世界でそれを叶えるのはとても難しく、徹底管理された中で目的を達成するのは困難だった。
死者を大勢出し、誰かを傷つけて、とんでもない遠回りしなければいけないほどの。
「全ては、ただ、ある人の名前を知りたかっただけだったんだ」
~~~~~~~~~
-34年前-
「やぁっ!!」
ズバッ!
「大丈夫、君。ケガしてない?」
「あ、あぁ。ありがとう……貴女は?」
「名前は……ないわ、ただのエルフの冒険家」
それは後に女帝と呼ばれるエルフの剣士と一人の男の
何の変哲もない出逢いから始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる