名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第二章 命名研究機関との戦い

第五十九話 昔話③

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ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!
ドゴォンドゴォンッッッ!!

バァンッバァンッ!!

上空には暗雲が立ち、雷が船へ降り注ぎ、波が荒れ狂う。
竜巻が飛来し、大砲が飛び交い、火柱が海から舞い上がる。

この光景は全て人の力によって起こされていた。

「右舷方向に竜巻を使う能力者がいる!『バリア』!結界を張れ!」
「や、やっていますが力が強すぎます!これ以上もちません!」
「ゼロ!私が先行して上陸するわ!貴方の能力でできるだけ封じて!!」
「女帝!一人では危険です!!」

悪魔島に辿りついた俺達を待っていたのは、原住民達による洗礼だった。
船は島に接近する前に海岸にいた住民達により既に船としての機能すら果たせずにいた。
浸水し、帆は破れ、形でさえももう船と呼べる物ではなかった。

「ロヴ!!彼女を止めろ!撤退する!目論見が甘すぎた!」
「…っ!戻るんだ!」
「もう無理よ!近づきすぎた!旋回する前にこれじゃあ船がもたない!!私が時間を稼ぐから何とか離れて!!」

俺の手は届かなかった、その前に彼女は船から跳んでいた。

ドォンッ!ドォンッ……ドォンッ…!

彼女はその一回の跳躍だけで遠く離れた海岸付近に着水し、飛び交うありとあらゆるスキルを払いのけ住民達をなぎ倒していた。

「す、すごい……さすが女帝…好機だ!今のうちに撤退する!」
「か、彼女は!?」
「船が攻撃の手の届かないところまで離れれば女帝ならば戻ってこれるだろう!だが船が大破したら彼女が戻れないぞ!」
「そ、そうだな。急ごう!」

戦えない俺は必死になって船員に協力する。
彼女の相手をしながらも、海岸に並ぶ数十人いる原住民達から攻撃の手が休まる事はなかった。

ゼロ達護衛騎士が船を守ろうと奮戦する。

バァンッバァンッ!!パリィィンッ!
ドゴォンッッッドォンドォンッッッ………

……

「徐々にだが攻撃が収まってきた!これなら何とか大丈夫そうだ!離れて彼女を待とう!」

海岸を見ると彼女以外の人間は地に伏していた。
すごい……似合わないと呼び名だと思っていたが……その姿はまさしく『女帝』そのものだった。

遠くてよく見えないが彼女は疲弊した様子だった…が五体満足で無事そうだった。
ゆっくりと海岸の浅瀬を船に向かって歩いてくる。

…よかった!

そう安堵した時だった。


『……ロヴッッッ』!!


海岸は遠く、聞こえるはずはないのだが俺を呼ぶような声が聞こえた気がした。
それは間違いなく彼女の叫びだった。

彼女は何かに気付き、浅瀬から島の方へと引き返し走りだした。

彼女の向かう先には、まだ生き残っていた原住民が一名。

そいつが何の能力で、どんな名前の持ち主かは知らない。

ただ……それを俺が視認すると同時に船は津波に呑み込まれていた。


そしてそれがその時の俺の最後の記憶となった。


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--

……

……



次に目を覚ました時、俺は既に自国の王立付属病院の一室にいた。
傍らにはゼロが座っていた。

「……っ!よかった!目を覚ましたか!」

こっちの台詞だ……よかった…生きていたのか。
五体満足そうだが片眼には眼帯をしている…さすがに全てが無事とはいかなかったのだろう。
だが元気そうでよかった。

「すまなかった……俺の力が足りなかったばかりに……」

起き抜けにゼロは俺に謝罪する。
だが、そんな事はどうでもよかった。
あれを人の力でどうにかするなんて不可能だ。ゼロのせいじゃない。

「………みんなは…?」
「………生き残ったのは俺とお前だけだ…」

……そんな……

「全員の遺体は既に回収されたらしい、俺もつい最近目を覚ましたばかりだから詳細は聞いていないが……」
「……彼女もか……?」
「…いや、女帝の遺体はなかったそうだ」
「……………なら」

生きているかもしれない、もしかしたら島に取り残されているのかも。

「……助けに行こう……」

ググッ……

「お、おい!まだ起き上がるな!」

力は入らないし、体中が怠い……痛みもある。
だけど、そんな事関係ない。

しかしゼロに強引にベッドへと寝かされた。

「いいか、落ちついて聞くんだ。あの島への渡航は禁止された。もう調査も何もできない」
「……なっ!?」

普通に考えればこんな被害を出したんだから当然の事かもしれない。

しかし、こんなに早く…しかも彼女がまだいるかもしれないのに!?

「女帝は……遺体はないが死亡扱いにされたんだ。あれから……もう2年たっている」

ゼロが話すその事実に俺の全身から力が抜ける。
色々な思いが交錯したが、俺の頭の中を支配していた一番大きな感情はただ一つだった。

『後悔』

結局俺は何も彼女のためにしてやれなかった。
彼女の名すら知る事ができなかった。
彼女が笑いながら自分の名を誇り名乗る。
そして笑いながら二人、名前を呼び合う。

この世界ではそれは難しい事かもしれない。
この世界ではそんな事ですら簡単にできない。

「君」「女帝」「貴女」

誰もが使うそんな呼び方しか俺にはできない。


『……ロヴッッッ!!』

彼女は俺の名を叫んだのに。

俺は君の名を叫ぶ事ができない。

彼女の最後の顔は……あの時…名前がないと言った…哀しそうな顔のままだった。


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それから俺は所属する研究室を移し、ただ名前の研究に没頭した。
一心不乱に文献を漁ったり、命名の始祖である各地の神の神殿を廻ったり、世界中のありとあらゆる種族に名とそれにまつわる話を聞いてまわった。

時には拘束されたり不眠で研究し倒れたり暴行を受けた事もあった。
しかしそんな事、俺にとっては些事であった。

(彼女の生死はまだわからない…死亡扱いになっているだけだ)

もし彼女がまだ何処かで生きているのなら、また出会うその時のために『命名』についての全てを理解しておかなければならない…。

俺にとっては、それが今の全てだ。

しかし行き過ぎた調査方法が問題視され、俺は王国研究室の身分を剥奪される。
そして国からは追放処分を受けたのだった。

ダンッ!

「くそっ!!何でだよっ!!俺はただ…っ!彼女のために…」
「……ロヴ……」

痩せこけた俺の傍にいたのはゼロだけだった。
身寄りの無かった俺は、肩書きも住む場所も失い途方にくれていた。

「お前……そうまでして…彼女を…」
「………」
「…………安心しろ。俺はお前と一緒だ」

ゼロもあの悪魔島の騒動により家族とは疎遠になり独り身になっていた。

「ゼロ……」
「そんな顔をするな、一つ、いい話を持ってきたぞ」

それは命名研究を支援する国の研究所からの引き抜きの打診。
ゼロが知り合いに話をつけ、その国の研究室に迎え入れてくれるという話だった。

まさしく地獄で仏に会ったような申し出に俺は飛びつく。

(必ずっ……命名についての全てを知ってやる……っ!彼女のために…)

--------------

それから十五年。

俺は遂に研究所を統括するトップ…所長にまで登り詰めた。
そして新たな思想を掲げ『命名研究機関』と名を改める。

しかしその思想はあくまで表向き……支援してくれる者を集めるための単なる装飾。
目的は一切変わってはいない。
この頃からは……いや、初めから俺はずっと彼女の幻影ばかりを追ってありとあらゆる手段……おおよそ真っ当ではない手段も講じ始める。

その主たる理由は政府による管理システム…登録番号制度の制定、確立だった。
それによりただでさえ人の名前を知る事が難しいこの世界でより一層人々の名を知るのが困難になった。

俺は研究の頓挫を防ぐため貴族との繋がりを作り一部の高官を抱き込んで裏ルートを形成する。
それは名だたる人材をこの組織に抱き込むため。
目的を遂げる為には有能な人材の情報、確保が不可欠であったためだ。

彼女がもう死亡している可能性も考え、『魂』『古心』『無限』『不思議』…思いつく限りの人材を勧誘する。
更には足のつかないように人身売買を行う行商を支援し、有能な人材を見繕い横流しも受けていた。


全ては彼女のため。

その免罪符を振りかざし。


…しかしそんな時だった。
ゼロから彼女によく似たエルフの少女の存在を聞いたのは。

よくよく調べあげていくと彼女は既に死亡していた。
あの悪魔島でではない。

彼女は結婚し、子を儲け、里で数年前まで隠居していたという。
排他的なエルフ達からはそれ以上の情報は得られなかったが、どうやら事故により亡くなったらしい。


(そうか……やっぱり生きていたんだな…)

しかし彼女が少し前まで生存していた事実に安堵し、その幸せを喜ぶには

俺はもう、悪事を知りすぎていた。

その心まで悪事事の旨みを知り汚れていた。


最初に出てきたのは……『嫉妬心』
恐らく彼女は新しい名を自身につけ、配偶者、その娘に名を呼ばせていたのだろう。

何故自分が最初ではなかったのだろうか。

俺がもう既に死亡したと思っていたから?

俺は彼女の生存をつい最近まで信じていたのに?

薄汚れた嫉妬心は、同時に知る事になったあらゆる願いを叶える少女の存在により更に濃くなっていく。


俺は一体何のために全てを捨てたんだ……


「ロヴ……やはりあのエルフの少女は女帝の実娘じゃそうだ。名は『リーフレイン』。閃光騎士と呼ばれ既に各地の王国にも強い繋がりを持つ齢18にしてエルフ本国の上級騎士。やはり女帝の血じゃな」
「…………」
「どうした?嬉しくないのか?これでお前の長年の悲願がようやく叶うというに……娘に母の名を聞けば……」
「…………ゼロ……俺達も歳をとったな……」
「?あ、あぁ……」
「こんな薄汚れた姿を見て……彼女は……どう思うんだろうな……前みたいに……微笑みかけてくれるんだろうか……」
「ロヴ……お前何を言って……」
「……俺が名を聞きたかったのは彼女自身にだ。娘からじゃない。ヒトに伝えろ。願いを叶える少女の確保を最優先。そのために周辺にいる能力者達は勧誘、できなければ排除しろと」
「……ロヴ……」

体のいい事を言ってはいたが、俺はただ恐かっただけだ。
彼女の娘……それを見てこの汚れた心を抑えきれるか。

いや、それもただの言い訳。

彼女の娘に…彼女に、あの哀しそうな目で見られるのが恐かった。

こんな体も心も汚れきった俺を。

きっと笑いかけてはくれまい。

だったら俺はもう君の笑顔は見れなくてもいい。

どんな手段でもいい。君の名を知り、それで終わりにしよう。

きっと君の中にも、君の残した者の中にも

俺はもういないんだから。

そう、君の笑顔を見たいとか君の名を知りたいとかずっと誤魔化していたが、突き詰めれば単純な事だったんだ。
その感情一つのためだけに、俺は全てを懸けていただけなんだ。


ー そう、俺は君に恋していただけだったんだ ー


















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