名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第二章 命名研究機関との戦い

第六十話 裏切り

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「………」

昔話の語り手は途中からその当事者…本人に代わり、続けられた。

その間、この空間にいる人間。
俺とリーフ、アイ、佰仟、エレ、殺、しゃん、不思議ちゃん。
ゼロ、蘇生した五人の幹部達。
それぞれが神妙な面持ちで、それぞれの想いを抱えながら無言で話に聞き入った。

「それからは……お前達も知っている話だ。願いの少女を拐い、あわよくば彼女を生き返らせようとした。……わかっていた事だが…そう簡単にいかなかったがな…」

ロヴは話を続ける。
リーフを抱きながら、俺だけがロヴと対話する。

「簡単にはいかない?」
「…命名の研究を続けてわかった事だ。大きな能力の発動には必ずリスクと条件がつきまとう。ありとあらゆる願いを叶えるなんて能力が無条件で無制限で発動できるのなら世界など簡単に変わってしまう」

……確かに、それは俺も知っていた事だ。

「じゃあ……『願叶』は無事なのか?」
「……さぁな、ヒトに全てを任せていたが…最早どうでもいいさ。俺の長年の想いは叶った……もう、全て終わったんだよ」


バチンッ!!

突如、殴打音が静かな空間に鳴り響く。

アイの仕業だった。

ロヴに近づき、頬を叩いていた。
ロヴはもう避ける気もなさそうだったので叩かれた衝撃で思い切り顔が横を向いている。

「……たったそれだけの事で……ずっとこんな事してたの……お姉ちゃんをこんな目に合わせて……」
「……」

後ろからなのでわからないが、アイは涙をこらえているような声色で……だけどしっかりとした口調でロヴと対峙していた。

「巨人の皆も、アールステッドの町も、ただ…お母さんの名前を知りたいってだけで……」
「……ああ」
「……だったら…普通にアタシ達に聞けばよかったじゃない……あんたは……ただの我が儘の弱虫よ…」
「……ふっ…まったくその通りだな……」

ロヴの心情は読みとった。
彼はやってきた事に関しては一切の後悔をしていなかった。

しかしリーフと対峙して、そこに母親の姿を見た。
それによりそこに母親の姿を重ねた彼は初めて罪悪感と…母親の名を知った事で全ての事を終わらせようと、今ここに立っていた。

「すまなかったな……姉の事は。もうお前にもお前達にも手は出さん。俺は全ての事を話して牢に入る事にする」
「……っ!」

戦ってぶつけようとした感情の行き場を失くしたが故、もう一度頬を叩こうとアイは腕を振りあげる。

「…やめろ、アイス。もういいんだ」

それを止めたのは俺の腕の中にいたリーフの言葉だった。
鼻を赤くしていたが涙は止まっていた。

「お姉ちゃん……」
「ありがとう……アイスと旦那様のおかげで気は晴れたよ」

アイの手は空中で止まっていた。
リーフは俺の腕を離れアイの所へ行き、その手をとって下ろし握った。

「これは…母さまとその男が皆を戦いに巻き込んだ報いだ。もういない母の代わりにそれが私に降った。それだけだ。お前に何かある前に終わらせる事ができて良かった」
「……お姉ちゃん…っ」
「無論、その男には責任をとってもらうがな。それ以上は不用な戦いだ、もうこれ以上皆を巻き込みたくない」

今度はリーフがアイを抱き締める。

この女性は……本当に強い。
どんなに傷ついても、何があっても直ぐに立ち上がる。
きっと最強の呼び名の所以は…能力だけではなく、こんなところからもきているのだろう。

彼女…リーフレインはやはり最強だ。

「旦那様も……宜しいですか?」
「……あぁ、リーフがそういうなら。皆もいいかな?」

誰も異を唱える者はいなかった。

「こちらも同じじゃ、幹部達よ。所長命令じゃ。裏の研究所は本日を以て解体する。お前さん達は儂とロヴにより命令されて悪事に関わっていただけじゃ。それでも罪に問われる事になるじゃろうが…全ての罪は儂とロヴにある。証言しよう」
「ゼロ、お前もだ。全部は所長の俺の責任だ。お前は関係ない」
「…水臭い事を言うもんじゃない、昔言ったであろう。儂はいつでもお前と一緒じゃと」
「……ゼロ……」

納得いっていない顔をしている者もいたが、幹部達も誰も何も言わなかった。
どんな思想で集ったにせよ、多少なり所長達に惹かれていたところもあるのだろう。
その心の程は読まないので知る由もないが。

だが、大団円とまではいかないものの、これで長かったような短かったような研究所との一件にはケリがついた。



そう思った。


「……ふざけないでよ……」


突如この場にいる誰の者でもない声が全員の耳に届く。

それは先程まで俺と対峙していた女性。

実験室に縛りつけてきたはずの女性。

『人心掌握』

「今まで…わたくしは…わたくし達はそんな事のために……所長!全ての名を集め政府に成り代わり我が研究所が全ての名を管理する計画……それらも全て嘘だったと言うのですかっ!?」

彼女は悲壮な面持ちでロヴに叫ぶ。

「実験の成果により産まれた名を持つ道具達もっ…!名前の奪取に成功した事もっ…!全てそんな理由の副産物だとでも言う気なのですかっ!!」
「……その通りだ、『ヒト』今まで御苦労だった。全ての成果は好きにすればいい。お前も罪を償った後でな」

ロヴはそれに淡々と応える。

「……っ!!」

その答えに、何かを言いたげな顔をしたヒトだったが下を向き何も言わず項垂れた。

「……ん…でっ………わ……し………は……けん………」

誰にも聞こえないような声量で何かをブツブツと呟くヒト。

ヒトの記憶を詠む。
心と記憶は色々な思いと映像でフラッシュバックされごちゃ混ぜに混乱している。

彼女はどうやらこの研究所にいる事、命名研究、そして所長達に仕える事を誇りに思い心酔していたようだ。
彼女の母も研究員で幼い頃からそれに協力していたそうだが上手く読みとれない。

「………………」

彼女の呟きが止まると同時に、俺の中に…ある思いとイメージが飛び込んできた。


!!

それは心と記憶を読む能力を手に入れてから
初めて感じる程の……もう全てを終わりにしようと達観していたロヴの心より穏やかで。
ただ金儲けに興じていた奴隷商よりどす黒く。
両親を全能に殺された古心より哀しげな感情。

思わず心を読むのを止めてしまう程の、静かな哀しい悪意。
しかし彼女が今から何をしようとしているのか。
それだけははっきりと読み取れた。


そんな馬鹿な!

俺は彼女の近くにいた佰仟達に叫ぶ。


「みんなっ!!彼女を止めろぉぉっ!!!」


しかし遅すぎた。
油断した。

彼女の後ろにもう一人いる事に何故気付けなかった!?


「遅いわ、『キラキラ』願いなさい。「皆動けなくなるように」」

「うん、「皆が動けなくなりますように」」


そこには、目に光のない、願いを叶える少女がいて。

少女の願いを叶えた。


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