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序章第一節 警備員 石原鳴月維、異世界に上番しました。
一.警備員 石原鳴月維
しおりを挟む『警備員(ガードマン)』
建築物建造や道路工事に伴いよく見かける職業。
その多くは定年退職したり他に就く充てがない高齢の人が流れ着く最期の砦。若くして警備員に就く人間はあまり多くはないだろう。若いのに警備員をやってる人間もいるが、それは警備員の仕事が好きなやつか他の夢を叶える為に日銭稼ぎとしてやっているやつかの大体二択だ。
日銭稼ぎとしては警備員の仕事はわりと悪くない。
一日外に立っていなければならない体力や精神力は必要とされるが慣れてしまいさえすれば特にする事なく一日を終える事も多い。かくいう警備員の俺もこの職業は嫌いではない。別に好きでもないが。
それに今では社会保障もしっかりとしているし日当も上がっている。そして何より良い所は現場次第では一時間もしないうちに仕事を終える事ができるところだ。それで一日分の給料を貰えるのだから割がいいとしか言い様が無い。仕事を午前中に終え、午後を目一杯趣味の時間に費やす事ができる職業はあまり多くはないだろう。資格さえとれば月給に至ってはそこらのサラリーマンよりも多く貰い、ストレスフリーで過ごせるのだから悪くない。ボーナスなんて大層なものは勿論ないけど。
「じゃあ石原さんよろしく」
「承知致しました」
俺の名前は『石原鳴月維(いしはらなつい)』
20歳の時から15年この業界にいる。出入りの激しいこの業界においては10年選手もごく稀(まれ)だ。若い時は当然現場監督や職人達も歳上だったのに、いつの間にか敬語で話される事も多くなった。俺の目つきとか雰囲気が怖いだけかもしれないが。
俺には夢なんて大層なもんはない、よく同業者の年寄り連中にも「何でこの仕事やってるの?」なんてよく聞かれるが別に理由なんてない。ただ楽だから、性に合ってるから。それだけだ。なんとなく生きて、なんとなく幸せであればそれでいい。
マイペースとしょっちゅう言われるが、それの何が悪い。人のペースに合わせて生きるなんて真っ平御免だ。何もせずゆっくり過ごして何もせずに人生を終える、それが俺の理想。
そういう意味でも警備員は俺の天職、警備員は何もしてないわけじゃないけど。まぁ施設をブラブラ巡回なんかでほとんど何もしてない事もあるか。
楽に仕事ができてほぼ定時上がり、警備の資格はなんとなく取ったので一人で暮らすには有り余る給料。土日はほぼ休み、どれも長続きしないが趣味の多くを費やせる。
素晴らしきかなだらだらな人生。何と言われようと俺は死ぬまでこんな感じでなんとなく過ごす。
--------------
今日の仕事は一人でただの幅寄せ。
片側三車線の一車線を積み卸(おろ)し車両で潰すので車の後ろで旗振り、誘導。
それだけ。
通行車両の多い検定道路だが車は勝手に避けてくれるし何も問題ない。しかも業者の話だと二時間くらいで終わり、俺の今日の仕事はそれで終わりだ。今日は金曜明日は休みなので実質三連休。昼から何をして過ごすかな。
そういえば施設警備の時に暇だったから警備室で後輩から借りた異世界何とかの漫画を読んでたんだった。主人公がトラックか何かに轢かれてファンタジーの異世界に転生する話。意外と面白かったから続きを買って読んでみるか。
しかし、トラックに轢かれるなんてこの仕事をしていると他人事ではないな。道路に出る仕事だとビュンビュン真横を大型車両が走っている。
中には居眠りとかスマホ運転も
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
「石原さんっ!!! 危なっ………!!」
「……」
ドゴオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!
「「キャアアアアアアアッッ!!?」」
歩行者の悲鳴が聞こえる……言ったそばからこれだ。
車線を移るよう誘導してたにも関わらずカラーコーンの区画と俺と積み卸しの工事車両に向かってトラックが突っ込んできた。車両は共に大破。カラーコンはほぼ破壊され、工事車両とトラックはまるで一つになったかのようにひしゃげてくっついている。辺りには車の部品や窓ガラスが散乱。現場は凄惨(せいさん)だ。
若い現場監督がぶつかった車両同士の大破している接触部分に向かい叫ぶ。
「い、石原さん! 石原さん! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ」
「うわぁっ!?」
不幸中の幸いは怪我人が一人も出なかった事か、いや突っ込んできた車の運転手は見えないからわからないけど。
俺は現場監督の後ろから声をかけた。監督はびっくりしていた。
「石原さんっ!? いつの間に……避けたんですか!?」
仮にも一級資格のある警備員をなめるんじゃない。こんな事はKY(危険予知)で予測済みだ。
----------------------------
☆MEMO
『KY(危険予知)』
現場作業をする職人や警備員が事前に必ず立てなければいけないもの。作業をするにあたってどんな危険が存在するかを作業前に話し合い、回避行動をあらかじめに立てておく。
----------------------------
こちらに向かって来ると事前にわかっていれば避けるのは容易い。
突っ込んできたトラックの運転手がスマホを見ていて工事区画をまったく見ていなかったのを確認していたから。回避行動として隣の歩道まで退避していたのだ。
「それよりも現場整理をしよう。救急車は呼んでおいた。俺はこのまま誘導を続けるから監督は運転手を救助できるか確認しろ。通行人にも協力を仰いで」
「は、はい! わかりました!」
監督なんだからおろおろしてんじゃない。とりあえず俺は二次災害を避けるため警察と救急が来るまで事故現場の後ろで誘導を続けた。
さて、とんだハプニングがあったが俺には関係ない。これ以上事故が起きないように仕事を終えるだけだ。帰ったら今日は何をするか。
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
「いっ! 石原さん!!!」
「ん?」
ドンッ!!グシャアアアッ!!
今度は逆方向から車がスッ飛んできた、車の進行方向の向こう側から。
道路の逆走。さすがにそんなん予測できるかい。
まったく何て日だっ!
俺は心の中で芸人のように突っ込んだ。突っ込まれたのは俺だけど。
「石原さん! 石原さん!」
微かに監督の声が聞こえる。朦朧(もうろう)とする意識の中、なんとなく考える。
結構気にいってたのになぁ、このダラダラ人生。
死んでしまうのは結構だが、もし生まれ変わりがあったとしたらーー
ーーまた一から人生をやり直すのすげぇ面倒くさいから絶対ごめんだ。無にするか、この年齢のまま異世界かなんかに飛ばしてくれ。
それが俺のこの世界での最期の記憶になった。
10
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