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序章第一節 警備員 石原鳴月維、異世界に上番しました。
十一.10時間立哨
しおりを挟む「な……何もせずに十時間……立っている……?」
試験者どもが騒ぎ出す。何をどよめいてんだこいつら。
「はい、そうですね。更に言うなら会話、歩行、食事、座る事、睡眠…全て禁止ですね。トイレは生理現象ですので仕方ありませんが十時間のうちに二回まで……時間は一回10分とさせていただきますね。禁止事項を破った者はその時点で脱落……リタイアしたい者はいつでも受けつけていますので言ってくださいね」
<……それだけ?>
<何だ……俺ぁてっきり魔物と戦うもんかと……>
<そんなんで試験になんのか?>
<楽勝じゃねぇか>……………
試験者どもが一斉に安堵の表情を浮かべる、どうやらもっと派手な試験を想像していたようだ。
「……イシハラさん……どういう事でしょう……? 立っているだけなんて……何か裏があるんでしょうか?」
「知らん、けど裏もクソもないだろう。警備にとってまたとないふさわしい試験じゃないか」
「……立っている事が……ですか? 私のいた世界では警備という職業が無かったものでわからないのですが……警備というのはそういうお仕事なのですか?」
「あぁ、立哨(りっしょう)は基本だ。何も起こらなければずっと立っているだけだぞ」
「……それだけでお金が貰えるのですか……? 信じられません…」
それだけで済めばいいけど。俺は元々警備員だったから平気だが、警備員をやった事のないやつがよくそう言って楽そうというがとんでもない。警備というのはそんなに甘くない。
仕方ないな、警備っていう職業が無い世界のムセンには不利だから少しフォローをいれといてやるか。他のやつらは知らん。
「ムセン、昨日試してみた事だが『技術』っていうのはイメージが上手くいけばいつでも使える、回復の技術が使えるだろ?」
「え? 私ですか?……はい、確か項目の中にそんな技術がありましたけど……それがどうしたんですかイシハラさん?」
「疲れたら試してみろ、それとこれは水だ。一つ持っておけ」
「え? え? あ、ありがとうございます……どうしちゃったんですかイシハラさん……でも食事は禁止では……」
「飲むのは食事には入らない、それに技術は禁止とも言っていない。俺が言えるのはそれだけだ、後は気力で耐えるんだな」
「??」
「ナンバー55、56の御二人。会話はそこまでですね。じゃあ始めますね、『警備兵試験』開始ですね」
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<試験開始から二時間経過>
カチッ……カチッ……カチッ……
「はぁ……はぁ……も、もうダメだ……精神がもたねぇよ! これを後八時間なんてやってられるか……」
「ナンバー16! 座った貴様も失格だ! ええい! 軟弱者どもが! ただ立っている事すらできないのか!!」
何か騒がしいな……まぁ何か動きがあればこっちも退屈しなくて済む。どうやら二時間で半分近くが脱落したようだけどどうでもいい。
試験場には大きな秒針時計があり、その音が静かな会場内に木霊している。それがたぶん試験者の心を削っているんだろう。後どれくらいで終わるか視界でわかってしまったら辛いもんな。俺は慣れてるし視界にはスマホの時間が映っているから関係ないけど。
脱落したやつらは帰る者もいれば隅に座って見てるやつらもいる。
何やってんだあいつら? というかもう二時間も経ったのか、脳内で歌を100曲くらい流してたから意外と早かったな。
さて、そろそろ飽きたし違う事でも考えるか。
「お、おい……さっきから見てるけど……あの変な格好の異界人っぽい男……一ミリも動いてないぞ……生きてるのかあれ?」
「さ……さぁ……まるで銅像みたいだな……」
「おい貴様!! ナンバー55の貴様だ! ずっとうつむいているがもしかして寝ているんじゃないんだろうな!?」
「………」
「貴様だ貴様! 答えろ! 会話を許可する!!」
ハゲは俺に向かって怒鳴っていたようだ。眩しいし喧(やかま)しいんだよこのハゲ。
俺は手を後ろで組んで、『休め』の体勢でうつむき瞑想(めいそう)していた。
これが一番楽な立ち方だ。
「あぁ、話していいのか。別に姿勢はどんなんでも禁止されてなかっただろ、これが俺の楽な立哨姿勢だけど文句あるのか?」
「……ふん! いいだろう! ただし貴様は注視しているからな! 少しでも寝ているとわかった時点で即失格だ! わかったか!?」
「わかったよハゲ、今瞑想してるんだから邪魔するな」
「……っ!!」
鬱陶しいハゲだ。せっかく脳内小説がいいところを迎えてるんだ、ハゲは登場しないから黙ってろ。
「……たかだか二時間程度はものともしていない様子ですね、それどころか最初からずっとあの姿勢のままですね。さすが天職の才と言ったところでしょうかね」
「………そうですか、やはり……」
「ですけどね……どうやらナンバー56……彼女の方はそろそろ限界のようですね。見るからに体調が悪そうですね、棄権させた方がよろしいかもしれないですね」
「はぁ……はぁ……はぁっ……」
「……ムセン・アイコム様………」
なんかいつの間にか見学に来ていた美人神官と秘書女が傍らにいた。二人はなんか申告そうなツラをしてムセンに目を向ける。
見てみると、いつの間にかムセンは汗だくになりながら今にも脱落しそうな様子だった。
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