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序章第三節 石原鳴月維、王都警備開始
四十六.王都警備
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〈ウルベリオン王都.西門から中央大広場への道〉
俺達は馬車に乗り西南地区にある貧民街を目指す。
「おいウテン、西門から西南地区に行くのに何故中央を目指す」
「馬車じゃ狭くて直行できない、それに住民の避難で塞がれてる可能性がある。迂回するのが一番速い」
なるほど、それなら仕方ない。『急がば疲れる』ってことわざもあるくらいだしな。
「なんですかその格言……当たり前を言っているだけのように聞こえますが……」
「左様」
「すだれおじさん途中で降りちゃったけど大丈夫かなー?」
シューズが無表情で何か言った。
そうだ、東門から入って西門に来るまでの間にスズキさんは馬車から降り家族の元へ向かったのだ。どうやら東地区にスズキさんの住まいはあるらしいが、粗方東門の魔物は片付けたし、どうやらアマクダリが東地区の避難誘導の指揮を取ってるらしいし大丈夫だろう。
無事に家族と会えるといいが。
「お母さん……大丈夫なのよ……」
「エミリさん……きっと大丈夫ですよ。各方角の魔物は未だ水際で食い止められていますし……南方面は山脈とお城です。そちらにはまだ魔物の出現は確認されてないんですよね? ウテンさん」
「そう。魔物は主に北から来ている。けど貧民街は街を外れた門の外側に位置しているから兵士を街へ総動員してる今、野良魔物に襲撃されていてもおかしくない」
「………ぐすっ……」
「ウテンさん! もう少し言い方を考えてください!」
「聞かれたから事実を言っただけ」
ムセンとウテンがケンカしている。何か仲悪いなこの二人。
「ぴぃ! 御主人様御主人様! 前方に人の波が出来てるぴ!」
前方を見てみると騒がしさと人の波に溢れかえっていた。
本当だ。通って来た時にはいなかったのに街の中央大広場にさしかかる道には大勢の人だかりが出来ている。
馬車を止めた俺達は降りて誘導をしている兵士みたいなやつに確認する。
「おい、何があった? 何だこの渋滞は」
「それが……予想より避難民の数が多く……各収容地区の規定人数を越えているために各方角から一時待機場所として中央広場に集まっているんだ」
避難難民か。中央大広場付近には数百の人だかりが出来ている、まだ大広場には余裕がありそうだがこれからも集まってくるならすぐに一杯になってしまうだろう。
「こんな場所に集まっても魔物が侵入したら包囲されるだけだろう。城を一時避難待機場所にすればいいのに。あの王ならそれくらい許してくれるだろう」
「そ……それが……」
俺がそう言うとそれが聞こえたのか避難難民が次々と声をあげた。
「そうだ! こんな開けた場所じゃあ格好の的じゃないか!」
「お城に避難させてよ!」
誘導していた兵士に非難が集中する。兵士は困り顔をしてしどろもどろになっていた。
「何かできない理由でもあるのか?」
俺は兵士に理由を聞く。この兵士も何か上から言われているのかもしれないからな、こいつに強く詰め寄っても仕方あるまい。
「……騎士軍団長様と軍師マリオン様が……城と貴族街へ続く大階段前に陣取っていて……避難民を通すなとお達しが……」
誰だそいつ、こんな(人生の)佳境に差し掛かって新キャラを出すんじゃない。よっぽど濃いキャラじゃないと人の顔に興味ない俺はもう覚えられんぞ。
「何を騒いでいるでおじゃるか」
よっぽど濃いキャラがいきなり現れた。何か兵士を引き連れて鼻毛をカールさせた小さいジジイだ。
「誰であるか! 今鼻毛とか言ったのは! これは鼻毛じゃなくて髭でおじゃる!」
鼻毛じゃなくて髭らしい。世界一どーでもいいな、俺は汚いおじゃる○を無視した。
「マリオン様! これ以上広場に人が集まれば……収拾がつかなくなります! 暴動に発展するかもしれません! 大階段上の貴族街や城であれば住民達も安心できるかと……」
「駄目でおじゃる。魔物は人間を感知し見つけ出す習性があるでおじゃる。マグマ・ブラッドセイバーが退けたとはいえ、飛竜隊がまだいないとは限らないでおじゃる。人が集まると城に残る王や貴族の住まいに被害が及ぶかもしれないでおじゃる、故に上街に避難させるわけにはいかないでおじゃる」
「そんな……」
「じゃあ私達はここから動けないの……?」
避難難民達は鼻毛丸の発言に顔を曇らせる。
「待ってください……っ! 貴族の住まいやお城を気にしていて街の人々が犠牲になったらどうするおつもりなんですか……っ!?」
そこへ馬車からヨロヨロと降りてきたムセンが口を挟む。本当にこいつは言い争いの渦中に飛び込むのが好きだな、俺達には関係の無い事だから放っておけばいいのに。
「誰でおじゃるか?」
「……っ異界人で……警備兵試験中のムセン・アイコムですっ……!」
「……事情を知らない異界人が口を挟むなでおじゃる。これは軍事系統指揮を王に一任されているワチキの判断でおじゃる、軍事上のワチキの策でおじゃるぞ」
「っ………! ……街の人を見捨てて空(から)の建造物を守るのが策なんですかっ!?」
「そうでおじゃるが? 王家と貴族が生存すれば、その後の復興の目処もつけられるでおじゃる。その際に象徴である城を残す事は必要不可欠でおじゃるよ。生存した民達を導いていく指導者たる者達とその象徴が」
「……っ!」
「ワチキはそれを守る事に最大限注力するでおじゃる、理想を論じて現実を手遅れにするわけにはいかないでおじゃるよ」
「………」
ふむ、鼻毛丸のくせにマトモな事を言っている。確かにその後の事を見据えるならば民を犠牲にして指導者を生存させるというのは合理的ではある。
しかも聞いたところ、この鼻毛丸はこの現場の最高責任者、王の代わり。これを感情論だけで説き伏せるのは恐らく不可能だろう。
「ウテン、こっちにこい」
俺はウテンを呼び寄せる、ウテンは馬車横で事を傍観していた。
「なに? いー君」
「街の防衛に手を貸してやるから取引しろ」
「…………なに?」
俺はウテンに耳うちする。
「………………………わかった」
俺の言葉を聞いたウテンはそう言ってこの場を離れた。
まったく、何で俺がこんな事しなきゃならんのだ。俺はさっさと試験を終わらせたいだけなのに。
だが、まぁ、この街と住民を犠牲にされちゃあ俺のダラダラ異世界ライフ計画が台無しになる。この街が無くなったら試験も就職も住居もアテがなくなる、飢え死に、ホームレス街道まっしぐら、異世界ホームレス。異世界系小説『異世界に行ったらホームレスになりました(完)』の誕生である。そんなのは御免だな。
仕方ない、今度こそこれが最後だ。これが終わったら絶対ダラダラ過ごすぞ。
『王都の警備』を始めるとしよう。
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